続 一緒に帰ろう
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現れた輪島の性器を見て、七於は息を飲んだ。
それは、自分の物とは全く違う。大きさも形も、自分の知っている男性器ではなかった。
「七於?やっぱりいいよ。無理すんなって…」
苦笑しながらそう言った輪島に、七於は勢いよく首を振った。
「だ、大丈夫。俺、出来るよ」
そう言うと、七於は輪島の方へにじり寄った。
ゴクッと唾を飲み込み、おずおずと手を伸ばす。
だが、掴んだはいいが、どうしていいのか分からなかった。
「七…」
輪島が名前を呼んで手を離させようとすると、七於は我に返ったようになって手を動かし始めた。
七於の頑張りに、暫く黙ってさせていた輪島だったが、手を上げるとその肩をそっと押した。
「ごめん。気持ちは嬉しいんだけど、イける気がしねえ」
その言葉を聞いて、七於は泣きそうになると輪島を見上げた。
輪島は気の毒そうに見ていたが、何時もの様に七於の頭に手を置いた。
「ありがとな?マジで俺、今、感動してるっていうか…。七於がこんなことしてくれるなんて、思ってもみなかったから」
だが、輪島の言葉は七於の耳に入っていなかった。
自分が輪島の役に立てないのだと思うと、忽ち怖くなってしまったのだ。
「な、なら、俺に挿れて?」
「えッ?」
「お、俺、平気だから。怖くない。ワジーなら平気…。だから…」
言いながら輪島の股間に目をやり、その大きさを確認すると、忽ち恐怖が湧き上がった。
犯された時の、身体を引き裂かれるような痛みと恐怖が七於の中に蘇った。
泣き叫んでいて、自分の中に入った男たちの物は見ていない。だが、きっと輪島と同じように大きかったに違いない。
それがまた、自分の中に入るのだ。そう思っただけで、泣き出しそうだった。
「へ…き…」
言葉とは裏腹に、小刻みに震え出した七於を見て、輪島は力なく笑うとその肩を掴んだ。
「マジで無理することないんだって。七於の怖がることはしない。だからもう…」
「やだッ…」
叫ぶように言うと、七於は輪島にしがみついた。
「してよッ…。俺、大丈夫だって。大丈夫だから…ッ」
「七於…。何でそこまで…」
ガタガタと震えている七於の身体を抱きしめ、輪島は眉を寄せた。
ぶるぶると首を振り、七於は輪島の肩に額を押し付けた。
「やだ…。やだぁ…。他の人としちゃ嫌だよッ。俺、出来るから。出来るから…ッ」
「七於…」
切なそうに名前を呼ぶと、輪島は七於の涙を拭い、キスをした。
「そんな心配しなくていい。もう、絶対に、他の誰かと寝たりしねえよ」
「ほ…んと…?」
「ああ。絶対…」
輪島の笑顔を見てホッとしたのか、七於は身体から力を抜くと、輪島の肩に凭れ掛かった。
「でも…、俺、ちゃんとしたい。ワジーと…」
輪島は七於の髪を撫でながら、頷いた。
「ああ。けど、焦らなくていい。ゆっくりでいいんだ。七於の準備が出来るまで、ゆっくりで…」
七於が顔を上げると、輪島はその眼を見て言った。
「このまま俺に抱っこして?」
促されるままに、七於が太腿に乗ると、輪島は自分と七於の性器を一緒にして擦り始めた。
「あ……っ」
「捕まってろよ?」
「ん…」
頷いて、七於はまた輪島の肩に顔を押し付けた。
朝、七於が家から出ると、耀平が待っていた。
「あ、耀ちゃん。おはよう」
笑顔で七於が言うのを見ると、耀平は安堵したように笑った。
「おう。飯食ったか?」
「うん。食べたー」
「そか。じゃ、行くべ」
歩き出した耀平と並び、七於はその顔を見上げた。
「耀ちゃん、砂羽ちゃんと行かなくていいのー?」
「今日はな。七於の顔、見たかったし」
「え…?」
「あんな顔、見ちまったらなぁ。そりゃ、心配だってするって」
