光を恋う羽虫の如く
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「社長、連れて来ました」
櫛川の部下がそう言って、連れて来た男を前に突き出した。
デスクの上で、裸の下半身を何とか隠そうとして、三田は自分の膝を抱えるようにして小さくなった。
だが、ローターのうねる音は彼の体の外にまで聞こえる。それが恥ずかしくて三田は自分の耳を塞ぎたくなった。
そんな三田を下から見上げ、櫛川は冷笑を浮かべた。
「後ろを見ろよ。懐かしい顔が見られるぜ?」
その言葉に顔を上げ、三田は恐る恐る後ろを振り返った。
そこには、自分に借金を押し付けて逃亡した寒川の姿があった。
「功治ッ」
随分と痛めつけられたらしく、寒川の顔は無残にも腫れ上がっていた。
その、醜く痣だらけの顔を三田に向けると寒川は自嘲するように笑った。
「悪かったな…、恵佑」
言った後で、すぐに三田の下半身が裸だということに気付き、寒川は腫れ上がった瞼を広げて目を見開いた。
その視線で驚きから覚めた三田は、すぐにデスクの上から降りようとした。
だが、それを櫛川の手が阻んだ。
「誰が降りていいと言った?脚も閉じていいとは言ってねえぜ」
「や、やめてくれ」
ネクタイを持って締め上げられ、三田は苦しげに言った。
だが、櫛川の力は緩まなかった。
「一昨日の夜、俺の部下があんたの親友を見つけてな、ここへ連れて来た」
寒川の方に顎を杓り、櫛川は言った。
「友達だった筈のおまえに借金を押し付けた理由を聞きたくねえか?え?」
「そ、そんなのもう、どうだっていいッ。離せよッ」
「そうはいかねえ。こんな面白れえこと、黙っていられるかよ」
クッ、クッと不気味に笑う櫛川を見て、三田の顔が蒼ざめた。
「ヤツぁ、おまえに惚れてたんだってよ。だが、おまえはちっとも気付いちゃくれねえ。その内に、段々、憎く思えてきたそうだぜ?」
「こ、功治?」
驚いて顔を見ようとしたが、櫛川に喉元を捕まれたままの三田は振り向くことが出来なかった。
「おい、寒川、おまえの愛しい恵佑は、ここで毎日俺に抱かれてるんだぜ。ケツに俺のを突っ込まれて善がってヒィヒィ鳴いてる。おまえも思い切って犯してやりゃあ良かったな?案外、すんなり抱かせてくれたんじゃねえのか?」
「やッ、やめろっ…」
苦しいのも忘れて、三田は激しく首を振った。
それをせせら笑い、櫛川は言った。
「寒川、どうだ?冥土の土産にこいつを抱きてえか?」
「なッ…」
驚いた三田の背後で、寒川の返事が聞こえた。
「ああ、抱きたい。抱かせてくれ」
「こっ、功治ッ…」
思わず叫んだ三田の首から手を離し、櫛川はさも楽しげに笑った。
「いいぜ。好きなようにしろよ」
「いっ、嫌だッ」
逃げ出そうとした三田を、櫛川の2人の部下が捕まえた。
「イヤダッ…、離せッ、離せェェッ」
暴れる三田を、馬鹿にするように笑いながら部下達はソファの上に抑え付けた。
「脚を開いてやれ」
櫛川の命令で三田の両脚が開かされた。
その前に立ち、寒川がゴクッと喉を鳴らした。
「い、嫌だ、止めろ。功治ッ…」
身体を抑え付けられて身動きも出来ず、虚しく首を振る三田の前で、寒川はズボンのファスナーを開けた。
「恵佑…」
もう半分立ち上がっているペニスを掴み、寒川はそれを扱きながら三田に近づいて来た。
「いやッ、嫌だ。嫌だぁぁぁッ…」
叫びも虚しく、ローターを中に収めたまま、三田は無理やりに寒川のペニスを捻じ込まれてしまった。
「いっ…、いうッ」
痛みに三田の顔が歪んだ。
だが、寒川の方はどこか恍惚とした表情で三田の太腿を掴むと、激しく突き上げ始めた。
「ああ……、恵佑…、恵佑…」
現実から逃れるように、寒川は陶酔の世界に入りこもうとしているようだった。
“冥土の土産”
その言葉を思い出し、三田は首を捻じ曲げて櫛川を見た。
だが、櫛川は三田が思っていたような表情を浮かべてはいなかった。
楽しげに冷笑を浮かべ、痛みと恥辱と屈辱に塗れた自分を嘲笑っているのだとばかり思っていたが、櫛川の口元には笑みは浮かんでいなかった。
ただじっと、自分を見る三田の目に視線を注いでいる。
突然、三田はその事実に愕然とした。
見られている。
今、自分は、他の男に犯されるのを、櫛川に見られているのだ。
「はッ…」
