まるで、帯波にのまれるように


-4-

城の話を聞いてしまうと、やはり色々と考えてしまい、鉄太は中々寝付けなかった。
やがて、やはり眠れない様子だった城が寝息を立て始め、それと波の音を聞いている内に、やっと眠りについた。


最初、夢を見ているのだと思っていた。

だが、感覚が余りに本物で、鉄太は目を覚ました。
「な…に…?」
顎を引いて頭を擡げると、自分の身体の向こうに黒い影が見えた。
「やべ…。やっぱ、起こしたか…」
言った後で、クスッと笑う声が聞こえた。
「ジョー…?何して…?」
余りの驚きで、鉄太は固まったままで暗闇の中の影を見つめた。
何をされていたのか、勿論すぐに気付いた。ただ、何故、城がそんなことをしているのか理解出来なかったのだ。
「悪い。ちょっと目瞑ってさ、他の事考えてて?…声、我慢するし…。見えなきゃ、割と大丈夫だと思うから…」
「見えなきゃって、おまえ…。ちょっ…、おい…ッ」
ぬるん、と再び生暖かい感触を覚え、鉄太はまた自分自身が城の口の中に含まれたのを感じた。
自分が勃起していることは、勿論気付いていた。そして、それが城の愛撫に寄るものだということも分かっていた。
「やべぇ…って…」
巧みな舌の動きに忽ち息が上がる。
まだ、驚きから抜け出せない所為だけではなく、城を振り払えない自分に、鉄太は胸の奥にあった想いに確信を持ち始めていた。
「すげえ、鉄の…いい形だな…」
感嘆混じりの言葉が聞こえ、鉄太は思わぬ恥ずかしさにカーッと身体が熱くなるのを覚えた。
暗闇に慣れた目に、はっきりとそそり立つ自分自身のシルエットが見えた。
そして、濡れた音が静かな部屋に響いているのに、改めて気付いた。
卑猥なその音に、荒い自分の息が混じる。手を伸ばして、鉄太は城の髪を掴んだ。
「ちゃんとゴムつけるから、挿れさして…?」
擦れた、初めて聞く、城の異質な声だった。
それに、鉄太は答えられなかった。
このまま、城を抱いてもいいのか。
後で後悔しないのか。
判断出来ずに迷っていたのだ。
月が雲から出たのか、サッと部屋の中が薄明るくなった。
そして、その時初めて、城の顔が朧げながら見えた。

