イヌ・3


-6-

早く2階に上がって隆哉と2人きりになりたいと思っていた夏樹だったが、玄関に足を踏み入れた所で母親に捕まってしまった。
「はい」
グイッと差し出された籠を見て、夏樹は嫌な顔で母親を見上げた。
「なに?」
「おばあちゃんが畑に行ってるから、野菜運ぶの手伝いなさい」
「ええー?」
顔を顰めた夏樹の後ろから、ニュッと隆哉の長い腕が伸びて籠を受け取った。
「畑って何処ですか?」
「あ、悪いわねえ、力丸君。夏樹が知ってるから、一緒に行ってやってくれる?」
「はい。夏樹、行こう」
自分には見せた事も無い、飛び切りの笑顔を浮かべた母に向かって、憎らしげに歯を剥くと、夏樹は隆哉と一緒にまた外へ出た。
「遠いのか?」
「ううん。すぐそこ」
家から歩いて5分ほどの場所に小さな土地があって、祖母はそこで野菜を育てていた。
夏樹たちが行くと、トマトや胡瓜、茄子、それに西瓜やトウモロコシを収穫した祖母が待っていた。
夕飯の材料にするつもりで野菜を採りに来たらしいが、トウモロコシはすぐに茹でて夏樹たちに食べさせようと思ったらしく、もう綺麗に皮が剥いてあった。
「採ってすぐに茹でると甘いからね」
「へえ…」
西瓜をひとつ夏樹に抱えさせると、隆哉は他の野菜を全部籠に入れて自分が持った。
軽々と籠を背負う隆哉を見て、祖母は感心するような顔をした。
「やっぱり、大きいから力があるねえ」
「いや、これぐらい、大して重くないですよ」
隆哉が笑うと、祖母も嬉しそうに頷いた。
「隣の鉄ちゃんも大きくなって驚いたけど、力丸君も同じくらい大きいねえ。お父さんやお母さんも大きい人なの?」
「母は普通ですけど、父はあの年代にしては大きい方かも知れません」
「そう。ウチも、両親とも小さい方じゃないから、夏樹ももっと大きくなると思うんだけどねえ」
どうやら祖母は、夏樹が小さい事を気にしてくれていたらしい。同じ年の隆哉と比べて、更に心配になったのかも知れなかった。
「いいよ、ばあちゃん、慰めてくれなくても」
少々膨れた夏樹を見て、祖母は苦笑した。
「まあ、あんたのお父さんも高校生になってから急に伸びたし、まだまだ大丈夫だよ、夏樹」
「うん。ありがと、ばあちゃん」
溜息混じりにそう言うと、夏樹は西瓜を抱え直して歩き始めた。
幾らこれから伸びると言っても、もう限度があるだろう。自分が、隆哉と肩を並べられるくらいに成長出来るとはとても夏樹には思えなかった。
だが、せめて高校生に見られるくらいの身長にはなりたい。そしたら、もっと隆哉に近づけるような気がする。
そう思って振り向くと、隆哉は祖母と楽しげに会話していて夏樹が見たのに気付かない様子だった。


