手の内・3


-2-

「ほう…、もう効いてきたんだ。案外、即効性があるんだな…」
感心したように呟き、蹲って見上げる僕の前に片膝を突いた。
「苦しいかい?媚薬は初めてのようですね?」
「え…?なに…?」
その言葉に驚き、僕は前島を凝視した。
「薬ですよ。こうでもしないと、君を自由に出来そうもないからね。まさか、力尽くでどうにか出来るとは思えないし…。幾ら華奢でも、君だって男ですからね」
まさかの言葉に、僕は信じられない思いで彼を見つめた。
それでは、さっきのサンドイッチに媚薬が仕込んであったと言うのだろうか。
「そんな…」
確かに以前、僕は彼の誘いを撥ねつけた。
だが、あの時は僕を馬鹿にする為のからかいの様なものだと思っていたのだ。まさか、彼が本気で僕との性行為を望んでいるなんて思いもしなかった。
「立てますか?こっちへ座りましょう」
「さ、触るな…ッ」
掛けられた腕を振り払おうとしたが、上手くいかなかった。
「強情を張るもんじゃありませんよ。ほら、こっちに来なさい」
脚の萎えている僕を無理やり立たせると、前島はソファに座らせた。
そして、持っていた鞄の中から紙袋を取り出した。
「じゃあ、始めましょうか?」
楽しげに笑いながらそう言い、彼が袋から取り出したのは革で出来た手枷のような物だった。
2つのリストバンドの間は、鎖によって繋がれている。
「な…?」
それを見て、僕は蒼ざめた。
一体、前島は僕に何をするつもりなのだろうか。
「いやッ…」
逃げようとしたが、薬の所為で身体が思うようにならない。忽ち掴まって、僕は前島に組み敷かれてしまった。
「いやだっ。やめろっ…」
「大人しくしなさい」
もがく僕を抑え付け、前島は僕の両腕を背中に回させると、さっきの手枷で拘束した。
「いやぁ……」
それで無くても動けなくなっている身体の両手の自由が奪われては、抵抗することも許されなくなった。
悔し涙が頬を伝ったが、僕は前島の思う通りに服を脱がされてしまった。
「なるほど…。男にしては綺麗な肌だな…」
呟いて、前島はクスッと笑った。
「それにしても、随分とまあ、沢山つけられたものだ…。社長は、余程君の身体がお気に入りらしいね…」
僕の肌につけられたキスの後を指で辿り、前島は楽しげにそう言った。
「ふ……ぅっ…・・」
薬の所為だろう。
ただ、そうして肌の上を指が滑っただけで、ゾクン、ゾクンと、痺れが走る。僕は思わず漏れそうになる声を必死で堪えた。
「ふふ…。随分と感度もいいらしい。これは、益々楽しみだね」
「ひゃぅッ…」
グリッと乳首を捻られ、僕は思わず悲鳴を上げた。
ペロリと唇を舐めると、前島は痛みでジンジンとしている僕の乳首をゆっくりと甚振った。
「ぁッ…あ…、い…や…、いやぁ……」
感じてしまう。
心では幾ら抵抗しても、僕の身体は余りにも快感に無防備だった。
さっきの媚薬が、もう体中を巡っているのだろう。敏感な部分が、それ以上に感じ易くなっているのが分かった。
じくじくと、甘ったるくじれったい感覚が乳首から下腹部へ向けて降りていく。もっと強い刺激が欲しくて、思わず腰が揺れてしまった。
「くっくっ…。なるほど、おねだりも上手だ。ほら、下着がもう、こんなに滲みてるよ…」
言いながら前島が僕の下着を下ろした。
現れたそれは、恥ずかしいほどにそそり立ち、濡れている。僕は泣きそうになりながら目を逸らした。
余りの恥ずかしさと、そして悔しさで、更に身体が熱くなる。
全身を真っ赤に染めた僕を、前島は冷静な目で見下ろしていた。
「これは薬の所為だけだとは言えないねえ?君は紛れも無く淫乱らしい。……まあ、そこが気に入って社長も君を傍に置いているんだろうけど……」
蔑むような口調で言い、前島は口元を歪めると冷淡に笑った。
「ドア越しに聞いたあの時の声で大体は分かっていたが……」
言いながら、ツッと指が僕の後ろに届いた。
ギクリとして、身を捩って逃げようとしたが、もう一方の手が僕の身体を抑え付けた。
「こんな所を嬲られて、あんなにいい声で鳴くんだから……。清純そうな顔をしているけど、その顔の下にあるのは……」
ググッと指が入りこみそうになり、僕は必死でもがいた。
「やめろぉ…・・ッ」
「ふふっ…。君の滴らせたものだけでも充分に濡れているけど、一応使ってあげようか…」
その言葉に僕が振り返ると、前島の手にはローションらしき容器が握られていた。
そして、もう片方の手にあったのは卵型のローターだった。
「いッ…、いやっ…」
それをどうしようとしているのか、もう僕にだって分かった。
必死で首を振り、身体をずり上げるようにして僕は彼の手から逃れようとした。
「無駄だよ。大人しくしなさい」
愉快そうに笑いながら、芋虫のようにもがく事しか出来ない僕を抑え付け、前島は無理やりローターを押し込んできた。
「ああっ……ん……」
僕の滴らせた体液と、それからローションの滑りとで、ローターは簡単に僕の中に収まってしまった。
そして、その挿入によって、薬で狂わされた僕の身体も簡単に落ちていく。
