イヌ
-8-
すると、寝ていた筈の隆哉が、むくっと起き上がる気配がした。
ハッとして目から手を退けた夏樹の前に黒い影が覆い被さって来た。
「ほんと?」
信じられないといった口調で隆哉は訊いた。
「リキ…ッ」
驚く夏樹の頬に隆哉の唇が落ちてきた。
暗くてその所在が分からないのか、顔の上で夏樹の唇を闇雲に探し始める。
そして、やがて辿り着くと、激しく吸い始めた。
「んむっ…」
喘いだ夏樹の歯の間に性急に舌が捻じ込まれた。
最初の時と同じに、また夏樹は訳も分からないまま、隆哉の舌に口中を蹂躙されていた。
「はぁっ…」
やっと開放されて、夏樹は大きく息をついた。
すると、隆哉がベッドサイドのスタンドを点け、夏樹は突然の眩しさにギュッと目を瞑った。
「嘘だなんて、何で思うんだよっ?ホントに俺、夏樹が好きなんだッ」
「り…」
まだ目を開けられずに居る夏樹に、隆哉はまたキスを落とした。
今度はさっきよりもゆっくり、舌が口中をくまなく愛撫した。
「んふっ…、んっ…」
今度は息苦しさではなく夏樹は喘いだ。
両手が、隆哉のシャツを必死に掴む。
(リキ…、リキ……)
心臓が早鐘のように打ち、夢中で舌を差し出す。
強く吸われて夏樹の腰がビクンッと持ち上がった。
なんだか訳の分からぬまま、それでも泣き出したいような激情に襲われながら、夏樹は隆哉の身体に必死でしがみついた。
唇が離されても、夏樹は腕を隆哉の首から離さなかった。
「リキ…ッ」
「夏樹、ホントに好きだよ?好きなんだ…」
訴えかけるように隆哉は言った。
それを聞いて、とうとう、夏樹は本当に泣き出した。
「もういいよっ。そんな、嘘付かなくていいッ。俺、ちゃんと知ってるから…、分かってるからッ」
悔しくて、悲しくて、夏樹は泣きながら叫んだ。
「皆が、俺なんかリキと釣り合わないって言う。そんなの俺が一番良く知ってる。自分がどんなに見っとも無いか、リキとどんだけ違うか、ちゃんと知ってるよッ」
わあっ、と子供のように声を上げて夏樹は泣いた。
吉岡のことも言いたかったが、もう言葉が続かなかった。
隆哉と自分のどうしようもないくらい大きな差がもどかしくて、それを縮める術さえ知らない自分が情けなくて、込み上げてくるものを抑え切れなかった。
「馬鹿、夏樹ッ」
そんな夏樹を隆哉は愛しげに腕に抱きしめた。
「他の奴の言葉なんか何で聞くんだよ?何で俺の言うことを信じてくれないんだよ?」
「だって、吉岡さん…」
ヒクッ、ヒクッ、とまだ泣きじゃくりながら、やっと夏樹は答えた。
「え…?吉岡先輩がなに?」
怪訝そうに訊かれて、夏樹は顔を上げた。
必死で泣き止んで、夏樹は隆哉の顔を見た。
「リキがホントに好きなのは、吉岡さんなんだろ?俺のことはカモフラージュなんだろ?」
「な……?なにそれ?どうしてそんなことになっちゃうんだ?」
「だって、携帯に写真…」
「えっ?見たのか?あれ…」
「ご、ごめん、勝手に見て……。でも俺…」
「いいよ。そうか…、まあ、アレを見たら誤解されても仕方ないか…」
苦笑しながら隆哉は言った。そして、今度はちょっと可笑しそうに笑った。
「あれね、実は主将に頼まれて撮ったんだ」
「え…?」
「主将、吉岡先輩のことが好きみたいなんだけど、吉岡先輩って見た目はか弱そうだけど豪傑でさ、ああいう容姿の所為で余計に過敏になってるのか、同性にそう言う目で見られるのを凄く嫌がるんだ。だから主将も、中々告れないらしくって…」
「そ、そうなの?」
「うん。あの写真は、部長にメールで送ったら消去するつもりだったんだけど忘れててさ。だから夏樹、俺が好きなのはホントに夏樹なんだよ?信じてくれよ、頼むから」
