社内恋愛
「津村さんは、今日も愛妻弁当ですか?」
昼休み、デスクの上に弁当の包みを載せた津村に、後ろから宅間が声を掛けた。
その時、必要以上に驚き、津村の身体がビクッと震えたが、それに気付いた者は多分いなかっただろう。
然して注目される存在でもなし、皆、それぞれに弁当を取り出したり、社食へ足を向けたり、また外へ食べに出掛けたりするので忙しかったし、一々津村になど注意を払っている者などなかったからだ。
特別仕事が出来る訳でもなく、平凡で真面目。決して人に嫌われることなど無いが、熱烈に想われたりする事も無い。
小柄で色白、色素が全体的に薄い印象で、その所為か清潔感がある。決してそんな事はないが、潔癖症に見られたりすることもあった。
だが、特徴と言えばその程度で、後は眼鏡を掛けている位の事だった。
そんな津村に引き換え、声を掛けた宅間の方は反対に酷く目立つ男だった。
長身ですらりと伸びた脚、外国製のブランドのスーツを着ても、嫌味になる処か誂えたように似合ってしまう。
ハンサムでクールな面立ち。だが、笑うと意外に人懐っこくなる。人当たりが良く、仕事も出来る。
勿論、女性受けも良く、30歳で独身の宅間を狙っている女子社員はかなり多い筈だった。
まったく相反するような2人だったが、大学の先輩と後輩という間柄の所為か、一緒に行動する事が多かった。
それも、後輩だからという事もあっただろうが、どちらかというと宅間の方が、何かにつけて津村を気にしているように見える。
だから、こうして昼休みに宅間が津村に声を掛けるのは珍しい事ではなかったのだ。
「俺も今日は出勤途中で弁当買ってきたんで、隣で食べよう。いいですか?」
「う、うん…」
いつも外へランチに出掛ける宅間にしては珍しい。だが、断る理由も無いのだろう、津村は頷いて見せた。
「お茶淹れて来ましょう」
「あ、いいよ。俺が…」
立ち上がろうとした津村を宅間は笑いながら押さえた。
「いいですよ。俺がやりますから」
「ありがとう…」
上辺だけでなく、本当に恐縮した面持ちで津村が言い、宅間はまた人懐っこい笑みを見せて頷くと給湯室の方へ歩いて行った。
だが、部屋を出ようとした所で女子社員達に捕まり、足止めを食った。
「宅間さん、一緒にランチしましょうよ」
「いや、悪いけど、今日は弁当買って来ちゃったんだー」
愛想良く、だが少々困った顔を見せて宅間が言うと、女子社員たちはあからさまにがっかりして見せた。
「折角、安くていいお店見つけたのになー、残念…」
「ごめんな?来週でも付き合うよ。また誘って?」
そう言って宅間が笑うと、大袈裟ではなく数人の女子社員がうっとりするのが分かった。
それ程に、宅間の笑顔には魅力があったのだ。
女子社員だけではなく津村まで見惚れていたのか、宅間が振り返るとさっと顔を背けて俯くのが見えた。
それを見てクスリと笑い、宅間は給湯室へ入って行った。
間も無くふたつのカップにお茶を淹れて宅間が席に戻って来た。
津村は律儀にも、前へ置いた弁当の包みを開きもせずそれを待っていた。
「先に食べてても良かったのに」
「いや…」
津村は首を振って、目の前に置かれたお茶のカップに頭を下げた。
その様子はまるで、ご主人様を待つ犬のように見えないことも無かった。
「食べましょうか」
宅間がそう言ってコンビニ弁当のパッケージを開けると、津村も頷き、いただきますと言って弁当の包みを開いた。
「お、旨そうですね。奥さん料理が上手なんだ」
「うん、まあ。料理学校にも行ってたみたいだし…」
「へえ、いいなぁ。理想の奥さんですね、津村さん」
「う、うん…」
傍から見れば、他愛も無い会話をしながら弁当を食べている2人だった。だが、良く見れば津村の身体が何故か妙に緊張している。
弁当箱の中のおかずを、何度か掴み損ねては落とす。その箸の先が幾らか震えているように見えた。
何故、同僚と弁当を食べるぐらいの事で緊張しなければならないのか分からない。
勿論、津村に注目している人間などいなかったから、それに気付く者も気にする者もなかったのだが。
だがやがて、津村の額に異常なほどの汗が浮き始めると、さすがに宅間がそれに気付いた。
「津村さん、どうかしましたか?凄い汗ですよ?」
「い、いや、な、なんでも…」
言いながら津村はハンカチを出して汗を拭った。
だが、次から次と噴き出してきて拭い切れない。
「具合が悪いんじゃないですか?」
「ち、違うよ。大丈夫…」
だが、汗ばかりではなく妙に赤く上気した顔は尋常とは思えなかった。
「大丈夫じゃありませんよ。熱があるんじゃないです?医務室へ行きましょう」
半ば強引に津村を立たせると、宅間はその身体を支えるようにして部屋から連れ出した。
「い、嫌だ、宅間…。平気、平気だから…ッ」
廊下に出ると、津村は何故か泣き出しそうな顔で訴えるように宅間に言った。
すると、低い声でぴしりと宅間が言った。
「強情張るんじゃありません」
それは、今までの好人物めいた愛想の良さから一変した、まるで別人のような冷たさだった。
