ワルイアソビ
-2-
呆然としたまま、俺はまだ武我の腕の中にいた。
寄り掛かったまま余韻に浸る俺の出したものを綺麗に拭き取ってくれた後、武我は俺の耳に口を寄せて言った。
「良かったか?」
「ん…」
「早過ぎだっての」
クスクス笑う声に、カッと頬に血が上るのが分かる。
「ごめん…」
「いいけどよ。な、こっち向いてみ?」
俺が身体を捻って後ろを向くと、武我の手が俺の顎を掴んだ。
「エロい顔…」
じっと見つめた後でそう言い、顔が近付いて来た。
俺は、心臓が止まりそうになりながら思わずギュッと目を閉じていた。
ちょっと伸び掛かった髭がザラッと顎を擦った。それに反して、酷く柔らかい唇。
信じられねえ。
どんな女とキスしたって、こんなにドキドキなんかしなかった。
もう、心臓が口から飛び出しそうで、胸が痛いくらいだ。
「はぁ…はっ…」
苦しくて思わず唇を開く。その隙間に、ぬるんと武我の舌が入り込んだ。
そいつで、俺の舌や歯列を舐めてくる。
目が眩みそうになって、俺は両手でギュッと武我にしがみ付いた。
すると、ちゅ、と音を立てて、武我の唇が離れて行った。
「なんちゅう顔してんだよ…」
言われて、やっと薄っすらと目を開ける。
「ん…?なに?」
訊くと、少し強張った武我の顔が答えた。
「エロ過ぎ…、晶。女とやる時もそんな顔してんのか?」
「分かんね…」
俺はまだ、武我の身体から腕を離さなかった。
こんなに間近で武我の顔を見れるのは、これが最初で最後かも知れない。だから、離れたくなかった。
(すげえ、カッコいい…。もっと、キスしてくれたらいいのに…)
自分でも恥ずかしいぐらい、俺は乙女だったと思う。
けど、仕方ない。惚れてんだから。
「な?ほんとにフェラしてくれんの…?」
武我に訊かれて俺はハッとして我に返った。
その気になってくれた?
俺は、向きを変えるとコクッと頷いた。
「うん」
「じゃ…、して?」
「ん…」
もう一度頷き、俺は武我の股間に屈み込んだ。
制服のズボンのファスナーを開け、両手で取り出す。
少しだが、硬くなっている事に気付いて俺は馬鹿みたいに胸が熱くなるのを覚えた。
(すげ…、チンコまでカッコいい)
太さは標準。けど、長い。
ホントはじっくりとキスしたかったけど、あんまりヤバイんでそれは止めた。
チロッとだけ先を舐めると、俺はゆっくりと武我のを口の中へ含み入れた。
「ん…」
ほんの僅かに武我が声を漏らす。
そんなんだけで、俺の鼓動は易々と早まった。
「キモくね?晶…」
“平気”の意味で首を振った。
すると、優しい指が俺の髪の中に入ってきた。
そんなんだけで、俺の心は簡単に感動した。
(すげえ、好き……、武我…)
武我の彼女より、俺の方が気持ちいいといいのにと思った。
そしたらまた、魔が差して俺にしゃぶらせてくれるかも知れない。
(これが最後じゃなければいいのに……)
図々しい望みだと十分に分かってたけど、それでも俺は、そう思わずにはいられなかった。
「は……。いい…、くそっ」
低い掠れた声が頭の上で聞こえた。
チラッと上目使いに見ると、紅潮した武我の顔が見えた。
(感じてくれてる…)
そう思うと、余計に夢中になった。
体中が熱くなって、俺は必死でしゃぶった。
武我の好きな所は知らないけど、我慢出来ずに声を漏らした場所をより丹念に攻めた。
(俺で感じて、武我…。気持ち良くなって……)
もう、超乙女になっちまってた俺は、そのことしか考えてなかった。
「ヤベッ…離せ、晶ッ…」
突然、ガッと頭を捕まれて仰け反らされた。
けど、間に合わなかった。
「げほっ…」
思い掛けなく飲み込んで咽る俺に、武我は慌ててティッシュを掴むと差し出した。
「だ、大丈夫かっ?ごめん晶…」
俺はそれを受け取って口を拭いながら首を振った。
「へ…き」
「悪かった。顔、洗って来いよ」