「だってっ…」
隆哉の携帯に吉岡の写真があった理由を知り、ホッとした途端にまた涙が込み上げた。
夏樹は、嗚咽を堪えながら、やっと言葉を押し出した。
「だって……、俺なんかの何処が好きなんだよ?チビだし、顔だって良くないし、頭も悪いし、強情だし…。こんなに、こんなに見っとも無くて…ッ」
ボロッ、ボロッと、大粒の涙が夏樹の目から溢れて目じりを伝い落ちた。
すると、隆哉が夏樹の身体に股間を擦り付けた。
「分かる……?夏樹を抱きしめてキスしただけでこうなるんだ。夏樹の事が欲しいからだよ。好きじゃなきゃ、こんな風になる訳ないよ」
「リキ……」
「夏樹は見っとも無くなんかない。小さいけど、いつも元気で明るくて、可愛くて、大好きだよ」
「ほんと?ほんとに?ホントに好き?」
「うん…」
頷くと、隆哉はまた夏樹に唇を押し付けた。
だが、今度はさっきと違い夏樹の上唇の尖った部分だけを口に含んだ。
ちゅ、ちゅ、と吸い、舌先で舐める。
夏樹はくすぐったくて、思わず軽く首を振った。
「や……」
「ここ、可愛い……。前からキスしたいって思ってたんだ」
言いながら、また唇がそこを吸う。
「んっ……」
コンプレックスだった夏樹のアヒルのように尖った唇を隆哉は可愛いと言ってキスしてくれた。
夏樹はカッと頬を染めながら益々隆哉にしがみついた。
すると、隆哉が慌てて身体を離そうとした。
「夏樹っ、駄目だ、俺…、トイレ……」
「え…?」
見ると、隆哉の股間はその形が分かるほどはっきりと主張していた。
「あ…」
カーッと、さっきよりも激しく夏樹の顔に血が上った。
嬉しさと恥ずかしさで、体中がざわざわと騒ぐのが分かった。
ゴクッと喉を鳴らして唾を飲み込むと、夏樹はギュッと隆哉の服を掴んだ。
「い、いいよ…。リキが俺でいいなら、俺…」
「夏樹……」
忽ち、隆哉の顔にもカーッと血が上った。
「な、何言ってんだよ?熱があるんだぞ、そんな…」
「いいよっ。平気……」
「夏樹……」
ゴクッと、今度は隆哉の喉が鳴った。
そして、起き上がると、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
初めて見る訳でもないのに、夏樹は隆哉の裸にドキドキと胸が高鳴るのを感じた。
その逞しい身体が、自分の上に再び覆い被さって来た。
キスと同時に、今度は両手がパジャマの下に入り込んだ。
肋骨を撫で上げ、親指がそこに届くとぐりぐりと擦る。その刺激で、忽ち硬く腫れ上がった。
「んふっ、んっ……」
尖って敏感になった乳首を弄られ、股間に血が集まって来るのが分かった。
恥ずかしさと快感で、夏樹はとてもじっとしていられなかった。
もじもじと腰を動かすと、それに気付いたのか隆哉が起き上がって夏樹のパジャマのズボンに手を掛けた。
ズルッと下着ごと下げられて、股間のものが開放されて立ち上がった。
「やッ…」
余りの恥ずかしさに、夏樹は両腕を顔の上に乗せた。
すると、隆哉は夏樹の股間に顔を近づけた。
「あんッ。…ヤッ……リキッ」
含まれて、夏樹は驚いて起き上がろうとした、だが、隆哉の腕に押さえつけられてしまった。
勿論、そこを他人に触られるのは初めてだった。しかも、こんなことが起きるなんて想像さえしていなかったのだ。
恥ずかしくてとても直視出来ず、夏樹は顔を背けてギュッと目を瞑った。
だが、その快感には抗える筈も無く、幾ら唇を引き結んでもそこから声が漏れてしまった。
「んっ、んくっ…ん、ふぅんっ……」
