1℃
-8-
途中のコンビニでマスクを買い、殴られた口元を隠すと、黒田は重光を連れて家へ帰った。
二人とも埃まみれだったし、重光も家なら落ち着けるだろうと思ったのだ。
シャワーを浴びて部屋に戻り、絆創膏を貼った傷の上から殴られた所を氷で冷やしていると、入れ替わりにシャワーを浴びた重光が入って来た。
今日も黒田の大き過ぎるスェットを着て、まだ濡れた髪のまま、ぺたりと傍へ座った。
その目は心配そうに黒田を見上げた。
「大丈夫か?」
頷いたが、本当は殴られた胃がまだムカムカしていた。
自分が誰かの為に、敵いもしない相手に向かって行くなんて、こうなった今でも黒田には信じられなかった。
以前は、どんな時にもクールでいられた筈だった。
セックスの最中でさえ、どこか冷めていた。
それが今は、重光の目を見ただけで、こんなにも熱くなる。
「知己は?本当に何処も殴られてない?」
「大丈夫。ほんとに何もされてないから」
そう言うと、黒田が抑えていた氷の袋をどかさせ、そこをそっと指で押した。
「黒くなりそうだな…。男前、台無し…」
眉間に皺を寄せてそう言うと、頬を染めながら黒田の目を見上げた。
「チュー…、したら、痛いかな……?」
また氷を当てながら、黒田は重光の目を見た。
「同情してるの?」
「ちげ…ッ」
益々赤くなって否定すると、重光は恐る恐る黒田の首に腕を回した。
「…チューしてぇんだって……」
そう言って、重光は用心深く黒田の唇にキスをした。
「痛てえ?」
「いや…」
黒田が答えると、もう1度、今度はさっきよりも深いキスが訪れた。
初めての重光からの積極的な行為だったが、黒田はその真意を測りかねて手放しで喜ぶことは出来なかった。
自分の為に怪我をした黒田に、謝罪したいと思っているだけなのかも知れない。
積極的になったことが恥ずかしかったのか、重光は腕を黒田の首に回したまま俯いた。
その項も耳も真っ赤に染まっていて、それだけで黒田をゾクゾクさせた。
「まだ…、俺のこと好きかよ…?」
顔を上げず、小さな声で重光は言った。
「好きだよ。…前より、もっと好きだ」
そう言って黒田が耳朶にキスをすると、重光はピクッと震えた。
「…なら、しよ…?」
さらに小さな声で重光は言った。
「どうして?」
黒田が訊くと、重光はまたピクッと震えた。
「知己は陸が好きなんだろ?俺に近寄られるのも嫌なんだろ?」
黒田の言葉に重光はさっと顔を上げた。
その表情は今にも泣きそうに見えた。
「だ、だって俺ッ…」
そこまで言うと、また下を向き、重光は黒田にしがみ付くようにして腕に力を込めた。
「怖くて…。優しいの、慣れてねえんだ。…でも、おまえに優しくされて、ほんとは嬉しくて…。それなのに、おまえがもし、ただの気まぐれとかだったら、どうすればいいんだよっ。怖いよ…。だって…、もう俺、こんなに…ッ」
言葉を切ると、重光は苦しそうに息を吐いた。
「おまえ、傍に居てくれるって言ったじゃねえ。俺を一人にしないって、言ったじゃねえっ」
可愛い…。
ジンジンと胸が震えた。
冷え切っていた筈の黒田の心が今は燃えるように熱かった。
「なら、知己も俺の傍に居てくれるの?」
その言葉を聞くと、漸く、黒田の目を見返して、重光は頷いた。
「いる…。傍に居る。雪の傍に居たい…っ」
「知己…ッ」
やっと両腕で抱きしめると、黒田は重光の唇に唇を押し付けた。
「てッ…」
だが、傷が痛み、すぐに離してしまった。
心配そうに見上げた重光に笑みを見せると、今度はゆっくりと唇を押し当てた。
舌を忍ばせると重光はすぐに応えた。
舌を絡ませ、吸い、緩く噛む。
段々に喘いでくる重光が愛しくてならなかった。
「血の味する…?」
訊くと重光は潤んだ瞳で首を振った。
「分かんね…」
「もっと舌、吸わせて…」
傷がビリビリしたが、そんなことは構わなかった。
黒田は夢中で重光の舌を吸い、喘いでしがみ付いて来る身体を抱きしめた。
「こっち来て。ベッドに…」
重光の手を取ってベッドの上に上がらせると、黒田はすぐに彼のズボンと下着を脱がせた。
少し硬くなった性器が現れると、重光は恥ずかしそうだったが、黒田は彼の反応が嬉しかった。
押し倒すようにして横たわらせると、今度はすぐにスエットの裾を捲り上げ胸を露にさせた。
小食の所為か重光の身体は細くて、少しあばらが浮いている。勿論胸は膨らんでいないが、その勃起した乳首を見ただけで黒田は興奮した。
色が白いので、乳首の色も薄い。両手の指で左右を摘まみ軽く捻ると、重光の身体が跳ねた。
「んあッ…」
声を上げてしまったことが恥ずかしいのか、重光は顔を背けた。
「乳首、気持ちいいの?」
「し、知らねえ…っ」
恥ずかしいらしく、重光は顔を隠そうとしたのか片手を顔の上に乗せた。
