社内恋愛
-2-
「立ちなさい」
津村がゆっくりと起き上がると、彼の身体と入れ代わるようにして宅間は便座に腰を下ろした。
そして、津村の目を見上げる。
「どうします?」
訊かれると、津村はコクッと喉を慣らして唾を飲み込んだ。
そして、ゆっくりと宅間の前に膝を突き、ズボンのファスナーに手を掛けた。
まだ力が漲っているとは言えないそれを、津村は吐息と共に口に含んだ。
情事の度にさせているので、もう躊躇うこともなくなった。
吐き出したものを飲めと言われれば素直に飲む。
挿入しないまでも、宅間は良くこうして会社でも津村に奉仕させていた。
夢中で行為を続ける津村を上から冷淡な目で眺めながら、その目つきとは裏腹に宅間は彼の髪を指で優しく梳いた。
「このまま、口で達かせてくれてもいいですよ」
そう言うと、すぐに津村は口を離して顔を上げた。
「ここでするのは嫌なんでしょう?」
意地悪く言ってやると、また泣きそうな顔になって津村は首を振った。
さっき後ろを弄られ、しかも目の前に猛ったものを見せつけられて、津村の身体が疼いていない訳がなかった。
しかも、今日は薬まで飲まされている。もう、限界に近いことぐらい宅間は勿論知っていた。
知っていて、それでも甚振っているのだ。
「だって、もう俺…ッ」
まるで縋るように、津村は宅間の目を見上げた。
津村と2人きりになると、皆の前とは別人のような冷たい態度を見せる宅間だったが、津村もまた、さっきまでの地味な男とは別人のようだった。
真っ白な肌を高潮させ、潤んだ目を輝かせている様は、淫靡な魅力を放っている。
潔癖症にさえ見られるほど清潔感に満ちた津村が、こんな変貌を遂げるとは一体誰が想像するだろうか。
「さっき、指で達ったんでしょう?それで満足したらどうです?」
意地悪な宅間の言葉に、津村は激しく首を振った。
僅かに口元を緩め、宅間はポケットから新しいコンドームの包みを出して津村の目の前に翳した。
「欲しいなら自分で挿れなさい」
津村はすぐにそれを受け取ると、包みを破って宅間に着けた。
そして、立ち上がって後ろを向くと双丘を両手で開き、その上に腰を下ろした。
「あ…、いやっ…」
だが、逃げられて上手く定まらず、津村は焦って首を振った。
「宅間っ…、お願いッ、お願いッ…」
宅間はわざと大きな溜息をつくと、自分自身を持って支えてやった。
「ほら、ゆっくり…」
「ん…」
やっと先端が入り、津村はゆっくりと腰を落とした。
「あんっあっ……ああぁ…」
歓喜の声を上げる津村の身体に腕を回し、宅間はシャツの下から手を滑りこませると硬く勃起した乳首を摘んだ。
1年以上、執拗に甚振り続けた所為か、津村の乳首は最初の頃より随分敏感になった。そして、それだけではなく、男にしては少々大きく育っていた。
こんな身体を、夜毎新婚の妻の前に晒しているのかと思うと、皮肉な笑みが宅間の口元に浮かんだ。
「んふっ、んふっ…ぅふぅッ……」
夢中で腰を動かし、津村はその快感に啼き続けている。
最早、この場所が何処なのかさえ分からなくなっているに違いない。
その甘ったるい声を聞きながら、宅間は最初に彼を抱いた時の事を思い出していた。
部署が変わって津村と出合った時、宅間は勿論この地味な男のことなど知らなかった。
だが、向こうは此方を知っていた。
「君は知らないと思うけど、同じ大学だったんだよ。僕の方が2年上だけど学部も一緒で…」
言われても覚えていなかったが、それは珍しいことでもなかった。目立つ宅間のことは、同じ大学だった相手は大抵覚えていたからだ。
「そうですか。じゃあ先輩、これからも宜しくお願いします」
愛想良く社交辞令でそう言ったが、別段津村と親しくするつもりなどなかった。