泣いている…。

その事実に、鉄太は愕然とすると同時に胸が締め付けられた。
「ジョー…ッ」
起き上がると、鉄太は城を抱きしめて押し倒した。
「鉄っ…。だ、駄目だって、俺、今おまえのしゃぶって…ッ」
唇を押し付けようとすると、城はそう言って顔を背けようとした。鉄太はその唇を追いかけると、触れる直前で言った。
「んなん、どうでもいい…ッ」
「てっ…。ん…」
唇を押し付け、鉄太は構わずに舌を差し入れると、城の舌に絡めていった。
ちゅっ、ちゅっ、と舌同士が立てる音。そして、城の喘ぐ息。
身体中が火照り、鉄太は夢中で城の身体を掻き抱いた。
城の手が伸ばされ、自分の首に絡まるのを感じると、鉄太は益々興奮した。
密着した所為で、城もまた勃起しているのがはっきりと分かった。
片手を下ろし、股間を弄ってやる。すると、城は喘いで唇を離した。
「鉄…ッ」
「ん?」
答えながら、鉄太はまた唇を押し付けた。
さっき頭を過ぎった疑問など、もう何処かへ吹き飛んでしまっていた。
今はただ、目の前の男の身体が欲しくて堪らなかった。
下唇を噛んで開かせると、鉄太はまた城の口の中へ舌を差し入れた。
嫌がって閉じた訳ではないのは、すぐに熱い舌が絡んで来たことで知れた。
薄い布の向こうの昂ぶった塊を、何度か掌でなぞり形を確かめると、鉄太はそれに指の甲を擦り付けるようにして人差し指と中指で挟んだ。
重なった唇の隙間から城の喘ぎが漏れる。
構わずに挟んだままで何度もなぞると、布が湿ってくるのが分かった。
堪らずに唇を離し、鉄太は城の目を見つめた。
「挿れていいか?濡らしてある…?」
頷きながら、我慢出来ないと言わんばかりに城は下半身を擦りつけた。
「待って…。今、脱ぐ…」
「いいよ。俺が…」
下着に手を掛けた城を遮り、鉄太は赤ん坊にそうするように彼の下着を脱がせた。
すると、城はくるりと向きを変えて尻を突き出すようにしてうつ伏せになった。
「こっちからがいいのか…?」
「見えない方がいいだろ?余計なもん、眼に入ると萎えるし…」
笑いながらそう言った城の腰に、鉄太は手を当てた。
「んなん、関係ねえって…。でも、これでいいなら挿れるよ?」
「ん…」
「あ、待って、ゴムある?」
鉄太が訊くと城は首を振った。
「鉄が気持ち悪くないなら生でいい…。中で出していいし…」
擦れた声でそういい、城は股の間から手を伸ばすと人差し指と中指で自分の尻の膨らみを開いた。
コクッと、思わず鉄太は唾を飲み込んだ。
昼間、明るい太陽の下に居る時はとは、まるで人が違ったみたいな夜の顔だと思った。そして、その痴態を目の前にして、自分が異様に興奮しているのが分かった。
指を伸ばし、鉄太はその中心の(ぬめ)りをなぞった。
言った通り、城はもうすでに自分の身体を準備していた。
布団の向こうに転がっているジェルのチューブに、その時まで気付かなかったが、鉄太はそれを手に取ると、中身を掌に出し自分自身にも塗りつけた。
そして、そうしながら空いた方の手で城の中に指を入れる。
「う、…んッ…」
その途端に、城が声を漏らすのを聞いて鉄太は益々熱くなった。
とば口をあやす様に弄ってやり、暫くは切なげに吐息と声を漏らす城の様子を楽しむと、鉄太は自分自身を扱きながらそこに近付き、指を抜く代わりに猛った物を押し付けた。
柔らかな両の丘を両手で包むようにして中心を親指で広げ、鉄太はゆっくりと腰を繰り出した。
思ったよりも抵抗が無い。十分に硬く張り詰めたそれは、緩々と粘膜の中を進んだ。
「んぁあ…っ。ああっ…」
奥に到達するに従い、城の声が高くなる。
全部がすっぽりと納まると、両肩が落ちて力が抜けるのが分かった。
「いい?動くよ?」
暗闇に慣れた目に、コクコクと頷くのが見える。
鉄太は引き締まった城の腰を掴むと律動を始めた。
「んっ……、いいッ…いいっ……あ……あぁ…」
喋るよりも高い声で城は喘いだ。
そして、高く上げた腰を自分でも揺する。その動きが、妙に艶めかしくて鉄太は興奮した。
強く締め付けられて、自分も声が漏れる。
快感を探りながら、鉄太は城の中を思うように擦った。
「ヤバいっ、俺…ッ。鉄……、癖んなりそ…ッ」
片手で身体を支え、城が振り返って言った。その言葉にも声にもゾクリとし、鉄太はわざと緩々と動いて彼を焦らした。
「いい?俺の…」
訊くと、城はまた切なげに頷いた。
「中…ッ、カリがっ、あっ……んっ…」
城がビクッと身体を震えさせた場所を、鉄太は丁寧に擦ってやった。
すると、もう喘ぐことしか出来ないのか、城はシーツに掴まるようにしてただ声を上げた。
「ヤバッ、俺、もうイクッ…」
やがて、城が叫ぶようにそう言ったのに合わせ、鉄太は身体を引いて彼の中から出た。そして、向きを変えさせると両脚を抱えさせ、今度は前から挿入した。
仰け反る城の身体を攻めながら、鉄太は腹の上でそそり立つ彼自身を掴んだ。
先走りで濡れたそれを擦ってやると、城は更に激しく喘ぎ、そして息を止めるようにして自分の腹の上に吐精した。
「ん……」
甘い吐息を漏らしながら、城は満足げに力を抜いた。
まだ硬いままの彼自身を暫く緩々と扱いてやり、鉄太は彼の太ももを持ち上げると、また激しく動き始めた。
「あっ、あっ…、鉄ッ…」
また喘ぎ始めた城に近づくと、鉄太はその唇にキスをした。
すぐに城の腕が絡んで鉄太の首を抱く。
激しく舌を絡ませ合いながら、鉄太は熱い城の身体を攻め続けた。



