16.嫉妬と独占欲


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翌日、会社で顔を合わせると彰人は些か眠そうだった。
「昨夜は随分呑んだみたいだな?」
呆れたように江端が言うと、彰人はポリポリと頭を掻いた。
「久し振りに仲間が揃ったんで、呑み過ぎました。顔に出てますか?」
他の社員の手前もあるので、言葉遣いも余所々しい。
江端は苦笑すると僅かに頷いて、彰人の傍を離れた。


昼になると、また彰人からメールが来た。
「聡史さん、怒ってる?なんだか今朝は機嫌悪かったしなぁ。今夜は俺、マンションに行くから。飯も作ってあげるし、機嫌直してよ」
江端は箸を使いながら無表情でその文面を読むと、そのまま左手でキーを打ち始めた。
「焼肉は嫌だ」 送信して暫く待つと、また彰人からの着信があった。
「なら、カレーは?」
「一昨日食べた」
「じゃあ、炒飯と餃子。あとスープも作るから。ね?」
「仕方ないな。手を打ってやる」
「ありがとう~~~~。じゃあ、買い物してから行くよ。待ってて?」
最後に“OK”とだけ送り、江端はポケットへ携帯を仕舞った。
自分の機嫌を取ろうとする彰人の様子からすると、どうやら昨日の青年とのことは浮気らしい。
自分と別れて、向こうと付き合うつもりなのだろうかと気に病んでいたが、そういう事ではないらしかった。
だが、だからと言って江端の気持ちが納まる訳はない。
(今夜、楽しみにしてるよ、彰人…)
心の中でそう呟くと、江端は僅かに笑みを浮かべた唇に佃煮を挟んだ箸を運んだ。



