ワルイアソビ


-3-

昼休みは独りで何処かへ時化こみたかったが、運悪く美野里に見つかって学食へ連れて行かれた。
「何食べる?Aランチ?」
「あー、饂飩でいいや」
「食欲ないの?」
「あー、あんまり」
「えー?」
学食には武我と琴音の姿も在ったが、俺たちが入って行っても気にする様子はなかった。
俺も、美野里と一緒に離れた席に座って、なるべく二人を見ないようにした。
美野里と他愛の無い会話をしながら食いたくも無い饂飩を食い、でも、時折どうしても気になって武我の方を見た。
このまま、一生口を利く事も出来ないんだろうか。
それとも、ほとぼりが冷めたらまた、前みたいに普通に友達に戻れるんだろうか。
だとしても、俺にとってはどちらも変わらない気がした。
辛いのは、結局どちらでも一緒だ。
だったらこのまま、遠くから見ているだけの方がいいのかも知れない。
そんな事を考えていると、友達に呼ばれて琴音が独りで学食を出て行った。
すると、食器を片した後、武我が俺の方へ歩いて来た。
ドキドキして身体を強張らせていると、武我が俺の前で止まった。
「晶、ちょっといい?」
「え?」
顔を上げて見ると、武我は相変わらず難しい顔のままだった。
「ちょっと…」
「あ…、うん」
はっきりと印道を渡されるのか。
俺はそう思った。
頷いて立ち上がると、美野里が慌てて俺の腕を掴んだ。
「ね?喧嘩じゃ無いよね?」
いつもと違う俺たちの雰囲気に心配したのだろう。必死で俺の腕を掴んでいる。
俺が答えられずにいると、代わりに武我が笑って答えた。
「ああ。違う、違う。そんなんじゃねえから」
「ホント?」
まだ疑いの目で俺を見上げ、美野里が念を押した。
「当たり前じゃん。心配すんなよ」
やっと俺が笑みを見せると、美野里も安心したのか頷いて手を離した。
「……何処行くんだ?」
学食を出た所で俺が後ろから訊くと、武我は振り向きもせずに、ぶっきらぼうに答えた。
「いいから、来い」
仕方なく、俺も黙って付いて行く。
心の中では、どんな言葉を浴びせられても我慢しようと決めていた。
「こっち…」
余り使われる事が無い北校舎のトイレへ武我は俺を連れて行くと、個室のひとつに入るように促した。
「なんだよ?こんなとこ…」
少々怯えて俺は後ろ手に鍵を掛ける武我を見た。
まさかとは思うが、殴る気なのか?
「人に聞かれたくねえからな」
その言葉に、ゴクッと喉が鳴る。
トン、と胸を突かれ、俺はよろけて便座の蓋の上に腰を落とした。
「ご、ごめん。悪かったよ」
武我に詰られる前に、俺は自分から謝った。どうせ許しちゃくれないだろうけど、これ以上嫌われるのは嫌だったからだ。
「なんで謝るわけ?」
グッと片方の眉を上げ、後ろのドアに寄り掛かると武我は両腕を組んでそう言った。
「そ、それは…」
俺が口篭ると、武我の口元が歪んだ笑みを見せた。
「美野里チャンと仲直りしたんだ?」
「う…、うん」
「へえ?」
「ゆ、昨夜、電話があって……。別れたく無いって、向こうから謝ってきたから…」
俺が嘘をつくと、信じたのかどうか分からなかったが、武我は一応頷いて見せた。
「なるほど。…良かったじゃねえ?ならもう、俺が慰める必要はねえよな?」
「う…、うん。ごめん」
俺が謝ると、また武我は唇を歪めて笑った。
「だから、なんで謝るんだ?」
スッと手が伸びてきて、俺は思わずビクッと震えた。
でも、武我の手は俺の顎に掛かって顔を上げさせただけだった。
「なあ?謝るのって、悪いと思ってるからだろ?おまえ、なんか俺に悪いと思ってるわけ?」
「そ、それは…」
「昨日…」
言いながら、武我の親指が俺の唇をゆっくりとなぞっていった。
その触り方が、なんだか厭らしい。
武我の目的は全く分からなかったけど、こんな事をされて、俺が普通でいられる訳が無い。 俺は、思わず目を瞑ってしまいそうになるのを堪えなければならなかった。
「おまえの口ン中に出しちまったの俺だし。おまえは何にも謝る必要なんてねえじゃん?」
「け、けど…」
何度も唇をなぞる指にゾクゾクしながら、俺はまるで身体が固まったようで、それを振り払う事が出来なかった。
武我が何を言いたいのかまだ良く分からない。
だけど、それがなんだか危険な事のような気がして仕方がなかった。
口の中が乾いて言葉が途切れる。
俺はゴクッと唾を飲み込むと、先を続けた。
「武我、黙って帰っちまったから、気ィ悪くしたのかなって…。で、でももう、あんなこと持ちかけたりしねえし。だからッ…」
グッと、突然武我の親指が俺の口の中に入ってきた。
「ムグッ…」
驚いて俺が引こうとすると、他の指が顎を掴んできた。思わず力を入れると、俺の歯に噛まれたまま、武我の指が俺の舌を強く押した。
塩辛い味が舌の上に広がる。
ぬくん、と撫でられて、俺はとうとう目を瞑った。
「女と仲直りしたから、はい、お仕舞い?そんなのあるかよ?なぁ…、晶くん」
「ぐっ…」
言葉を出そうとしても押さえられた舌が動かない。
俺が見上げると、武我はもう一方の手で俺の後頭部を掴んだ。
「あんなヤバイこと持ち掛けてきやがってよ。あんな顔見せといて、終わりで済むと思ってんのか?」
やっと指が抜かれ、俺は口が利けるようになった。
でも、後頭部で俺の髪を掴んでいる武我の手はそれを離そうとはしなかった。
「なら…、なら、どうすれば気が済むんだよ?」
顔を動かせないまま、俺は武我を見てそう言った。
“あんな顔”ってなんだよ?