また笑いながら、前島がローターのスイッチを入れた。
「ぁっ…はぁっ……っ…」
振動が僕の中を伝わって下腹部を痺れさせた。
足の指が無意識に握られ、両脚が縮こまる。
中心でそそり立ったものからは、また厭らしく露が零れて伝い落ちていった。
「いやぁ…。抜いて……ッ、抜いてぇっ…」
余りの切なさに、僕が叫んだ時、突然、社長室のドアが開いた。
前島がハッとして振り返る。
驚愕に目を見開いた僕の前に、榊英介が立っていた。
「ほう……?」
驚いて言葉も無い前島と、あられも無い姿を曝している僕を交互に見ながら、社長は無表情で言った。
「随分、面白いことをしているな?」
「しゃ…長……、明日お帰りでは……?」
緊張し切った掠れた声で前島はやっと言った。
すると社長は唇に薄っすらと笑みを浮かべた。
「案外早く、カタがついたんでな。泊まることも無いと思って帰って来た。部屋に帰る前に、見ておきたい資料があったんで寄ったんだが……」
言いながら社長の視線が、僕の方へ移動した。
羞恥に震え顔を背けた僕に、社長の言葉が容赦なく投げられた。
「思い掛けなく、面白いモノが見られたようだ」
面白いもの……。
前島に甚振られている僕を、そんな風に言うのか。
やはり、僕などは、彼にとってその程度の存在でしかなかったのだろうか。
「前島」
「はい……」
僅かな怯えがその声には感じられた。
僕が知っている不敵なまでのいつもの彼とは、今の前島は明らかに違っている。
「おまえに用は無い。帰れ」
「は、はい…ッ」
静か過ぎる社長の声が、余計に恐ろしく感じたのだろう。
前島は自分の荷物を掴むなり、すぐにドアを開けて出て行った。
残された僕の前に立ち、社長は黙って見下ろした。
僕は、顔を上げる事が出来なかった。
一体今、社長がどんな目で僕を見ているのか、それを知るのが怖くて堪らなかったからだ。
すると、社長はテーブルを回り僕の正面に来ると、その上に腰を下ろした。
ギュッと閉じた僕の脚の間からコードが伸びローターのスイッチに繋がっているのが見える。それを、社長が手に取った。
無言でその手が動く。
「ひぅッ、……うぅ……んっ…」
突然、MAXに目盛りが上げられ、僕は堪らずに唇を噛んだ。
振動と共にヴーンと唸る音までがはっきりと聞こえる。
声を必死で堪える僕の頭上で社長の低い声が聞こえた。
「俺がいなければ、自分の身ひとつ守れないのか?」
顔を上げると、あの刺す様な視線が僕を捉えていた。
「だって…、く…くすりを…ッ」
何とか喘ぎを堪えて僕が言うと、社長は冷笑を浮かべた。
「言い訳するか…?」
そう言われて僕は黙った。
それに、口を開けば、我慢出来ずにはしたない声が漏れてしまいそうだった。
だが、段々に我慢も限界に近付いていた。
奥深くに入り込んだ玩具に甚振られて、僕の身体は堪らなく疼いていた。腰を揺すりたい衝動が、ずくずくと込み上げてくる。
とうとう、我慢出来ずに僕は言った。
「ぬ、抜いてぇ…んっ…・・ぁ…、抜いてください…・ッ」
だが、僕の願いを、社長は一笑に付した。
「何故だ?随分、気持ち良さそうだ」
「ふッ……ぅぅう…」
僕は必死で首を振ったが、社長は動かなかった。
その代わりに、いつもの絶対的な声で命じた。
「脚を開け」
僕はまた必死で首を振った。
「開くんだ」
社長の声がいっそう低く、静かになる。
そうなると、僕はもう逆らえはしない。
ゆっくりと、僕は脚を開いた。
恥ずかしくて死にそうだった。
何故なら、自分の身体がどうなっているのか、僕自身が1番良く知っていたからだ。
「ふ……。はしたないヤツだ…」
開かれた僕の脚の間を見て、社長は呆れた様に言った。
その言葉を聞いて、僕の目には涙が滲んだ。
だが勿論、言い返す事など出来なかった。
「今、抜いてやる」
そう言うなり、社長は容赦も無くコードを持って、一気にそれを引き抜いた。
「ふぁッ……」
擦られて、抜ける瞬間、僕は達してしまった。
「うぅ……」
悔しさと恥ずかしさで、僕はまた泣きたくなった。
だが、そんな僕を社長はまだ許してはくれなかった。
「こっちへ来い」
まだ縛められたままの腕を強引に引かれ、僕はよろめいて絨毯の上に膝を付いた。
すると、社長が僕の上半身をも絨毯の上に抑え付けた。
頬を押し付けられ、高く腰を上げさせられたまま、僕は目だけを動かして社長の動きを追った。
こんな辱められた格好で、一体何をされるのか、怖くて堪らなかったのだ。
「例えどんな理由があろうと、俺以外の男に身体を触らせるんじゃない。そんな事も分からないのか?」
「う……」
薬を飲まされての不可抗力だなどと、今更言っても聞いてはくれないと分かっていた。
どんな理由があろうと、と、最初に言い渡されている。だから、僕には言い訳することさえ許されないのだ。
「身体で覚えろ」
言うなり、社長は僕の脇に片膝を付いた。
ヒュッ…と何かが風を切る音がした。
途端…。
「ひぃッ……」
ビシッと、何かで思い切り尻を打たれ、僕は悲鳴を上げた。