胸の上までたくし上げられたパジャマを両手でギュッと掴み、夏樹は背中を反らして喘いだ。
両脚が段々に縮こまり指がシーツを掴む。
やがて、ぷるっ、ぷるっと、小刻みに身体が震え始めた。
「やっ、出るッ…、リキィッ、も…出るッ…」
すると、サッと隆哉の口が離れた。
「あっ、ヤダッ…」
達しかけた途端に中断され、夏樹は思わず叫んだ。
「顔、見せて?」
言いながら隆哉はすっかり濡れたそこを掴んだ。
そして、強く擦り上げた。
「ああっ……ッ」
ビクビクッ、と震えて、夏樹は隆哉の手の中に精を吐き出した。
「可愛い、夏樹…」
愛しげにそう言い、隆哉は濡れた手を夏樹の背後へと運んだ。
「ふぁッ…?」
隆哉の指の侵入で、夏樹はビクッと震えて起き上がった。
思わず閉じようとした脚を、隆哉の手が阻む。そのまま横向きに転がされて、露わになったそこに深く指が入り込んだ。
「嫌だッ…」
余りの恥ずかしさと、思わぬ痛みに夏樹は逃げ腰になって叫んだ。
だが、隆哉の腕は夏樹の両脚を押さえて逃がさなかった。
「駄目だよ。解さないと入らない…」
その言葉に、カッと頬が染まる。
ここに、隆哉が入ってくるのだ。
さっきはいいと言ったが、経験の無い夏樹には、実はこの時まで余り現実味が無かった。だが、今、自分が隆哉とセックスをしているのだと初めて実感したのだ。
そして、途端に怖くなった。
「い、いやっ、嫌だ。入れんの、いやっ、やだよッ」
身体をずり上げ、必死で隆哉の腕から逃げようとしたが、腰を抱えられて体重を掛けられるととても身動き出来なかった。
「駄目だよ。いいって言ったろ?もう、逃がさない…」
さっきまであんなに優しかったのに、まるで別人のように強引に、隆哉は指を増やしてそこを押し広げた。
「いやだぁッ、痛い…、リキ、痛いよぉっ」
夏樹が泣き出しても隆哉は止めなかった。
その代わりに頬にキスを落とし、慰めるように愛撫した。
「力抜いて?」
「できな……」
首を振ると、またキスが落ちてくる。
「出来るよ。力を抜くんだ」
こんなに強引な隆哉は初めてだった。
いつだって夏樹の言うことを無条件に聞いてくれていたのに、今は有無を言わさず、隆哉は夏樹の身体を解すと指を抜いた。
だが、まだ夏樹の両脚を抱えた腕は離さなかった。そして、そのまま自分の短パンと下着をずらすと、怒張した自分自身を掴んだ。
それが、ちらりと夏樹の目に入った。
「いッ…、嫌だッ、嫌だッ……いやぁ…」
硬く立ち上がったそれは自分のよりもはるかに大きい。 いや、今まで見た誰の物よりも夏樹には大きく感じられた。
余りの恐怖に、夏樹は泣き叫んだ。
首を振って逃げようと身体を捩る。 だが、抱えられた両脚を隆哉の腕から引き抜くことは出来なかった。
グッと膝が胸まで押し付けられた。
腰が持ち上がり、隆哉が圧し掛かる。
いつの間にか腰の下に枕が差し込まれ、容易にその姿勢を保てるようにされていた。
「ああっ…」
ぐりっ、とそこを何かが襲った。
焼け付くような痛みで夏樹は声を上げた。
「いいぃ…ッ、いぅっ、…やっ、やぁぁ……」
ぐっ、ぐっ、と隆哉が押してくる。
その度に、押し広げられていくそこに強烈な痛みが走った。
泣きじゃくって首を振ったが、隆哉は止めてくれなかった。
夏樹の膝の裏を両腕で抱え、それを開かせると容赦なく腰を突き入れる。
今初めて、夏樹は隆哉を怖いと思った。
「リ…、リキッ……。許して、許してよぉ…」
泣きながら訴えると、隆哉の顔が近付き、唇を吸った。
チュッ、チュッ、と優しくキスをされ、やっと夏樹が泣き止むと隆哉は唇を離した。