夢中で城を抱き、目が覚めると、彼は隣に居なかった。
時計を見ると、まだ6時にもなっていない。鉄太は起き上がって服を着ると、部屋の外へ出た。
音をさせないようにそっと階段を下り、玄関に並べてあった下駄を突っかけると、木造の古いガラス戸を静かに開けた。
目の前の堤防に身体を預けるようにして海岸を眺めると、少し離れた場所に堤防に背中を預けて座っている城の姿が見えた。
階段を下りて近付いていくと、城は眩しそうな顔で近付いて来る鉄太を見つめた。
「早いな?眠れなかったのか?」
訊くと、城は首を振って、また元の様に海を眺めた。
「眠れないかと思ったけど、鉄のお陰で眠れたよ」
「そっか…」
言いながら、鉄太は城の隣に腰を下ろした。
まだ、日差しが強くなっていないだけに砂も熱くはない。その砂の上に足を投げ出し、鉄太は後ろの堤防へ背中を預けた。
「ごめんな?鉄…」
前を向いたままで城がそう言った。
「なんで?」
聞き返すと城は肩を竦めた。
「いや…、なんか背負わせちゃったんなら悪いと思ってさ…」
呟くようにそう言った城の横顔を暫く眺めると、鉄太は視線を外して自分も海を眺めた。
朝の海は凪いでいて、波の音も静かだった。
「なあ…、慰めて欲しかっただけ?俺に…」
鉄太の言葉に、城はまた肩を竦めた。
「どうかな…。…けど、わざわざ慰めてもらいに、ここまで来たんじゃないと思うし…」
すっと手を伸ばし、鉄太は城の顎に指を掛けると、此方を向かせて唇を塞いだ。
チュッ、と離れる時に唇が音を立てた。
暫く親指で城の頬を撫でると、彼の眼を見つめて鉄太は言った。
「なあ、行くの止めろよ…」
「ハワイ?」
「うん…」
頷くと、今度は城が鉄太に唇を押し付けた。今度のキスはさっきのよりも長く、そして離れ難かった。
「鉄が来いよ」
「え…?」
「冬休み…。待ってるから…」
その言葉に鉄太は暫く答えを躊躇うと、身体を離してまた堤防へ背中を預けた。
「どんな立場で行けばいい…?」
「え…?」
聞き返した城に鉄太は笑みを見せた。
「友達として?」
その言葉に、城は動きを止めた。
「鉄…」
「これっきりで忘れろって言うなら、俺は行かないよ」
鉄太がそう言うと、その真意を測るようにじっと眼を見つめ、城はコクッと喉を鳴らした。
「ヤバいって…、分かってたんだよな……」
言いながら、砂の上の鉄太の手に城の指が絡んだ。
掌を返し、鉄太はキュッと指を閉じた。
「分かってたんだ。会いに来たら、ヤバいって……」
砂の上で手を繋ぎ、お互いの眼を見つめ合うと2人は暫くの間黙っていた。
「忘れろって言われても…、無理かもな…」
そう言って鉄太が笑うと、城も笑った。
「鉄に抱かれたくて、俺の方が戻ってきちまうかも…」
その言葉にクスッと笑うと、鉄太は手を繋いだままでまた城に身体を近づけた。
何度も短いキスをし、唇を離すと鉄太は言った。
「帰って来いよ。俺も、会いに行く…」
「ん…」
頷くと、城は繋いでいた手を離して鉄太の首に腕を回した。


もう、秋が近い。
朝だからというだけでなく、真夏とは違う涼しさがあった。
だが、鉄太は腕の中に捕まえた熱い体の所為で、夏の終わりが来ることさえ忘れてしまいそうだった。