ワルイアソビ


最初に誘ったのは俺の方だった。

だって、仕方ないだろ? 惚れちまったから。
けど、そんなのあいつに言ったって仕方無いことだし、だから、告る気なんて最初から無かった。
ただ、女にそうするように、俺に触って欲しかっただけ。
俺だってホモって訳じゃ無いし、こんな風に欲情するのは武我(むが)に対してだけだ。
その理由なんて、俺にだって良く分からないし、深く考えたって始まらない。
ただ、武我を見てると馬鹿みたいに胸がキュッとする。
カッコよくて、色っぽくて、いつまでも見ていたい。
あの、すげーセクシーな唇で思いっきり濃厚にキスして欲しい。
そう、腰が抜けるくらい。
目の前で漫画雑誌を捲っている自分を見ながら俺が何を考えているのか、本人はこれっぽっちも知らないだろう。


(うわ…、睫、濃いなぁ。ラテン系かよ…)
その睫が作る影が妙にイヤらしい。武我の顔は見ているだけで俺を疼かせる。
ああ…、あの瞼に、唇を押し付けたい。
そんな衝動に駆られて、俺が股間を熱くしていることなど武我は少しも知りはしないのだ。
「武我…」
「あん?」
雑誌から目も上げず、武我は面倒臭そうに答えた。
「なあ、俺の顔ってどうよ?」
「はぁー?どうって?……いいんじゃねえ?モテモテの(しょう)くん」
からかうような調子でそう言ったが、まだ雑誌から目を上げようとはしない。
俺は下から見上げるようにして、少し身を乗り出した。
「そうじゃなくて。武我はどう思う?俺の顔、好きかよ?」
じれったそうにそう言うと、武我はギュッと眉を寄せた。そして、一体何の話だと言いたげに顔を顰めたまま、やっと俺を見た。
視線が合うと、俺はそれだけで身体が熱くなるのを覚えた。
思わず乾いてしまった唇を舐めると、武我の視線がチラリと動いた。
「何の話だ?誰かになんか言われたのか?」
「いや…。ただ、俺の顔が好きか嫌いか訊いてんだよ」
俺の言葉に、武我は訳が分からないと言いたげに首を振った。
「ま、嫌いじゃねえわな。晶の顔は整ってるしよ。女が良く言う“綺麗系”ってヤツじゃん?傍に置いといても鑑賞に堪えるぜ」
最後はまたどうでも良いというような調子になり、武我は雑誌に目を戻した。
「ならさ…、チューしてくれねえ?」
俺の爆弾発言に、今度はさすがの武我も吃驚して顔を上げた。
「はぁぁー?」
素っ頓狂な声を上げた後で、武我は雑誌を離すと俺の額に手を当てた。
「熱なんかねえよッ」
俺がその手を振り払うと、武我はまじまじと俺の顔を見た。
「マジ?」
「うん…、マジ」
コクンと頷いて俺が答えると、武我はじっと品定めするような視線で俺を眺めた後で、何を納得したのかニヤリと笑った。
「溜まってンの?」
「ん…まあ」
俺が曖昧に答えると、武我はまたニヤリとした。
「は…ん?美野里チャンとなんかあったな?ヤらしてくんねえの?」
美野里というのは一応俺の彼女だ。
こっちが嫌になるくらい俺に惚れてる。だから、ヤらしてくれないなんて金輪際ありえねえ。けど、俺は精一杯渋い顔を作って頷いて見せた。
「ん…」
「ははっ…」
武我は笑いながら雑誌を脇へ置くと、テーブルの上に肘を付いてニヤニヤ笑った。
「めっずらし…。おまえ命の美野里チャンを怒らすとは、よっぽどだよなぁ?何やったんだ?浮気?」
「まあ…な」
「へえ?どんな女?前に言ってた女子高の子か?」
「違う。んなん、どうでもいいだろ?」
話が逸れてきて俺は苛々してきた。女の話なんかしたい訳じゃ無い。
「なら、美野里チャンに謝ってヤらしてもらえよ。俺なんかに慰めてもらったって空しいだろうが」
そう言って、また雑誌を取ろうとした武我の腕を俺は急いで掴んだ。
「やだよ。こっちからなんか絶対に頭下げるか。な?武我、友達だろ?可哀想だと思ってさぁ」