「ん…」
口に入らなかった分で、俺の顔が汚れていたのだろう。武我の言葉に頷くと、俺はバスルームへ降りて行った。
飲みたいと思っていた訳じゃなかったけど、でも嬉しかったのも本当だった。
武我が俺の口の中でイッてくれたことも、俺を気遣ってくれたことも、俺にとっては幸せなことだったのだ。
「ヤバ…。また勃ってるし」
武我のをしゃぶっただけで、俺のはまたパンツの中で硬く張りつめていた。
口を漱いで顔を洗うと、俺は部屋に戻った。
勃起したチンコはまだ治まってなかったけど、さっきの雰囲気のまま武我の顔を見たかったからだ。
顔を見たら、きっと馬鹿みたいに赤くなりそうだった。
でも、いい。
もしかして、武我の方も少しだけでも照れ臭そうにしてくれたら、きっとすげえ嬉しいから。
でも、期待を込めてドアを開けた部屋に武我の姿は無かった。
「うそ…」
愕然として、俺はそこへ膝を突いた。
鞄もコートもマフラーも無い。俺に黙って、武我は帰ってしまったのだ。
「やっぱ、キモいか…。そうだよな…」
ホントは、こうなる覚悟で誘ったのだ。
これっきりで絶交されてもいいから、最後に武我に触りたかった。触って欲しかった。だから、後悔することなんか無い。
それなのに、 なんで泣けてくるんだろ?
「アホか、俺……」
自分の馬鹿さ加減に呆れて、笑いが込み上げる。
ホントにホントは、乙女の俺はハッピーエンドを期待してたんだ。
そんなん、金輪際、有り得ねえのに。
次の日、ホントは学校を休みたかったけど、そんなことをしたら余計に自分が惨めになると気付いた。
武我の顔を見るのは辛いけど、でも慣れるしかねえし。
大失恋した俺の心なんか関係なく、学校はいつも通りだった。
登校した途端に、他クラスの癖に美野里がちゃんと待っていやがって、いつも通り纏わり付いてきた。
今日は、買い物に付き合ってくれだの、何処そこにあったバッグが可愛かっただの、俺には何の興味も無い話を延々と始める。
生返事を繰り返しながら、俺は遠くの窓辺に居る武我と彼女の琴音をぼんやりと眺めた。
(でっけえ胸…)
Fカップだとか言ってた琴音の胸を俺は見つめた。
(あのおっぱい、揉んでんだなぁ…、武我の手が…)
考えただけで、チリチリと胸が痛む。いつでも好きな時に武我に触れる琴音が羨ましかった。
マジ、嫉妬で身が焦げそうだった。
「ねー、晶くん、聞いてるぅー?」
腕を揺すられてハッとなると、俺は作り笑いを浮かべて美野里を見下ろした。
「悪り、なんだっけ?」
「もー…」
プッと膨れた後で、美野里は俺にぶら下がるようにして言った。
「土曜日、会える?ウチ、誰も居ないし…」
最後は小声になって、背伸びをすると俺の耳に囁いた。
「あ?…うん。いいけど」
「やった。じゃ、また放課後ね?もう教室行くから」
「あ、うん。じゃな」
走って行く美野里をちょっとだけ見送り、俺は教室へ入った。
すると、窓辺に寄り掛かっていた武我が俺の方を見た。
その目を見た途端、俺は逃げ出したくなった。
(こえ…)
軽蔑されたのは分かったから。
でもなにも、そんな眼で見なくたっていいじゃないか。
そりゃ、欲望を押さえていられなかった俺が悪いよ。もう、たっぷり後悔してるから、だから、もうそんな眼で見るな。
「帰りてぇ…」
泣きそうな声で呟くと、俺は自分の席に座って武我の目に背中を向けた。
その日1日は、俺にとってまるで拷問みたいだった。
いつもならつるんでいる俺と武我が少しも話をしないので他の連中は不思議がるし、琴音にまで心配されるし、おまけに、琴音と武我が仲良さげに話しているのを見せつけられるし。
同じクラスなんだから、今までもそうだったけど、でも、昨日の今日ではやっぱり辛過ぎる。
けど、今逃げたって仕方が無い。これからずっと、この状況は変わらないんだ。
(慣れるしかねえよ…)