イヌ・3


-8-

鉄太に貰ったローションのチューブをポケットに突っ込んだまま、夏樹は玄関から真っ直ぐ2階へ上がった。
持っているだけで、ドキドキしてしまい落ち着かない気分だった。急いで、チューブを自分のバッグの中に仕舞うと、夏樹は何度か深呼吸してから部屋を出ようとした。
そこへ、夏樹が帰って来た音を聞きつけたのだろう。隆哉が階段を上って来た。
「夏樹…」
「あ……」
「何の話だったんだ?やっぱり、俺の事?」
きっと、心配して待っていたのだろう。すぐに、隆哉はそう訊いてきた。
「うん、そうだけど…。でも、大丈夫。鉄ちゃんはやっぱりちゃんと分かってくれた」
安心させるように笑って見せると、隆哉もホッとした顔で頷いた。
「そうか。良かった」
「明日、一緒にボードしないかって。嫌か?」
「ううん。いいよ、折角だから教えて貰う」
「そっか、良かった。それから、後で渡すものあるんだ」
「なに?」
「うん。あとで。部屋に持って行くから」
はっきりしない夏樹の態度に怪訝そうに眉を寄せたが、隆哉は無理には訊かなかった。
「うん、分かった…」
もう夕食の支度が出来ていて、2人は階下に下りると母や祖母を手伝って食卓へ料理を運んだ。
隆哉が増えた事で話題も増え、食事の間中、笑い声が絶えなかった。


父親に続いて風呂に入るように言われ、隆哉が入浴を澄ませて部屋に入ったのは10時過ぎだった。
夏樹はその後で風呂に入り、一旦自分の部屋へ行くと、鉄太から貰ったローションを鞄から出して隆哉の部屋のドアを開けた。
もう、家族の誰かが2階に上がって来ることはない。
だが、中に入ると、夏樹は一旦外を気にして廊下を伺い、それからドアを閉めると鍵を掛けた。
隆哉は布団の上に横になって本を読んでいた。だが、夏樹が入ってくると、すぐに本を脇へ置いて起き上がった。
「あの、リキ、これ…」
「うん?あ、これって…」
夏樹が差し出した物を見て、隆哉は驚いた。だが、それが何なのか、ちゃんと知っているようだった。
「鉄ちゃんが、使えって」
「えッ?」
少々ギョッとした表情になったが、すぐに隆哉はプッと吹き出して笑い始めた。
「まさか、こんな気遣いされるなんて。ああ…、参ったなぁ」
「使った方がいいんだろ?」
夏樹が訊くと、隆哉は頷いた。
「うん。多分、その方が夏樹が楽だと思う」
言いながら、隆哉の手が夏樹の身体に回された。
「有難く、使わせて貰おう」
「うん…」
「夏樹…」
ギュッと引き寄せられて、夏樹はすぐに隆哉にしがみ付いた。
(電気、消さなきゃ…)
頭の隅でそう思ったが、隆哉の唇が押し付けられた途端に忘れてしまった。



