苦い蜜
-3-
気づいた時には、アナルの中で篠崎の指が蠢いていた。
「んぅっ……、んん…、んっ……」
甘ったれたような声を出し、勇人はうつ伏せでまるで赤ん坊のように自分の拳を唇に当てたまま、高く掲げた尻を緩々と揺すっていた。
初めての、そして逃れがたい快感。
篠崎の指がその部分を掠める度、尿意にも似た射精感が下腹部を襲った。
もっと強く、激しい刺激が欲しくて、腰を揺すってしまう。
その度に勃起したペニスが揺れ、下腹部に当たる。そして、その先から透明な露が糸を引いては滴り落ちた。
「可愛いですね、勇人君は…」
クスクスと楽しげに笑いながら篠崎は言った。
「良く焼けて肌は淳君より大分黒いですが、滑らかさは君の方が上だ。触っていても、指が心地いいですよ」
何を言われても、もう勇人の耳にははっきりと届いてはいなかった。それよりも、狭い穴の中で得られる快感を追うことに夢中だったのだ。
「んんっうッ……」
ポイントを強く擦られ、勇人は声を高くして喘いだ。
「気持ちいいですか?そろそろ、もっと太いものを挿れて欲しいかな?」
「んっ…、んっ…、んっ……」
訊かれて、勇人はじれったそうに何度も頷いた。
何をされるのか、おぼろげながら分かってはいた。
純がされていたように、そして、自分も淳にしたように、篠崎のペニスでアナルを犯されるのだろう。
だが、勇人には恐怖感は微塵もなかった。
それよりも、与えられるであろう、今までに体験したことのない快感を思い異常に気持ちが昂ぶっていく。それは、まともに息さえ出来ないほどだった。
淳に教えられた覚えたてのセックスに溺れた。
それを奪われそうになり、腹を立てて篠崎の元へ乗り込んだ。
そこで待っていたのは、蜘蛛の糸で作られた罠のような物だったのかも知れない。だが、勇人は今、自らそれに絡め獲られてもいいと思っていた。
「あッ……。んぁっ…、あっ…あぅ……んっ」
篠崎のペニスが柔らかく蕩けていたアナルの中をぐいぐいと進んできた。
僅かな痛みもあったが、それよりもその気持ち良さに恍惚となった。
早く激しく擦って欲しくて、勇人はまた尻を揺すった。
「もっとっ…、もっと…、もっと……ッ」
ぐっと腰が掴まれ、篠崎の笑い声が聞こえた。
「本当にいけない子ですね、君は…」
それからというもの、勇人はもう淳に電話することはなかった。
毎日、いそいそと篠崎の家に通い、セックスを強請った。
フェラチオを教えられれば素直に従い、言われれば目の前で自慰もして見せた。そして、篠崎の巧みな愛撫とアナルを犯される快感に溺れてしまった。
あれから淳はどうしたのだろう。
ふと、勇人は気になった。
あれから、この家に淳が来ている様子は無かったし、1度も顔を合わせることもなかった。
篠崎に訊いてみると、意味ありげな笑みを見せた。
「淳君はもう来ていません。ここで、彼と顔を合わせたくないでしょう?」
その言葉を聞いて、勇人は篠崎が自分の為に純を遠ざけたのだと思った。
嬉しかった。
淳ではなく自分を、篠崎が選んだのだと思ったからだ。
それを知ると、勇人は益々篠崎に夢中になった。
毎日何処へ出掛けているのかと母親に叱られたが、勇人は家を抜け出して、篠崎の家へ行った。
縁側の方がいつも鍵を掛けていないのを知っているので、真っ直ぐに庭に回る。そして、いつものように上がり込もうとして、勇人は異変に気づいた。
奥の、いつも自分が抱かれている部屋の方から声がする。
ハッとして、勇人は僅かに開いた襖に近づいた。
最初、また純が来ているのだと思った。
だが、声の主は淳ではなかった。
覗いた向こうに居たのは、篠崎と、そして見たことの無い男だった。
「んーっ、パパッ、パパァ……、もっと…、もっと…、もっと頂戴っ」
大きく脚を開き、篠崎に尻を与えているのは不自然に学生服を着た大学生くらいの男だった。
甘ったれた声で篠崎を“パパ”と呼んでいる。
まさか、篠崎の息子なのだろうか。
余りの驚きに、勇人はただ2人の動きを見つめた。
心の何処かで、篠崎は少年しか相手にしないものだと思っていた。だが、目の前に居る男はどう見ても大人だ。