すると、怯えるようにして津村は黙り込み、諦めたのか宅間に連れられるままに歩いて行った。
宅間が津村を連れて行ったのは医務室ではなかった。
非常階段近くの余り使われることのないトイレ。
そこへ津村を押し込むと、まるで命令するかのように宅間は個室の方を顎で指し示した。
津村は逆らいもせずに個室のドアを開けた。
すると、後から入ってきた宅間がドアを閉めて鍵を掛ける。
その、ガチャリ、という音に津村の身体がビクッと震えた。
宅間は津村の目を見据えたまま、彼の上着に手を掛けるとそれを脱がせた。
そして、Yシャツの上から両手を当てると、すでに勃起して布を持ち上げている突起を親指でギュッと押した。
「んくッ…」
声を漏らし思わず眼を細めた津村を見て、宅間は唇を歪めた。
「厭らしい。何を期待して、こんなに硬くしてるんです?」
「ちがっ、これは…」
首を振ろうとした津村の顎を、宅間の手が掴んだ。
「違わないでしょう?下も脱いだらどうです?シミが出来て困るのは津村さんですよ」
「う…」
一瞬、泣きそうに顔を歪め、だが津村は、言われた通りにベルトに手を掛けると、それを外してズボンと下着を脱いだ。
「シャツを捲りなさい」
また、冷たい言葉が宅間の口から出た。
目を逸らし、津村は両手でYシャツの裾を掴むとゆっくりと持ち上げた。
そこに、もうすっかり濡れてそそり立ったものが現れると、宅間の口元にまた冷笑が浮かんだ。
それは、さっき女子社員たちの前で見せた笑顔とはまるで別人のように冷たかった。
無言で手を伸ばし、宅間がそれを緩く掴むと津村はビクッと震えて目を瞑った。
「ほんとに厭らしいな、あんた」
「だって、こ、これは…クスリ…ッ」
言われなくたって勿論知っている。
さっきのお茶に媚薬を仕込んだのは宅間だった。
「何故こんな事をされるか、勿論分かっているでしょう?裏切ったのは誰です?」
「う、裏切ってなんか…」
「約束を破った。だからお仕置きされるんですよ、津村さん」
「だ、だって…ッ。昨夜は妻が急に具合が悪くなってッ、だから…」
津村が必死で言い募ると宅間の指に力が入った。
「理由なんて訊いてませんよ。……それより…」
言いながら視線を落とし、津村の身体を面白そうに眺めた。
「もう脚が震えてる。立ってるのも辛いですか?」
訊かれて津村は素直に頷いた。
「お願い……宅間…」
すると宅間は、津村の顎を掴んでいた手を離した。
「そこに手を突きなさい」
また顎で、洋式の便器を指し示す。 すると、津村はその蓋の上に肘を落とした。
Yシャツの裾が滑って背中まで露になるのも構わず、津村は腰を高く上げて宅間を振り返った。
その眼は、随分と怯えているようにも見えたが、その奥底には期待する何かを秘めているようにも見えた。
「こ、ここでセックスするのは嫌だ…っ」
訴えるように津村が言ったが、宅間はそれを鼻で笑った。
「あんたに選ぶ権利があると思ってるんですか?それとも、身体が治まるまでここに篭って、自慰でもしますか?俺はそれでも構いませんよ」
「う…」
冷たく言われ、津村は唇を噛んで俯いた。
すると、宅間はその様子を見てクスリと笑い、ポケットからコンドームの包みを取り出した。
包みを破ってそれを指に嵌めると、津村の双丘の中心へと運ぶ。そして、躊躇いもなくその指を中へと埋め込んだ。
「ぁうっ…」
津村の唇から思わず声が上がる。
ズッと突き込まれて白い尻が震えるのが分かった。
ゴムに付着したジェルで滑る指を、宅間はゆっくりと焦らすように動かしそこを押し広げた。
「あんっ、あっ、あっ…」
さっきまで確かに怯えていた筈の津村は、すでに恍惚として躊躇いもなく甘い声で啼き始めた。
昨夜、会社帰りにマンションへ来るように言いつけておいたのを無視し、津村は自宅へ戻ってしまった。
言う事を聞かなかったのは初めてではない。
だからこそ、それを破れば必ず辱めを受ける事を知っている筈だった。
宅間が津村と身体の関係を持つようになって1年が過ぎた。
最初は強姦に近かったが、今では津村も、慣れたのか素直に抱かれるようになった。
いや、明らかに今では、津村はその淫楽に溺れている。
それなのに、時折逆らうのは、自分の中の残り少ない理性がそうさせるのか、または“お仕置き”と称する辱めを望んでいるからに違いないと宅間は思っていた。
ぐりっ、とそこを指先で突いてやる。
すると津村の身体がビクッとして反り返った。
「ああんッ」
甘い声を上げ、津村が射精するのが分かった。
媚薬の所為でいつにも増して敏感になっているのだろう。
前立腺を指先で刺激されただけで達してしまったらしい。
「ここが何処だか分かってるんですか?幾ら使用頻度が低いとは言え、公共のトイレですよ。いつ誰が入って来るかも分からないのに、よくそんなあられも無い声を上げますねえ」
馬鹿にするように宅間が言うと、それでなくても上気していた津村の頬がさらに真っ赤に染まった。
こうして甚振ってやればやるほど、津村は激しく乱れる。
それを勿論、宅間は意識していた。