続 一緒に帰ろう
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「来いよ。部屋に行こう?」
優しい輪島の笑みを見て、七於はまた、胸が苦しくなった。
分かってもらえるかどうか分からないが、それでも自分の気持ちを伝えたいと思った。
部屋へ行くと、輪島は七於をベッドへ座らせて、自分はもう1度階下へ降り、飲み物を持ってきてくれた。
「下で姉貴に聞いたけど、随分前に来てたんだって?ずっと外に居たのか?」
そう言って、輪島は七於に温かいココアの入ったカップを持たせた。
「まだ風冷たいのに。また、風邪ひいたらどうする」
「大丈夫。ありがと…」
フーフーと吹いてから、熱いココアを一口啜り、七於は前に座った輪島を見た。
「何処か、行ったの…?彼女…」
訊いていいことなのか分からなかったが、七於は知りたかった。
「ああ…。手術するために日本を出るんだ」
「しゅ、手術?病気なの…?」
心配そうな顔になった七於を見て、輪島はフッと笑った。
七於が心から心配しているのだと分かったからだろう。話したこともない相手にまで、七於は心を痛めるのだ。
「ミナ…、いや、湊はトランスジェンダーなんだ」
「とら…?」
意味が分からなくて、七於は訊き返した。
「身体は男だけど、心は女なんだよ」
「え…?」
輪島の言葉に七於は絶句した。
(身体は男…。あの綺麗な人が?)
信じられなかったが、七於は黙って輪島の言葉を待った。
「湊は俺たち家族がここへ越して来る前に住んでた団地の、同じ階に居たんだ。まあ、俺と姉貴とは幼馴染ってやつ?小さい頃からちょっと変わった子だったけど、俺たちとは仲が良くて、特に姉貴とは歳が同じだからよく遊んでた」
七於がコクッと頷くと、輪島は先を続けた。
「姉貴たちが中学に上がった頃かな?男と女だってのに、相変わらず湊と姉貴は仲が良くて、ウチにも遊びに来ることも多かった。……あの日、姉貴が台所へ飲み物かなんか取りに行って、部屋に居たのは湊一人だった。それを知らずに外から帰って来た俺がドアを開けると、湊が姉貴の服を胸に当ててたんだ。……最初、湊は姉貴が好きなのかと思った。それを告れなくて、つい、そんな行為をしたのかと…。でも、そうじゃなかった。湊は姉貴の服を着てみたかったんだ」
男なのに女性の服を着たかった。そんな湊の気持ちが、七於には分からなかった。
だがそれは、きっととても辛いことだったのではないだろうか。
「泣き出した湊を、戻って来た姉貴が宥めて話を聞いた。誰にも言えなかった湊の苦しみを、俺たちはその時、初めて知った。姉貴にワンピースを着せてもらって、髪も整えてもらって、薄く化粧もしてもらうと、湊は鏡の中の自分を幸せそうに見つめた。……俺はまだガキだったから、正直、本当の意味で湊のことを理解出来た訳じゃなかった。けど、あの時の湊の幸せそうな顔は今でも覚えてるんだ…」
「その頃から、好きだったの…?」
七於が訊くと、輪島は首を振った。
「いや…。同情はしてたけど、そういう感情はなかった。まあ、奇異の目で見たりする気はなかったし、湊の秘密も守るつもりだったよ。けど、このままじゃ可哀想だと思った姉貴は、湊の母親と親友だったお袋に相談した。お袋の話を聞いて、湊の母親も父親も悩んだろうけど、息子のことを否定せずに、家の中では女の子として生活させようってことになったんだ」
「そうなんだ…」
今の湊は何処からどう見ても女の人にしか見えない。男だなんて疑う人はいないだろう。
だが当時、外では無理して男の振りを続けていたのだ。それはきっと、酷く辛いことだっただろう。
「俺が中2の時にこっちに越してきたんだけど、姉貴はずっと連絡取り合ってたし、お袋も小母さんに相談されてたみたいだった。……自分の性が受け入れられなくて、もう、湊の心は崩壊寸前で、自殺未遂もしたらしい。とうとう、決意して、小母さんたちは湊が性転換の手術を受けられるように手配した。湊は喜んだけど、身体が変わっても誰にも女だってことを認めてもらえないんじゃないかって思ってたみたいなんだ。俺は全部は知らないけど、湊は人を信じられなくなるような酷い目に、沢山合ってきたんだよ…」
七於がじっと黙っていると、輪島がその手を取った。
「俺は…、湊に自信をつけさせてやりたかった。湊は綺麗だし、男なら誰だって付き合いたいと思う。それを感じさせたかった」
「じゃあ…、本気の彼女じゃなかったの…?」
七於が訊くと、輪島は首を振った。
「いや、セックスこそしなかったけど、本気の彼女だったよ。…俺がそう思わなきゃ、湊の不安を取り除けないから」
輪島の話を聞くと、七於は自分の彼への気持ちが後ろめたくて堪らなくなってしまった。
ただ、好きだというだけで、湊に嫉妬した自分が許せない気がした。
「ごめんなさい…。俺…、我儘だった…」
握られていた手を取り戻すと、七於は両手で目を覆った。
「ワジーに会いたいとか、傍にいて欲しいとか、そういうの全部駄目だったッ。俺は思っちゃいけなかったッ。駄目なのに…」
「七於ッ…」
輪島の手が顔を覆った七於の手首を掴んだ。
ゆっくりと手を外すと、七於は切なさの籠った眼で輪島を見つめた。
「でも、どうすればいいの…?俺…、好きなのやめられない…。やめられないんだ」