そして篠崎が、自分を抱く時とはまるで違う目で彼を見ているのに気づいた。
「ああ、礼緒君…」
恍惚として、篠崎は愛しげに名前を呼んだ。
そして、勇人にはしたことのない優しさで彼の太腿や下腹を撫でた。
「礼緒君…、可愛い礼緒…」
上半身を近付け、篠崎は礼緒のアナルを突きながらその唇に愛しげにキスをした。
自分を相手にしている時の篠崎とは明らかに違う。
それを感じると、勇人は胸が苦しくなった。
サッと立ち上がり、逃げるように表に出る。
そして、門の所まで来ると、眩暈がしてそこへしゃがみ込んだ。
篠崎に夢中だった。
今やセックスだけではなく、彼自身にも勇人は夢中になっていた。
淳ではなく自分が選ばれたことも嬉しくて堪らなかった。
だが、たった今目にした光景に勇人は打ちひしがれていた。
自分の身体を抱いている時、楽しんではいても冷静さは失ったことの無い篠崎が、あの男には我を忘れているようだった。
自分が覗いているのに2人とも気づいていながら、此方を見ようともしなかった。
膝を抱え、その上に顔を伏せたまま、勇人は門の前から動けなかった。
「なんだ、まだ居たのか?」
声が聞こえて顔を上げると、さっきの男が顔を顰めて面倒臭そうに学生服を脱ぎながら立っていた。
「ふぅー、あっちぃ…。まったく、このぼろ家、シャワーもねえんだからよ」
さっき、篠崎に“パパ”と甘えていたのとはまるで違う、ぞんざいな悪びれた口調で男は言った。
「あんた…」
ゆっくりと立ち上がりながら、勇人は男をじっと見た。
「ん?俺?俺は、ヤツの息子だよ」
背後の家を親指で指しながら男はニヤニヤと笑って言った。
「えっ…?」
まさか、本当の息子だとは思っていなかった勇人は、思わず驚いて声を上げた。
すると、男は尚もニヤニヤ笑いながら、勇人を不躾な視線でじろじろと見た。
「まあ、って言っても本当の息子じゃないぜ。あの男が結婚してた女の息子ってだけ。……んで?おまえが今のあいつの玩具か?」
“玩具”
その言葉に、カーッと頭に血が上った。
顔を真っ赤にした勇人の様子など気にも留めず、男はポケットから1万円札の束を取り出すと、数えながら言った。
「10万か、まあまあだな…」
ニヤリと笑ってそう言うと、男はそれをまたポケットに仕舞った。そして、やっと勇人の顔に目をやった。
「まったく、こんな餓鬼相手に、あの変態も良くやるよ」
呆れたようにそう言い、男は顎を杓って後ろの家を示した。
「けど、今日は止めときな。あいつ、俺を抱いた後じゃ遊んじゃくれねえぜ。何しろ、俺にぞっこんだからな」
そう言うと、唇を歪め男はなんとも嫌な表情を作った。
「お袋の連れ子だった俺を14の時に犯しやがってさ、お袋にそれを知られて離婚されるまでの3年間、文字通り舐めるみたいに俺を可愛がった。お袋は知らねえけど、俺はこうやって時々来てやってる。あいつ、一緒に暮らしてた時みたいに甘えてやると、こうやって金くれるからさ。ちょろいっつうか、馬鹿っつうか、ま、所詮はただの変態か…」
訊きもしないことをべらべら喋り、口を歪めて笑うと、手を伸ばしてポンポンと勇人の肩を叩いた。
「あいつにとっちゃ、未だに俺以外は全部、ただの玩具だ。気持ち良くしてもらうだけならいいけど、深入りはすんなよ」
諭すようにそう言うと、男は持っていた学生服を肩に担いで門を出て行った。
力が抜けて、勇人はそこにまたしゃがみ込んだ。
目を上げ、篠崎の表札を見る。
彼の秘密を知って、勇人はショックだった。
「”おもちゃ”…か……」
呟くと、背後で忍び笑う声が聞こえた。
ハッとして立ち上がり振り返ると、門扉の向こうに淳が立っていた。
目が合うと、淳はゆっくりと瞬きをし、そして嘲笑うように唇の端を持ち上げた。
コクッと、勇人はただ喉を鳴らした。
すると、淳はくるりと踵を返して自分の家に向かって走って行った。
勇人は彼が門の中へ走り込んで行くのを見送ると、ゆっくりとまた振り返って篠崎の家を見た。
疼く。
何処もかしこも。
勇人はまた喉を鳴らして唾を飲み込むと、拳を握り締めて一歩を踏み出した。