彰人が来たのは物音で分かった。
いつもチャイムは鳴らさず、預けてある合い鍵でドアを開けて入って来る。
重そうな足音と、それから、言った通り買い物をしてきたのだろう。ポリエチレンのレジ袋が立てるカシャカシャした音が聞こえた。
「聡史さん?あれ?寝室…?」
そう言う彰人の声が聞こえ、その後で寝室のドアが開けられた。
「聡史さん、具合でも悪いの?」
心配そうな声でそう言って、彰人は横になっていた江端の方へ近付いてきた。
「いや…。悪い。ちょっと横になったらウトウトしちゃって…」
「疲れてるんだ?大丈夫?」
嫉妬して江端を責める時は別人のようだが、普段の彰人はとても優しい青年だった。
覆い被さって来て、江端の額に自分の額を押し付けると、そのままキスしようとした。
「嫌だ…」
江端が顔を背けると、彰人は眉を寄せた。
「まだ、昨夜のこと怒ってるの?」
「別に…」
些かしらけた口調で言いながら、江端は億劫そうにベッドの上に起き上がった。
「ドタキャンしたのは悪かったよ。でも、ホントに急に連絡が来てさ…」
江端は答えずにじっと彰人の顔を見つめた。
「聡史さん?」
不安げに自分を見る彰人にフッと笑って見せると、江端は立ち上がりながらベッドの方を指さした。
「横になれよ、彰人」
「え?」
「いいから、ここに寝ろって」
「う、うん…」
戸惑いながらも、彰人は上着を脱ぐとベッドの上に仰向けに横たわった。
「寝たよ?」
「よし。そのまま万歳して」
「……こう?」
「うん。そのまま動くなよ?」
「うん…」
返事をした彰人を見て満足げに頷くと、江端は彼の大きな体の上に跨った。
そして、ネクタイに手を掛けるとそれを外した。
「聡史さん、何する気?」
「いいから、じっとしてろ」
そう言って、江端は彰人の唇にキスを落とした。
「ん…」
すぐに腕を回そうとして彰人の手が持ち上がる。すると、江端は唇を離して彼を睨んだ。
「駄目だ。動くな」
「あ…、はい」
どうやら彰人は江端がゲームでも始めたと思ったらしい。照れ臭そうに笑うと、元通りにまた万歳して腕を伸ばした。
江端はキスをしながら彰人の胸のボタンを外した。
そして、そっと隣の枕の下から手錠を取り出すと、左右の輪をベッドの支柱に潜らせて片方を彰人の手首に嵌めた。
「えッ?聡史さんッ?」
ガシャリという音と金属の感触にハッとしたのだろう。彰人が驚いて首を曲げた。
だが、その時にはもう、もう一方の手も手錠で拘束されていた。
「さっ、聡史さんッ?なに?なにこれ?」
ガシャガシャと輪を繋いである鎖を鳴らし、彰人は手錠で拘束された手首を引っ張りながら腹の上に乗っている江端を見上げた。
「幾らおまえの力でも、それを引き千切るのは無理だよなぁ?彰人」
「なっ、なんだよこれ?何のゲーム?ねえ…」
江端は答えず、彰人の顔の横に両手を突くと屈みこんでその目を見つめた。
「なぁ、彰人…」
囁くように言いながらキスを落とす。
訳が分からないながらも、彰人は無意識に唇を開いた。
「大好きだよ、彰人。俺の彰人…」
普段は余り甘い言葉を言わない江端だったが、今日は囁きながら、何度も愛しげに彰人の唇にキスを繰り返した。
「ん…、聡史さん…」
手錠を掛けられた事など忘れてしまったのか、いつもとは違う江端の甘い囁きとキスに、彰人も夢中になってきた。
うっとりと半眼になり、舌を吸っては逃げる江端の唇を追いかけた。
「俺もだよ、聡史さん…」
「ほんとに?」
「うん…」
「光一君よりも?」
その言葉に、パッと彰人の両目が見開かれた。
「さ、さ、聡史さんッ?」
忽ち真っ青になり、彰人は冷ややかに自分を見下ろす江端を見た。
いっぺんに吹き出した汗が、彰人の額に玉になって浮いている。江端はじっと睨むようにして彰人の怯える瞳を見つめた。
「綺麗な子だね?光一君は。それに若くて…。こんなオジさんとは全然違う。俺なんて、棄てられても仕方ないよ」
「ちっ、ちがッ…。そんなんじゃないよっ、聡史さんッ…」
必死にそう言うと、起き上がろうとして、彰人はまた盛大に鎖をガチャつかせた。
「そんなんじゃない?俺を棄てて光一君と付き合うんだろ?あの店に何度も行って、あの子とホテルにも行ったって、ちゃんと聞いたぞ」
「ちがっ、違うってッ、違うんだよッ」
「違う?ホテルには行って無いって?」
声を荒げて江端が言うと、彰人は一瞬口篭った。
「そ、それは……。でも、いっぺんだけだよ。あの子のことはほんの遊びで、ホントに聡史さんとは違うんだッ。魔が差しただけなんだよッ」
「ふうん…」
気が無さそうに頷いた江端を見て、彰人は益々必死になった。
「信じないの?あの子はほんのつまみ食いなんだってッ。俺が好きなのは聡史さんだけだッ。本当だってッ」
江端は答えなかった。
その代わりに、彰人のワイシャツのボタンを外すと胸を(はだ)けさせた。
「さ、聡史さん…?」
江端は黙って彰人の胸に顔を近づけると、その逞しい胸に唇を落とした。
何度もキスを繰り返し、時折軽く歯を立てて甘噛みし、江端は彰人の胸に愛しげに愛撫を続けた。
「聡史さ……」
「彰人、おまえ、俺が部長と昼飯食っただけでも嫉妬したよな?」
「ご、ごめん。俺、どうしても聡史さんが他の男と親しくするのが許せないんだ。でも、これからはもう妬かないよ。約束するから…」
それを聞いて江端はフッと笑った。
「いいんだよ。乱暴されるのは困るけど、でも、おまえに嫉妬されるのは、嫌じゃなかった。いや、嬉しかったんだよ」
「聡史さん…」
「彰人…」
もう一度、彰人の唇にキスを落とすと、江端は彼のズボンのファスナーを外した。
現れたペニスは、もう少し勃起していた。
それを両手で包み、江端は先端からゆっくりと舌を這わせた。
「うん…ッ…」
気持ち良さそうに彰人が呻く。
それをチラリと見上げ、江端は下から裏筋を丹念に舐め上げた。
「ああっ…」
ビクンビクンと震え、彰人のペニスが忽ち硬く張りつめていった。
すると江端は唇を離し、ポケットに手を入れて何かを取り出した。
「さっ、聡史さんッ?」
それを見て、彰人が忽ち顔色を変えた。
江端は涼しい顔でそれを無視すると、彰人のペニスの根元に革製のコックリングをぴっちりと取り付けた。
「何するんだッ?」
「黙れ」
「聡史さん…、一体…」
蒼褪めた彰人をまた上から見下ろし、江端は片手でゆっくりと彼のそそり立つペニスを撫でた。
「彰人、おまえは自分が嫉妬深いくせに、俺が嫉妬するなんて思ってもみなかったんだろ?」
「そ、それは…」
江端は口篭った彰人を見てクスリと笑うと、一旦立ち上がってズボンと下着を脱ぎ棄てた。
そして、再び彰人の腹に跨った。
「俺がどんなにおまえを好きか、大事に思ってるか、おまえは全然分かってない。つまみ食いだから許してくれだって?遊びだからいいだろうだって?おまえ、俺の独占欲を甘く見過ぎなんだよ」
ゴクッと彰人が喉を鳴らした。
江端は彼のそそり立ったペニスを後ろ手に掴んで支えると、ゆっくりとその上に腰を落とした。
さっき、彰人が来る前に準備は澄ませてある。江端の身体は彰人の怒張したペニスを抵抗無く飲み込んでいった。
「ぅあッ…」
ギュッと江端の身体に締め付けられ、彰人のペニスは更に育ったようだった。
根元がリングに締め付けられ、彰人は苦しげに顔を歪めた。
裏腹に、江端の方は気持ち良さそうに呻くと、舌を出して唇を舐めた。
「ああ、いい…彰人…」
「外してッ、頼むから外してくれよッ」
彰人の顔からはダラダラと汗が滴り落ちていた。
「駄目だ。今日はこのまま、俺が満足するまでリングは外さない」
冷ややかに江端が言うと、彰人は情けない顔付きで彼を見上げた。
「もう2度としない。誓うよ。聡史さんだけ大事にする。誓うから…ッ」
懇願する彰人にニヤリと笑いかけ、江端はゆっくりと腰を浮かせた。
「愛してるよ、彰人…」
「聡史さんッ」
悲鳴のような声を上げ、彰人は更に体中から大量の汗を吹き出させた。