一体俺に、どうしろって言うんだよ?
もしかしたら?
武我は終わりにしたく無いって思ってるのか?
そう思い当った途端、現金にも俺の胸はトクンと鳴った。
けど、それが俺にとって都合のいい展開なのだと思えたのは、ほんの一瞬に過ぎなかった。 それは、武我の凶暴な目を見ればすぐに分かった。
武我は昨日の事を気持ちのいい体験として受け入れてくれた訳じゃないんだ。
それがどんな感情なのかはっきりとは分からなかったが、目の前の武我は、俺に対してまるで憎しみを感じているようにさえ見えた。
「武我、ごめん、ホントに俺っ…」
武我の事が好きなんだと言ってしまおうと思った。
それが、何の解決にもならないと分かっていても、せめて昨日の事が俺の押さえ切れなかった想いから出たことだと分かって欲しかった。
だが、俺が先を続ける前に武我が言った。
「謝らなくていいって言ってんだろ?」
苛々した口調でそう言うと、武我は俺の髪を掴んだまま、空いた方の手でベルトを外し、ファスナーを下ろした。
「武我…?」
俺が呆然として見上げると、武我は自分のを持って俺の鼻先に付きつけた。
「口開けな。昨日みたいに、しゃぶってくれよ」
「なっ…」
「ほら…。して?」
急に口調が柔らかくなったが、その目は変わらない。
まるで、刺す様な視線で俺を見ながら、武我は閉じた俺の唇にチンコの先を押し付けた。
俺は、ゆっくりと口を開いた。
武我は、そんな俺の顔を目を逸らさずにじっと見ていた。
勿論、拒絶する事だって出来た。
でも、したくなかった。
拒絶したらそれっきり、多分、武我との接触はなくなってしまうだろう。それなら、例え憎まれてもいいから、俺は武我と関わっていたかった。
武我の腰が突き出され、硬くなりかけていたチンコがグッと口の中を犯した。
思わず目を瞑ったが、俺は両手を上げるとそれを掴んで唇で扱き始めた。
「んっ…」
俺の髪を掴んでいた武我の手にギュッと力が篭った。
俺は、片手で袋を揉みながら、丹念に舌を使った。
「おまえ…、俺が初めてじゃねえだろ?今までにも、誰かのしゃぶってたんじゃねえ?」
呆れたように、でも感じているんだと分かる艶っぽい声で武我は言った。
それだけで、俺の身体はどんどん熱くなった。
乙女なだけじゃなくて、Mッ気もあったのかな?
けど、俺がこうなるのは相手が武我だからだ。他の誰かにこんな目に合わされたら、とっくに蹴り倒して逃げている。
汁が滲んできて、段々、口の中に武我の味がしてきた。
昨日もそうだったけど、武我が俺で感じてくれるのが嬉しかった。
「イキそッ…。飲んで?」
言われて、僅かに頷いて見せた。
グッと思いきり口に含むと、何度も唇で扱く。
やがて、息を詰めたような武我の声と共に、俺の口の中に生暖かいものが吹き出した。
ゴクッと、俺の喉が鳴った。
それを確かめて、武我が腰を引く。
たっぷり射精したチンコが、まだ硬いままで俺の口の中から出て行った。
酷く疲れた気がして思わず目を瞑ると、カラカラとトイレッとペーパーを巻き取る音がして俺は目を開けた。
武我はペーパーで自分のを拭い、身支度を整えた。
そして、その紙を無造作に床に棄てると、力が抜けたように座っていた俺の顎を掴んだ。
「サンキュ、晶…」
俺が黙って見上げると、武我は唇を歪めて笑った。
「今日、俺んち来ねえ?俺だけしてもらって悪いし、おまえにもサービスしてやるよ」
「い、いや、俺は」
断ろうとして口を開くと、武我の指がグッと俺の顎に食い込んだ。
「いっ…」
「来いよ。約束、な?」
威圧的な声でそう言うと、武我は俺の顎を離した。
そのまま出て行った武我の消えたドアを見つめ、俺は深い溜息をついた。
俺が望んでいた通り、武我はまた俺に触らせてくれた。
けど、それは俺が好きだからって訳じゃない。
だったら、あんな暗い目をしている訳が無い。
武我は一体、俺にどんな感情を抱いてこんな事をさせたのだろうか。そして俺は、どこまで言う事を聞くつもりなのだろうか。
喉の奥に、飲み込んだ武我のザーメンが絡みつく。
何度も咳払いしてみたが、それが消えることはなかった。