それからも、宅間が津村に注目することもなく数ヵ月が過ぎたのだが、社員旅行の時に、驚くような事が起こった。
宴会の最中に、女子社員たちの猛アタックに辟易した宅間は、こっそりと会場を抜け出した。
自分の部屋に帰ろうと思ったが、生憎、鍵は相部屋の別の社員が持っていた。
バーにでも逃げ込むか、それともこのまま外に出ようかと思案していると、やはり会場を抜け出したらしい津村が、部長と連れ立ってエレベーターに乗るのを見かけた。
その様子が少しおかしい。
宅間は首を傾げながら、別のエレベーターに乗った。
エレベーターのドアが開くと、津村が部長に押し込まれるようにして自分の部屋へ入って行くのが見えた。
向こうが宅間に気付いた様子はない。
眉を寄せたまま箱を降り、宅間は津村の部屋の前まで行った。
ドアの鍵はオートロックではなかった。多分、中から鍵が掛かっているだろうと思ったが、念の為にノブを回してみるとくるりと回った。
そっとドアを開けて中を覗く。
すると、閉まった襖の向こうから抗うような津村の声が聞こえた。
「い、嫌ですッ、部長…。お願いですから、もうこんなことは…」
「何故だ?今まで通り、付き合おう。君だって愉しんでるんだろう?」
「い、嫌…、もう止めましょう。止めてくださいッ」
宅間はするりと身体をドアの中に入れた。
これは尋常な雰囲気ではない。 どう考えても、痴情の縺れのように思える。
そう思い、宅間は愕然とした。
部長は兎も角、あの津村が、誰かとこんな色っぽいやり取りをするなんて考えられなかった。
だが、その相手が女ではない事に対して何故か宅間は疑問を感じなかった。 津村の相手が女だったら、宅間は多分、もっと驚いていたに違いなかっただろう。
「津村さーん、居ますか?部屋の鍵忘れてきちゃって…」
言いながら、宅間は襖の引き手に手を掛け、中に向かって声を掛けた。
すると、中で誰かが慌てて立ち上がるような気配がした。
宅間は構わずまた声を掛けながら襖を開けた。
「こっちに居さしてもらっていいです?」
慌てて浴衣の前を掻き合わせたらしい津村の前に部長が立っていた。
「あ、部長、いらしたんですか?」
惚けてそう言い、宅間は屈託のない笑顔を作って見せた。
「あ、ああ、ちょっと…」
強張った顔付きでそう言うと、部長はそそくさと宅間の傍をすり抜けて出て行った。
宅間は1度表へ戻ると、ドアに鍵を掛けてから、また部屋に戻って来た。
「ふぅ…ん、まさか津村さんがそういう人だとはねえ」
感心するようにそう言い、宅間はまだ布団の上に座っていた津村を見下ろした。
揉み合って眼鏡を何処かへ飛ばされたのか、宅間は初めて彼の素顔を見た。
茶色の髪が乱れ、浴衣の胸も開けられている。脚をもじもじと動かして、何かを気付かれまいとするようにゆっくりと縮めた。
宅間は近付くと、その膝の間に爪先を差し込み強引に反対の方向へと開かせた。
「あっ…」
余りの勢いに、津村の身体が後ろへよろめいた。
そして、宅間に開かされた脚の向こうに裸の下半身が曝け出された。
脛毛など殆ど見えない真っ白な脚。
思ったよりずっと柔らかそうな太腿。
そして、体毛の薄い下腹部。
そういった部分を見ると、確かに女性的ではある。
美しいと言えるほどの容姿ではないが、加虐心を煽る何かを津村は持っているようだった。
怯えるように自分を見上げる、その眼がいい。
思わず唇を舐め、宅間はそこに屈むと津村の脚を捕まえた。
泣きながら許しを請う津村をそのまま犯し、宅間は持っていた携帯電話で辱められた津村の写真を撮った。
そして、今度はそれを楯に津村を脅して言う事を聞かせてきたのだ。
部長とはどれほどの関係だったのか知らないが、身の危険を感じたのか、あの一件以来、部長が津村に接触してくることは無くなったらしい。