家に帰っても、すぐに2人きりになりたくて2階へ誘った夏樹に首を振り、隆哉は祖母の手伝いをしに台所へ入ってしまった。
夏樹が膨れていると、持って来た宿題をやるようにと母に言われてしまい、渋々独りで2階へ上がった。
仕方なく、父が昔使っていた古い勉強机の上に宿題を広げ、夏樹は溜息をつきながら問題を解き始めた。
20分ぐらいすると、机の上で携帯が鳴った。
見ると、相手は鉄太だった。
夏樹はシャープペンシルと置くと、携帯を耳に当てながら椅子から立ち上がった。
「鉄ちゃん、どうかした?」
喋りながらベッドへ腰を下ろし、夏樹はその上に置いてあった漫画雑誌に手を伸ばした。
丁度、勉強に飽きてきた時だったので、読もうとした訳ではないが自然と手が伸びたのだ。
「さっき会った友達、力丸って言ったっけ?夏樹が気にしてたの、あいつのことだろ?」
訊かれて、夏樹は雑誌を捲っていた手を止めた。
「う、うん…。そうだけど」
夏樹が歯切れ悪く答えると、鉄太がクスッと笑うのが聞こえた。
「まあ、確かにあいつと比べられたら嫌だよなぁ」
「うん…」
「でも、あっちは全然気にして無いんだろ?てか、夏樹のこと大事にしてくれるって言ってたよな」
「そうだけど…。それはその、友達としてって意味だよ?変な意味じゃないからッ」
必死に言い訳すると、鉄太はまた笑ったようだった。
「夏樹、あいつのこと好きなんだ?」
「ちがッ…」
確信有りげに言われ、夏樹は思わず雑誌を取り落とした。
「いいって、いいって、隠すなよ。俺、別にそういうの差別しねえし」
「鉄ちゃん…」
また、言い訳しようと夏樹が口を開いた所にドアが開いた。
ハッとしてそちらを見ると、皿の上に2人分の茹でたトウモロコシを載せて、隆哉が立っていた。
「あ…」
思わず夏樹が顔色を変えると、隆哉の眉がギュッと寄せられた。
電話を切ろうとして、夏樹は鉄太に断ろうとしたが、その前にツカツカと近寄ってきた隆哉が、素早く机の上に皿を置いて夏樹の両手首を捕まえてしまった。
「やっ…、なんだよっ?」
抵抗しようとした夏樹を、隆哉はベッドの上に押し倒した。
「いやっ…」
持っていた携帯電話が手から離れて枕の向こうに落ちた。隆哉はそれに構わずに夏樹を押さえつけると、タンクトップの下に手を差し入れた。
「いうッ…」
乳首を指に挟んでギュッと潰され、その痛みで思わず夏樹が声を上げた。
蹴り上げようとして脚を縮めたが、その前に隆哉が圧し掛かってきて自由を奪われてしまった。
そして、刺激されて勃起した乳首を、隆哉は指に挟んでクリクリと捻った。
「ふぁっ…」
ビクッと夏樹の身体が震え、もがこうとした腕から力が抜けた。
「あっ…、や…や…」
真っ赤になりながら首を振ると、夏樹は何とか身体を捻って携帯電話に手を伸ばそうとした。だが、自由になった隆哉の両手が後ろからタンクトップの下に入り込んで来た。
「だ駄目ッ、やだぁ…」
電話はまだ鉄太と繋がっている筈だ。声を上げたら聞かれてしまう。
だが、それが分かっていても夏樹は我慢が出来なかった。
「うくっ……うぅ…んっ」
タンクトップを捲くり上げて、蠢く隆哉の手が見える。
それを離させようとして両手で手首を掴んだが、力を入れられずに夏樹は蹲ってしまった。
(やだッ、鉄ちゃんに聞かれるッ)
「やめっ…、ふっ…うっ…」
口を開くと喘いでしまう。
夏樹は目の前にあった枕の端を口の中へ入れてギュッと噛んだ。
隆哉の唇が項にキスを落とすのを感じ、夏樹は観念したように目を瞑った。
舌が、髪の生え際をザリザリと舐め上げる。その度に、ゾクン、ゾクン、と身体が震えた。
(もう、駄目…)
鉄太に声を聞かれているに違いないと思うと、その恥ずかしさが余計に夏樹の身体を敏感にしてしまった。
下着の中で自分自身が痛いほどに立ち上がっているのが分かる。そこにドクドクと血が通っているのが、乳首を弄られる度に感じられた。
「あんっ…あっ……あぁんっ…」
キュキュッと強く摘まれ、夏樹は思わず枕から口を離して声を上げた。
すると、隆哉の片手が器用に夏樹の下半身から衣類をずり下ろした。
「ぅふぅ…」
解放されて思わず溜息が漏れる。
もう熱くて我慢出来なくなっていた夏樹の股間に隆哉の片手が下りた。
「ん…くぅ…」
隆哉の指が敏感な先端を擦り、更に露を溢れさせると、その滑りを取った手が背後に回る。
指を挿し入れられた夏樹がまた声を上げた所で、胸を弄っていた方の隆哉の手が伸びて、枕の向こうの携帯を掴んだ。
プッと、夏樹の目の前で携帯の電源が切られた。
(リキ、知って……)
電話の相手が鉄太だと、隆哉は気付いていたのだろう。
だからわざとこうして、鉄太に夏樹の声を聞かせたに違いなかった。
「いじわるッ」
夏樹がギュッと枕を掴んで口惜しげに言うと、隆哉の手が夏樹から離れた。
「夏樹が悪いんだろっ?」
珍しく強い口調で隆哉に言われ夏樹は驚いて振り返った。
「あいつのこと、カッコいいって言ったり、俺の前で内緒話したりしてッ」
「あ……」
「オマケに今度はこそこそ電話したりッ…」
「べ、別にこそこそした訳じゃ…」
「じゃあ、何で俺が入ってきたら慌てたんだ?」
「そ、それは……」
隆哉の余りの剣幕に、夏樹はたじろいでしまった。
確かに夏樹はあの時、少々慌てていた。
丁度、隆哉の話をしていた所に彼が入って来た事もあったし、それに、鉄太に自分の隆哉への気持ちを言い当てられたことも夏樹を慌てさせていたのだ。
だが、その事を隆哉に上手く説明する事が出来なかった。
すると、隆哉は口惜しげに夏樹から目を逸らした。
「俺、来ない方が良かった?」
「なっ、なに言ってんだよッ」
驚いて夏樹が起き上がると、隆哉はまた夏樹に視線を戻した。
「確かに鉄太さんはカッコいいもんな。それに、俺と違って大人だし。あっちも、夏樹のこと可愛がってくれてるみたいだし…」
「リキ…」
まさか、隆哉の口からこんな台詞が出てくるとは思いもせず、夏樹は少し呆然としてしまった。
言葉を返そうと思って探したが、最初に何から言っていいのか決めかねていると、隆哉がフッと溜息をつくのが分かった。
「ごめん…。ちょっと、頭冷やしてくる」
「リッ、リキッ」
慌てた夏樹を残し、隆哉は部屋を出て行ってしまった。
「そんな…」
隆哉が嫉妬してくれる事が少し嬉しかったのは確かだった。
だが、折角、一緒に居られるようになって、これから楽しい時間が始まるのだと思っていたのに、まさかこんな事になるなんて夏樹は信じられなかった。
「帰っちゃったら、どうしよう…」
脱がされた衣服をノロノロと直しながら夏樹は呟いた。
「やだ、やだよ、そんなのッ」