輪島の両腕が、ギュッと七於の身体を抱きしめた。
「俺が悪かった。俺が馬鹿だった。ごめんな?七於の傍に居られれば、それだけで良かった筈だった。……いいんだよ。七於が笑顔でいてくれるなら、俺は何にも欲しがったりしない。ずっと、そう思ってたんだから」
両手を伸ばして輪島の頬を包むと、七於はその腕の中で彼を見上げた。
「好きなら触りたくなるって…。俺、そんなの考えたことなかった。でも、分かったよ。ワジーのこと考えたら、すごく会いたくなって、顔見たら、触りたいって、触って欲しいって思った。他の誰にも取られたくない。やだよッ…」
「七於…」
更に腕に力を籠めると、輪島は七於の顔に額を押し付けた。
「こうしてるだけでいい。七於が好きだって言ってくれたんだから、それだけでいいんだ。もうほんと、贅沢言わねえよ」
だが七於は、首を振ると輪島を見上げた。
「やだよ。チューしてよ。前みたく、いっぱい…」
「けど…」
躊躇う輪島の首に腕を回すと、七於は自分の方へ引き寄せた。
「チューしたいッ…、ワジーと…」
七於が言うと、輪島の顔がゆっくりと近づいて来た。
そして、その唇が七於の唇を捕らえた。
チュッと軽く吸われる感覚の後で、それはすぐに離れて行った。
七於は眼を開けると、輪島を見上げた。
「平気か?」
確かめる様に、輪島は七於の眼を見つめた。
コクッと頷き、七於は言った。
「もっと…。前みたいにして?」
「でも…」
躊躇う輪島に、七於は首を振った。
「やだ…。してよ…」
輪島がコクっと喉を鳴らすのが分かった。そして、唇が近づいて来た。
「口、開けて…」
七於の唇に触れる寸前で輪島が言い、七於は言う通りに唇を開いた。
するっと、輪島の舌が口の中に入ってくるのが分かった。
前の時と同じように、その舌が七於の口の中を舐めていく。舌下に入り込んで持ち上げられ、いつの間にか吸われていた。
「んふ…」
七於は喘いで、ギュッと輪島の服を掴んだ。だが、怖いとは思わなかった。
そして、もう、逃げたいとも思わなかった。
(身体、あつい…)
夢中で輪島にしがみついている内に、七於はベッドの上に押し倒されていた。
ちゅ、ちゅと音を立て、何度も舌を吸われる。上手く呼吸が出来ない所為か、それとも、興奮して息が上がっている所為か、矢鱈と胸が苦しかった。
「七於?大丈夫か?怖くない?」
耳のすぐ傍で輪島の声が聞こえて七於は眼を開けた。
「ん…」
頷くと、七於はまた輪島を引き寄せた。
「もっと…」
七於が言うと、輪島の唇が下りて来た。
「ふ…ふ…っ」
七於は
吐息を漏らしながら、輪島の舌に口中を嘗め尽くされ、頭の中がぼうっとなってしまった。
「七於?少し触っても平気か?」
「ん…」
訊かれて、七於はまた頷いた。
輪島にセーターを脱がされ、パーカーの裾を捲られたが、七於はじっとして動かなかった。
「可愛い…」
服の下から七於の乳首が現れると、輪島はそう呟いて少し嬉しそうな顔をした。
まだ柔らかいそこに指を伸ばし、輪島は乳輪ごとそっと摘まんだ。
暫くクリクリと指を擦り合わせる様にして刺激を与えると、埋没していた乳首がぷっくりと膨らんだ。
それを人差し指で転がされると、七於はピクッと震えた。
「んッ…」
小さく声を漏らし、紅潮した顔を隠すように、七於は片手を上げて唇の上に乗せた。
「怖い?」
輪島に訊かれて、七於は顔を隠したままで首を振った。
「くすぐったい…」
そんな七於を愛しそうに見ると、輪島はもう一方の乳首に舌を這わせた。
「あっ…」
初めての快感に、七於は身の置き所が無いのか、もじもじと身体を動かした。
「ふぅぅ……んッ」
喘いで七於が身を捩ると、輪島は唇を離した。
七於の股間が硬くなっているのに気づき、輪島は手を伸ばした。
「七於、ここも触っても平気か?」
「……うん、大丈夫」
七於の言葉を聞いて、輪島は起き上がると、七於のズボンと下着を脱がせた。
勃起した性器が現れ、七於は恥ずかしくて眼を逸らした。
「嫌だったら言えよ?すぐ止めるから」
七於が頷くのを確認し、輪島は手を伸ばした。
「ふッ…ん」
掴まれると、七於は自然と声を上げた。
「あ…、あ…あ…」
扱かれて喘ぎだした七於を見て、輪島は片手を突くと、身体を近づけてまたキスをした。
「んく…、んッ…ん…ああっぅ…ッ」
すぐに達してしまい、七於は震えると自分の腹の上に精を吐き出した。
輪島は名残惜しそうに何度かキスをすると、起き上がって七於の腹をティッシュで拭った。
やっと眼を開けて、七於は輪島を見上げた。
怖がっていないか何度も確かめて、自分に無理をさせないように気遣ってくれた。そんな輪島の優しさが七於は本当に嬉しかった。
「お、俺も…する」
起き上がりながらそう言うと、輪島は驚いて七於を見た。
「え?」
「お、俺も、ワジーの…」
そう言って、七於がズボンのファスナーに手を掛けようとすると、輪島は驚いて身を引いた。
「いや、俺はいいって」
「だって…」
輪島の股間も硬くなっていることは七於にだって分かった。
また手を伸ばした七於を遮り、輪島は宥める様に言った。
「いいから。無理しなくていいんだ」
「大丈夫。俺、ちゃんとするからっ」
「七於…」
その真剣な目を見てゴクッと喉を鳴らすと、輪島は自分でファスナーを開けた。