「はぁー?」
眉間に皺を寄せ、武我は俺の手を振り解いてそこへ寝転ぶと、また雑誌を広げた。
「オナるだけじゃ満足出来ねえの?美野里チャンが許してくれるまで、それで我慢しとけや」
「やだよ。いいオカズも品切れだし。イマイチ萌える材料がねえ」
「だからって俺ぇー?晶くん、ケダモノすぎぃー」
キモい裏声を作って武我は俺を茶化すと、頬杖を突いてパラパラと雑誌を捲った。
このまま話を終わらせる訳にはいかない。俺だって、一大決心で話を持ち掛けたんだ。
「ならっ…」
俺は、這い這いしてテーブルを回ると、武我の身体にグッと乗りかかった。
「俺も、武我のしてやるから…」
「は…?」
呆れ顔になった武我が次の言葉を言う前に、俺は必死で言った。
「フェラする。それなら、い?」
「おっ、おいッ」
さすがの武我も驚いて目を見張った。
これで突っぱねられたら、もうキッパリ諦める。そう思ったら、泣きたくなった。
涙の滲んだ潤んだ目で見下ろし、俺はまた唇を舐めた。
「なに、そんなに切羽詰った顔してんだよ?」
少々心配そうな響きを帯びた声で武我は言った。
「分かんね…。なんか、俺」
もう、誤魔化して答える余裕も無かった。
情け無い声で答え、俺が首を振ると、見上げていた武我の喉がゴクッと鳴った。
そして、下から両手を伸ばすと俺のベルトに手を掛けて外し始めた。
「なんだこれ?おまえ、溜め過ぎじゃね?」
熱を持った俺の一物を掴み、武我は少し気の毒そうな調子で言った。
「ふ…」
触られただけでピクッと震えた俺を、武我は下から見上げると、また喉を鳴らした。
「こっち来いよ…。やりずれえ」
武我は俺の手を引くと、自分も起き上がって座り直した。
その膝の間に俺を座らせ、後ろから抱えるようにして手を前に回した。
武我の手が俺のを掴んでる。それだけで、俺は今にもイキそうだった。
片手を上げて、シャツの袖を噛む。そうしなけりゃ、見っともねえけど、声を堪えてる自信が無かった。
「すげ…、晶、濡れ過ぎ…」
ぷくっ、ぷくっと、雫が先から生まれてくるのが俺の目にも映っている。けど、俺はイキそうになるのを堪えるだけで精一杯だった。
そして、俺の先走りで武我の手はスムーズに上下運動を繰り返した。
「ぅく……っ…んっ…」
「声、出んの?そんなにいい?」
ぺロッと武我が唇を舐めるのが、目の端に映った。そんな仕草が、益々俺を煽る。
俺は素直に頷いて、空いた方の手で武我の太腿を掴んだ。
「我慢しなくていいぜ。袖噛むの止めろよ」
「けどっ…、キモくね?」
息の上がる苦しい口調で俺は何とか言った。
「いいって。聞かせな」
もう一度噛もうと口元へ運ぼうとした俺の手を、武我は掴んで引き止めた。
「くぅ…っ……うっ…ああ…」
噛む物を無くし、我慢出来なくなって、俺は声を漏らし始めた。
その声に反応したかのように、武我の手も動きを早める。
「ふぁっ…あっ…」
クンッと仰け反った途端、ヒューッ、と耳元で音がした。
「ビビッた…。なんちゅう可愛い声出すんだ?おまえ…」

可愛い。

その言葉に、忽ち俺は反応した。
武我は俺の声を気持ち悪いと思ってないんだ。
イケるかも?もしかして、武我もその気になってくれるかも?
淡い期待が俺の中に生まれた。
「あんっ…、俺…っ、もうっ……もうッ」
「イキそ?」
訊くと同時に、武我は空いた手で傍にあったティッシュの箱を引き寄せた。
「いいよ、晶…」
言うと同時、ぐりん、と尿道を突付かれ俺は達してしまった。
「んはぁぁッ……」
してもらったことは自慰の延長と言えるようなもんだった。
でもそれは、勿論、自分で扱くのなんか比べ物にならない、いや、女の中でイクのよりも、ずっとずっと気持ちがいいフィニッシュだった。