「頼むから、慣れて?俺、夏樹じゃないと駄目なんだ」
「リキ……」
「痛いのも、怖いのも分かってる。だけど俺、ずっと夏樹とエッチしたいって思ってて…、だからもう、歯止めが利かない。今更、止められない…」
その言葉を聞いて、夏樹は涙を堪えた。
(俺だけ……。リキは俺だけを欲しがってくれてるんだ…)
だったら我慢出来る。
痛くても、怖くても、平気だと夏樹は思った。
「うう…」
涙を堪えて頷くと、夏樹は強張っていた脚から力を抜いた。
すると、それを掴んでいた隆哉の手がさらに大きく開かせた。
「いい?」
訊かれて、夏樹は頷いた。
その途端に、また隆哉がグッと身体を入れてきた。
「いうっ…」
痛みはどうしようもなかったが、だがもう、怖くは無かった。
隆哉が、本当に自分を欲しがっているのだと分かったから。
「リキィ…」
両手を差し伸べると、隆哉の身体が近づきギュッと抱きしめてくれた。
そのまま隆哉の腕の中で、夏樹はやがて意識を失った。
「ん…?」
「あ、熱かった?」
気が付くと、隆哉が熱いタオルで身体を拭ってくれていた。
「ううん…、大丈夫……」
「ごめんな?夏樹…」
心から済まなそうにそう言い、隆哉は夏樹の身体を拭った。
「謝るくらいなら、するなよ」
自分が隆哉に抱かれたことを思い出して急に恥ずかしくなり、夏樹は憎まれ口を聞くとフイッと顔を背けた。
「ごめん。痛いか?」
「分かんね…。なんか、体中がギシギシするし、ぼうっとするし……」
「また、熱が上がったかなぁ?…夏樹……後悔してる?」
恐る恐るそう聞いてきた隆哉に夏樹は視線を戻した。
「してない。……リキ」
夏樹は隆哉の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
そして、抱きついて肩に額を押し付けると言った。
「他のヤツとヤッたら嫌だから。……俺とだけだって約束しろよ」
「うん、勿論……」
嬉しそうにそう言うと、隆哉は夏樹の唇にキスを落とした。
「なあ、リキ、明日は部活?休みだったら、映画いこ?」
「ああ、いいよ。この前見られなかったし」
購買で買って来た夏樹所望のりんごジュースを手渡しながら、隆哉は言った。
「それから、今日の帰り、買い物付き合って?」
「いいよ。じゃ、図書館で待ってて?」
「うん。あ、あとさ…」
相変わらず隆哉は、夏樹がどんなに我侭を言っても笑って聞いてくれる。
それを見て、またクラスメートがからかったりしたが、夏樹はもう平気だった。
呆れた友達が、隆哉に肩を組んで言った。
「ほんと、おまえって忠犬だよなぁ。忠犬リキ丸」
その言葉に周りが笑ったが、隆哉は涼しい顔で肩を竦めただけだった。
(でも、エッチの時は狼だけどな……)
そう思って夏樹が見ると、隆哉は何を思ったのかニヤリと笑った。
あれから何度か身体を重ねたが、主導権は何時でも隆哉にあった。
夏樹がどんなに泣いても嫌がっても、結局は蹂躙されてしまう。
(きっと、今日もまた……)
急に頬が熱くなり、夏樹は慌てて目を逸らすと、持っていた本でさりげなく風を送った。
だからいいのだ。
普段はいっぱい我侭を聞いてもらおう。
その代わり、2人きりの時はなんでも言うことをきいてやろう。
誰も知らない、ちょっと強引な隆哉も自分だけのものだと思えば愛しくて堪らない。
「夏樹」
呼び掛けられて顔上げると、隆哉が耳元で言った。
「買い物の後、家に行くよ?」
囁かれてカーッと熱くなった頬を慌てて隠そうとして、夏樹は持っていた本をバサッと顔の前に持ち上げた。