最初は、泣く泣く言う事を聞いていた津村だったが、三月もすると逆らう事を止めた。
面白い玩具を手に入れた。
最初はそう思っただけだった。
だが、思いの外、津村の身体は宅間を惹きつけた。
すぐに飽きるだろうと思ったが、何度抱いても飽きる事がない。
最初は被害者ぶって嘆き、逆らう津村が面白かった。
やがて、諦めたのか逆らわなくなったが、今度は宅間に与えられる快感に屈してしまう自分を否定しようと必死になる様が見え始めた。
それがまた面白い。
宅間はそんな津村を言葉で甚振る事に快感を覚え始めた。
だがやがて、津村は感じている事を隠さなくなった。
あられもなく声を上げ始め、ねだって腰を揺すってくる。
そうなると不思議なもので、宅間は津村に興味を失っていった。
そんな時だった、宅間は津村が見合いした事を知った。
「結婚するんですか?」
後ろから津村の中に入り、声を上げ始めた津村に宅間は訊いた。
すると、津村の身体がビクッと震え、動きが止まった。
「お、恩師に紹介されて…、断れなくて…」
「ふぅん…、美人ですか?」
「……特に美人じゃないけど…」
答えた津村の腰を掴み、宅間はゆっくりと繰り出した。
「あぁっ……はぁ…」
また艶っぽい声を上げて、津村が反り返った。
その背中を冷ややかに見つめながら、宅間はまた腰を引いた。
(こんな身体で、結婚するだと?)
自分自身を痛いほど締め付けてくる津村の身体を感じながら宅間は言った。
「結婚すれば、俺から逃げられるとでも思ってるんですか?」
馬鹿にしたような口調でそう言うと、津村が恐々と振り返った。
「え…?」
「結婚すれば解放してもらえるとでも?甘いですよ、津村さん」
「だ、だって…」
離れようとした津村の身体を宅間はグッと捕まえた。
「いいですよ。結婚しなさい。だが、俺の言うことは今まで通り聞いてもらいます。逆らうなら、今まで撮った写真を奥さん宛に送りますよ?」
そう言うと、宅間は面白そうに笑った。
津村は真っ青になって項垂れると、シーツの上に額を押し付けた。
それが5ヶ月前のことだった。
その2ヶ月後に津村は結婚し、宅間も披露宴に呼ばれて出席した。
新婚旅行へは明日の朝出発すると知り、宅間は披露宴の後、津村を呼び出して散々に彼を抱いた。
勿論、今夜が初夜だと分かっていながらそうしたのだ。
自分から逃げようとした。
それを知って、津村に飽きかけていた宅間にまた火が点いた。
結婚した事で、今までのように津村に時間な自由がなくなったことも、却って宅間を愉しませる結果になった。
言う事を聞けなかった津村をお仕置きと称して甚振る。
そうすることで、津村とのセックスがまた新鮮なものになったのだ。
今もこうして、薬を飲まされた挙句、会社のトイレで思う様甚振られている。そんな津村の姿が、宅間には快感だった。
自分で腰を振り、津村は宅間の上で何度も達した。
「ほんとに厭らしい人だ。あんなに汚して」
津村の放った体液をわざと指さしてそう言うと、宅間はクスクスと笑った。
その唇から逃れるように顔を背けると、津村はまた項垂れた。
今夜は必ず来るようにと言うと、ぐったりとしたまま津村は頷いた。
そんな津村を個室の中に残したまま、宅間はトイレを出て行った。
時計を見ると、昼休みはもう終わる時間だった。津村はきっと、まだ薬が切れないだろう。
部屋に戻ると、宅間は自分と津村の食べかけの弁当を片付けた。
そして、上司に津村の具合が悪い事を報告し、自分の席に着いた。
津村が戻って来たのは、それから15分ほど経ってからだった。
上司に早退しなくていいのかと訊かれ、何とか落ち着いたからと答えると、津村は定時まで仕事をした。