いきなり、アナルに痺れが走った。
櫛川の視線から逃れるように目を瞑り、三田は迸りそうになる声を抑え込んだ。
身体の奥にたっぷりと射精され、三田はやっと解放された。
連れて来られた時と同じに、寒川は部下達に何処かへ連れ去られて行った。
何とか吐精する事だけは堪えたが、三田のペニスはもう、解放されるのを待って口を開いていた。
ぐったりとソファに横たわったままの三田に近付き、櫛川はまだ入ったままのローターを勢い良く引き抜いた。
「あんッ……あっ…」
甘ったるい声と共に、三田はペニスから精液を吹き出させた。
「今夜、部屋に行く。いい子にして待ってろよ」
それだけを言うと、櫛川は汚れた三田の腹の上にポンとローターを投げつけた。
部屋に戻り、風呂に入ると、三田は言われた通りベッドの上で櫛川を待った。
この2ヶ月間で、櫛川がこの部屋に来たのは数えるほどしかなかった。
ただの慰みものでしかない三田を、わざわざベッドの上で抱くつもりなど無かったからだろう。辱める為にも、櫛川はわざと三田を事務所のデスクや床の上で抱いた。
何故、今夜、櫛川が部屋を訪ねて来る気になったのか分からなかったが、三田の方に拒む権利は勿論無かった。
10時過ぎ、櫛川が部屋を訪れた。
真っ直ぐに寝室へ入って来ると、櫛川はベッドの上の三田を見下ろした。
白いローブ1枚で、三田は枕を背に座っていた。
櫛川は上着を脱いでネクタイを外したが、それ以上服を脱ぐことも無くベッドの端に腰を下ろした。
こうして、黙ったままの顔を見ていると、最初に受けた印象が三田に蘇った。
貴族然とした端整な顔からは、隠し持っている残忍さなど微塵も伺えはしない。
櫛川は手を伸ばして、まだ腫れの残る三田の唇に触れた。
「寒川が捕まったから、おまえを解放してやってもいいぜ?」
思いもよらなかった言葉に驚いたが、三田はすぐに言った。
「功治に金が払えるのか?」
その質問を聞いて、櫛川は笑った。
「まだあいつを心配してやるとは、ホントにお人好しだな、おまえ」
それには答えず、三田はまた訊いた。
「功治を切り刻む気か?」
櫛川は肩を竦めると、三田の唇から指を離した。
「払えなきゃ、仕方がねえだろ。売れるもんを売って、払ってもらうしかねえさ」
「助けてやってくれ」
「なんだと?」
「俺は、今まで通りここに居る。あんたの言う事もきく。だから…、助けてやってくれ」
その言葉に、櫛川はニヤリと笑った。
「そんなに、俺に飼われていてえか?」
カッと、三田の顔面が朱に染まった。
見ていられなくて、櫛川の視線から目を逸らす。
その通りだった。
ここを出て、櫛川と縁を切るのが嫌だったのだ。
事務所で寒川に無理やり抱かれた時に、三田は悟ってしまった。
櫛川に見られているのだと気付いた途端、燃えるように身体が熱くなったこと。
自分がいつの間にか、この男を欲していたのだということを。
「おまえ、自分にそんな価値があると思ってんのか?」
馬鹿にするような口調だったが、それとは裏腹に、櫛川は三田の顎を掴むと唇を押し付けた。
三田はすぐに両腕を彼の首に回し、グッと自分の方に引き寄せた。
息を荒げ、夢中になって櫛川の舌を導く。
吸われると、ビリビリと下半身が痺れていくのが分かった。
「股を開け」
命じられてすぐに従うと、圧し掛かって来た櫛川のベルトを外し、両手でペニスを掴み出した。
引こうとする櫛川の唇を追って夢中で押し付けながら、待ち切れないと言わんばかりに三田は何度も彼のペニスを扱くと、開いた自分の脚の間へ引き寄せた。
先端がアナルの入り口を突付く。
それだけで息を荒げ、三田の胸が大きく上下した。
「早くッ…」
口走った三田から意地悪く身体を離すと、両手を突いて彼を見下ろし櫛川は愉快そうに笑った。
「見っともねえなぁ、まったく…」
だが、そう言った後で笑みを消し、櫛川は三田の瞳をじっと見つめた。
唇の傷がまたチリチリと痛む。
三田は舌を出してそれを舐めた。
「仕方がねえ、もう少し飼っててやるよ」
言葉の後で櫛川の唇に笑みが浮かんだ。
それを見た瞬間に、鳩尾が熱くなった。
三田は両手を伸ばすと、再び彼の体を力いっぱい引き寄せた。
この男にどうしようもなく惹かれていく自分が信じられない。
だが、落ちて行く先が何処だろうとも、三田は櫛川の手を離したくは無かった。