ちゅ、ちゅと、押し付けられては離れる隆哉の唇を夢中で追い、夏樹は息を荒げると唇を開いて舌を覗かせた。
欲しがった通りに深いキスを貰い、夏樹はもうすっかり階下に家族がいることなど忘れてしまった。
いつの間にか背中から手が滑り、隆哉の手は夏樹の短パンを脱がせようとしていた。
それに気付くと、夏樹は隆哉にしがみ付いたまま腰を浮かせて、膝で立ち上がった。
スルッと、下着の中に隆哉の手が入り込み、そのまま腰骨を撫でるようにして短パンと下着がいっぺんに下ろされた。
やっと唇を離すと、夏樹は視線を下へ下ろした。
分かってはいたが、もうすっかり立ち上がってしまったものが薄い体毛の向こうに見える。キスされただけで待ち切れず、自分の身体が隆哉を欲しがって反応してしまう事が、夏樹は恥ずかしくて堪らなかった。
「待って…」
そう言うと、隆哉は夏樹を離して振り返った。
そして、そこにあった自分のバッグからバスタオルを取ると、シーツの上に広げた。
「いいよ。夏樹、ここに…」
バスタオルの上に横になるように促され、夏樹は首を振った。
「や…、電気消してよ」
「駄目。見えなくなると危ないから」
この部屋にはスタンドライトが無かったので、隆哉はそう言って電気を消してくれなかった。
明るいままの部屋で腰をバスタオルの上に乗せられ、夏樹は脚を開かされてしまった。
恥ずかしくてとても直視出来ず、真っ赤になって目を逸らす。だが、気配で、隆哉がローションの蓋を開けたのが分かった。
「んっ…」
ぬるりとした感触に、思わず夏樹は目を瞑った。
「凄い。やっぱり、ベビーオイルとは違う…」
隆哉がそう呟くのが聞こえたが、それは夏樹にもすぐに分かった。
「あんッ」
今までとは比べものにならないほどすんなりと、隆哉の指が自分の中に入って来たからだ。
指の上にローションを足しながら抜き差ししているらしく、どんどん潤滑に指が動いてきた。
それに連れて夏樹の息も上がり、もう耐えられないほどに股間に血が集まってしまった。
「んくっ…、んくぅ……んんッ」
唇を噛んだまま、それでも耐え切れずに声が漏れる。
目に涙が滲んできたのを見つけ、隆哉が言った。
「我慢出来ない?」
コクコクと夏樹が頷くと、隆哉のもう一方の手が股間に伸びた。
「擦ってあげるから、このままイっていいよ」
そう言うと、すっかり濡れていた夏樹自身をゆっくりと擦り始めた。
「ふぁぁ……んッ」
両方を攻められて、もう我慢出来ず、後ろに突いていた手から力を抜くと、夏樹はシーツの上に横たわってタオルケットに手を伸ばした。それを口に咥え、必死で声を押さえた。
だが、それでも押さえ切れず、くぐもった喘ぎ声が夏樹の口から漏れ続けた。
「ん…んんッ……」
やがて、一際大きく震えると、夏樹は隆哉の手の中に射精した。
「はぁッ…」
タオルケットを口から離し、夏樹が大きく息を吐くと、そこに隆哉が覆い被さってきた。
「声、やっぱり下に聞こえちゃうかな?」
「分かんないけど、でも…」
「我慢出来る?」
そう訊かれると自信が無かった。
夏樹が躊躇っていると、隆哉が立ち上がってテレビのスイッチを入れた。
「保険かけとこう」
その言葉に、夏樹はクスッと笑った。
「うん…」
戻って来た隆哉にまた抱き寄せられて、夏樹は自分から唇を押し付けた。
「もう、我慢しなくていいよ」
キスの後でそう囁かれて、夏樹はまた頬に血を上らせた。
隆哉の手が脇腹を撫で上げながら上って来ると、すっかり硬く尖っていた乳首に届いた。
そのまま、親指がクリクリと動いて刺激され、夏樹はまた我慢出来ずに喘ぎ出した。
「掴まってて…」
夏樹の腕を取って自分の首に回させると、隆哉は夏樹のTシャツの裾を掴んで咥えさせた。
夏樹の声を気にして、というよりは肌を晒したかったらしい。
だが、その状態が酷くエロティックに感じて、夏樹は益々興奮した状態になってしまった。
下を見ると自分の胸の上で隆哉の指が動いている。
プックリと立ち上がった乳首が隆哉に摘まれて、指同士を擦り合わせるように捻られていた。
「んふぅ……ん…くっ…ん…んふぅ……っ」
恥ずかしさと気持ち良さで異常に興奮する。
さっき達したばかりだというのに、股間の物もすっかり育ち、先端から露を溢れさせていた。
「凄くエッチで可愛い…、夏樹…」
(ヤダッ、そんなこと…)
囁かれてカーッと熱くなる。
潤んだ目で見上げて、夏樹は嫌々と首を振って見せた。
「ここ、嫌なの?」
今度はコクコクと首を縦に振った。
「じゃあ、こっち?」
言葉の後に片手が下りて、すぐに夏樹自身が掴まれた。そして、露の溢れていた先端を人差し指がグリッと抉る。
「ふぁぁぁ……っ」
思わずシャツの裾を離し、夏樹は声を上げた。
「やだぁっ…」
力が抜けてズルッと腕が離れそうになり、夏樹は慌てて隆哉のシャツを掴んだ。
その腰に隆哉は腕を回すと、しっかりと抱き止めた。
「リキィ、もう、入れてよぉ」
恥ずかしかったが、もう我慢が出来ない。
隆哉の肩に顔を押し付け、夏樹は消え入りそうな声でそう言った。
すると、ゴクッと隆哉の喉が鳴るのが分かった。
「あっ…」
乱暴に押し倒されて、夏樹は思わず声を上げた。
だが、怒る気にはなれなかった。
興奮し切った隆哉の顔が見えて、夏樹もすぐに体中が熱くなるのが分かったからだった。
両腿を押し上げられて、途端に息が上がる。
隆哉の猛ったものが押し付けられると、夏樹はそれだけで身震いしそうになった。
「いい?」
「うん…」
頷くと、隆哉がグッと腰を入れてきた。
「んぁ…っ」
その圧迫感に声を上げたが、確かに何時もより痛みを感じなかった。
ローションの滑りの所為でスムーズに入ってくるのが分かる。隆哉の方もまた、いつもより楽なのか、一気にズッと奥まで入り込んで来た。
「あうぅぅ……っ」
「痛い?」
訊かれて首を振り、夏樹は手を伸ばすと隆哉の両腕を掴んだ。
「痛くない。気持ち…いぃ…」
「夏樹…」
嬉しそうに名前を呼ぶと、隆哉はチュッと夏樹の額にキスを落とした。
すると、夏樹は目を開けて口惜しげに隆哉を見上げた。
「俺の身体、段々エッチになる。リキの所為だぞッ」
「俺は嬉しいけど…。エッチしてるときの夏樹、ホントに可愛いし……。感じてる顔も泣きそうな顔も、凄く可愛いよ」
隠しも無く本気で嬉しそうにそう言われ、夏樹はカッと頬を染めた。
「馬鹿ッ…」
叩こうとしたが、振り上げた手を素早く掴まれて、そのまま頭上に縫いつけられてしまった。
力ではいつも絶対に敵わない。それが口惜しくもあったが、夏樹は強い隆哉もドキドキするほど好きだったのだ。
だが、そんな事を素直に口に出せる夏樹ではない。“離せ”と言って身を捩ろうとしたが、その前にキスで唇を塞がれてしまった。
「むぅ…ん」
すぐに身体から力が抜けて、隆哉の舌を受け入れてしまう。
強がってはみても、結局は逆らえなかった。
「凄くしたかった、夏樹。夏樹の事考えて、何度もオナったよ、俺…」
熱い囁きにブルッと身体を震わせると、夏樹は潤んだ目で隆哉を見上げた。
(俺だって……)
隆哉がゆっくりと腰を使い始め、夏樹はすぐに声を上げた。
やはり何時もよりも動きが滑らかな所為か、慣れるまでの痛みが殆ど無く快感も強いような気がした。
さっきまでは声を気にしていた夏樹だったが、もう何も考えられなくなってしまった。
「いやぁっ……、いいッ…、いいよぉ……いいよぉッ……」
「俺もッ…」
夏樹の手を離して太腿を抱え上げると、隆哉の動きが早まった。
「はぁっ…んっ……リキィッ…」
持ち上げられた太腿に手を回すと、夏樹はその快感に抗うようにギュッと肉を掴んだ。