にやっと笑って耀平が言うと、七於は少し赤くなった。
「心配させてた?ごめんね?」
「まあ、いいよ。元気になったしな。おまえ…、輪島と仲直り出来たんか?」
訊かれて、七於は益々赤くなった。
「うん。あの……、耀ちゃん、俺…」
輪島とのことを打ち明けようとすると、耀平の手が七於の頭に乗った。
「いいって。俺に言う必要ねえし。おまえが元気なら、それでいいから」
「……ありがと、耀ちゃん」
嬉しくて、七於は耀平を見上げて笑った。
やっぱり耀平は、自分の事を弟の様に大切に思ってくれているのだ。だから、元気がなければ、こうして心配してくれる。
その気持ちが、とても有難いと七於は思った。
放課後、日直の仕事がある輪島を教室に残して、七於は屋上で待とうと思い階段を上り始めた。
すると、上から降りて来た栗原に出会った。
「信田…」
「あ…」
立ち止まってぺこりと頭を下げると、七於は言った。
「この前、ありがとう。ハンバーガー…」
「いや。何処行くんだ?」
「屋上ー」
「ふぅん?」
繁々と七於の顔を眺めると、栗原はニッと笑った。
「好きだって言えたんか?」
七於は驚いたが、素直に頷いた。
「うん…。なんで?」
「この前と顔が違う。……よかったな」
「うん。ありがとう」
そう言って、栗原と別れると、七於は残りの階段を上って屋上へ出た。
今日は日当たりが良くて、風も気持ち良かった。
七於は伸びをすると、手摺に近寄って校庭を眺めた。
運動部の活動や、下校する生徒たちが小さく見える。耀平と砂羽子の姿を探したが、見つからなかった。
手摺の前に座ると、七於は膝を抱えた。
ゆっくりでいいと輪島は言ってくれたが、自分の心があの恐怖を克服できる日は本当に来るのだろうか。
そう思うと怖くなる。だが、キスをされても体を触られても怖くなかった。
いや、快感を得ることも出来たし、何より嬉しくて堪らなかった。
だからきっと、輪島となら、いつか全てを分かち合うことが出来るのかも知れない。
怖がることなく、心から受け入れたいと思えるようになるのかも知れない。
そう思うと、七於の唇に笑みが浮かんだ。
扉が開く音がして振り返ると、輪島が近づいて来るのが見えた。
七於を見て笑うと、輪島はその後ろに座って、脚で七於を挟むようにした。そして、腕を回すと項に唇を押し付けた。
くすぐったくて、七於がクスクス笑う。それが嬉しくて、輪島の唇に笑みが浮かんだ。
「お待たせ。なんか食って帰る?」
「んー…」
七於が考えて首を捻った。
「タコ焼きか?それとも、ハンバーガーとか…」
「んー…」
珍しく迷っている七於の様子が可愛いのか、輪島は嬉しそうだった。
「じゃあ……」
輪島が言い掛けた時、七於がくるりと振り返った。
そして、輪島の首にぶら下がる様にして両腕を絡めた。
「チューする…」
七於を見つめて笑みを浮かべると、輪島はゆっくりと唇を近づけた。
昨日も何度もして、少しは慣れたと思っていたが、やはり輪島にキスされると、胸の鼓動が激しくなって七於はすぐに息が上がってしまった。
「ん…」
身体が熱くなり、切なくて堪らなくなる。
輪島のことが好きなのだと、身体中の細胞が叫んでいるような気がした。
唇を離すと、七於の眼に涙が溜まっているのを見つけ、輪島は眉を寄せた。
「どうした?」
「んー、やっぱりタコ焼き食べに行く」
「そんで、何で泣くんだ?」
「だって…」
そう言うと、七於は輪島の首に抱き付いた。
「大好きなんだもん…」
その言葉に輪島はクスリと笑った。
「タコ焼きが?それとも、俺が?」
答える代わりに、七於はぎゅっと腕に力を込めた。
「うん…、俺も」
幸せそうに笑みを浮かべてそう言うと、輪島もまた七於の身体を力強く抱きしめた。