翌朝、鉄太と一緒に海へ出掛けて2人はボードのレッスンを受けた。
さすがに運動神経がいいだけあって、隆哉もすぐに板の上に立てるようになった。
夏樹はキスマークが付いていると鉄太にからかわれて真っ赤になったが、それは嘘だと分かった。
「見える所には付けてませんから」
しれっとして隆哉に言われ、鉄太は吃驚して彼を見たが、すぐに前よりも赤くなった夏樹を見て、吹き出して笑った。
お盆には祖母や両親と一緒に墓参りに出掛け、その夜は盆踊りの会場へ出掛けて夜店を覗いて歩いた。
だが、混雑する会場からは早めに帰って来ると、花火大会に備えて2階の特等席へ陣取った。
夜店で買ってきた焼き蕎麦やたこ焼き、それに冷蔵庫から持ってきたジュースを盆の上に載せ、2人は窓辺に並んで座ると花火が打ち上がるのを待った。
「あ、始まった。あれが合図だよ」
最初に小さめの連発花火が上がり、夏樹はそれを指さした。
「お…、綺麗」
「海の上に明かりが見えるだろ?あそこの船から打ち上げるんだ」
「へえ…」
やがて、尺玉や連発花火がどんどん打ち上がり、2人は暫しその光の饗宴を楽しんだ。
「やっぱ、でっかいのはいいなぁ。俺、尺玉の方が好きだ」
「うん。あ、あれッ…」
隆哉が身を乗り出すと、海の上に半円形に光の花が開いた。
「あ、海上花火だ」
「うわ、綺麗だなぁ」
真っ暗な海の上にも映りこんで光の花が開き、不思議な景色を作り出していた。
初めて見た隆哉は感動した様子で、夏樹も嬉しくなった。
その横顔を見ていると、視線に気付いたのか隆哉が此方を向いた。
そして、笑いながら顔を近づけて来ると唇を押し付けてきた。
夏樹はすぐに隆哉の身体に腕を回そうとしたが、傍らで携帯が鳴り出し、ビクッとして身体を離した。
相手は鉄太だった。
「も、もしもし?」
夏樹が携帯を耳に当てて声を掛けると、クスクスと笑いながら鉄太が言った。
「そんなトコでチューしてると、丸見えだぞぉー」
「えッ?」
吃驚して身を乗り出し、夏樹は窓の下を見渡した。
すると、すぐ向こうの通りの人垣の中から、鉄太が此方に向かって手を振っていた。
「鉄ちゃん…」
呆れたように夏樹が名前を呼ぶと、耳元でまたクスクス笑う声がした。
「ごちそうさん」
「もうっ、邪魔すんなッ」
そう言って夏樹は電話を切ると、窓の外でまだ手を振っている鉄太に向かって言った。
「花火に背を向けてんのなんか鉄ちゃんだけだよっ」
その声は、勿論鉄太には届いていなかったが、身振りで何かを引っ張る仕草を何度もして見せている。
「うん?なんだ?」
夏樹が首を傾げると、隆哉は笑いながら頷いた。
「ああ、そっか…」
立ち上がった隆哉に夏樹は怪訝そうな顔を見せた。
すると、隆哉は部屋の電気を消して戻って来た。
「電気消せって」
「あ……」
今度は後ろ側に座り、その身体を抱きかかえるようにして隆哉は夏樹を腕の中に入れた。
「これなら外からも見えないよ」
「うん…」
隆哉の体温が、クーラー無しの部屋では熱過ぎた。
だが、その熱から逃げる気にはなれない。
じっとりと汗ばむ腕を絡みつかせ、2人は花火の音だけを楽しみながら、もう窓の外に目をやることはなかった。