(可愛い…)
そう思って笑みを浮かべると、片方を指で転がし、片方を口に含んで黒田は重光の乳首を弄んだ。
女性に比べれば、勿論酷く小さいが感度はいい。
「ふ…やぁ…、んッ…ん…ん…ッ」
声を我慢しようとして、口を閉じたが、重光の鼻から喘ぐ声が漏れた。それが、益々黒田を興奮させていた。
感じてしまい、じっとしていられないのか、重光は背中を浮かせて身を捩った。
左右を代わる代わる嘗めて吸い、尚も意地悪く唾液で濡らされた乳首を黒田は摘まんで弄んだ。
「敏感なんだね、知己」
喘ぎ声が止まらなくなってしまった重光に黒田は耳元で囁いた。
「やだぁ…」
囁かれた声にも反応し、ビクッと震えてそう言った重光の胸から片手を下ろして、すっかり勃起した性器を掴む。先走りを塗り付ける様に動かしてやると、重光は我慢出来ずに声を上げて腰を浮かせた。
「あッ…、駄目…ッ」
ククッと仰け反り、重光は足を縮めた。
構わずに黒田が手を動かすと、重光は胸を上下させて喘いだ。
「やっ…、あ…ぅあんッ…」
いつもの虚勢を張っている姿とはまるで別人のように、重光は高い声で喘ぎ腰を揺らした。
「やぁ…も、でちゃ…ッ」
息を止めると、一瞬身体を強張らせ、黒田の手の中に射精した。
「早いね」
黒田が言うと、紅潮していた重光の顔が益々赤くなった。
「ウ、ウチでは、あんま出来ね…し、自分の部屋ねえし…」
隠れる場所も無い環境で、自慰もままならないのだろう。ティッシュで拭い取った精液も随分濃かった。
そして、重光の初心過ぎる反応に、きゅんとする。顔を隠す為に額の上に乗せていた腕を退かさせ、黒田はまた何度もキスをした。
(ヤバい、可愛すぎる…)
唇を離して黒田が自分も裸になると、眼を逸らしていた重光がそっと視線を向けた。
「おまえ…、エ、エッチ、慣れてんの…?」
「男は初めてだよ」
黒田の答えに、また重光の顔がカーっと赤くなった。
「し、知ってるよッ」
重光の初々しさに堪らず笑みを浮かべると、黒田は彼の太腿を片腕で抱えて持ち上げた。
「挿れたいんだけど、大丈夫?嫌なら無理しなくていいから」
訊くと、一瞬黒田の勃起した性器を見つめ、重光は少し強張った表情で喉を鳴らした。
「怖い?やめようか?」
黒田が訊くと、重光は下から彼を睨んだ。
「こ、怖くねえ。いいから、やれよっ」
精一杯虚勢を張る重光が、本当に可愛くてならない。黒田が見つめていると、心の準備をしたのか、重光は目を逸らして、息を吐いた。
「お、俺だって…、雪のこと、気持ちよくしたい……」
「知己…」
感動して、黒田は暫く動けなかった。
すると、重光がまたおずおずと視線を戻して言った。
「マジで俺、怖くね…から…」
「うん」
頷くと、黒田はヘッドボードの引き出しからローションを出して指に取り、そのまま重光のアナルを濡らした。そして、濡れたそこに指を差し入れた。
「ぁ…ッ…」
小さく声を上げ、重光は胸の上で両手をぎゅっと拳にした。
「痛い…?」
訊くと、目を瞑ったまま首を振った。
双子の相手をしていても、キス以外は手淫や口淫をさせられていただけで、身体を触られることは殆どなかったのだろう。何をされても、重光の反応は初心だった。
黒田の指が中まで十分に濡らして広げると、重光は拳を噛んで声を堪えた。
「噛んじゃ駄目だよ」
その拳を掴んで黒田が離させると、重光は嫌々をするように首を振った。
「やだっ、こ、声出るから…っ」
「我慢しなくていいよ」
言いながら、指を増やすと、黒田はその指を開くようにして重光のアナルを広げた。
「やぁ…ッ、あっ…んぅぅ…も、やだぁ…」
初めての感覚に翻弄されたのか、激しく胸を上下させ、重光は泣き声混じりの声で言った。黒田は指を抜くと、両手で左右の太腿を掴みグッと持ち上げた。
早く蹂躙したくて心が急く。
(ヤバい、俺…、余裕ねえ)
今までの、何時も何処か冷めていたセックスとは全く違っていた。
心も体も熱くて、目の前の重光を抱くことしか考えられなかった。
「挿れるよ?」
重光が頷いたのを見て、性器をアナルに宛がい、ゆっくりと進んだ。
十分に解されたそこは、余り抵抗も無く黒田を飲み込んでいった。
(すごい…)
黒田にとっても初めての経験で、やはり女の子とは違う。だが、今までに抱いた何人かの女の子より、可愛くて愛しいと思った。
「あーっ…、あぁ…ぁ」
重光が声を上げたが、痛がっている様子はなかった。
「分かる…っ?入るよ」
黒田の言葉に息を荒げたままで重光は頷いた。
黒田はそのまま奥まで突き入れると、息を吐いた。
「キツ…」
見ると、重光の目尻から涙が伝っていた。だがそれは、辛いのではなく、初めて自分の中に黒田を受け入れたことによる興奮状態のせいだろう。
「熱いぃ…」
まだ涙を溜めたまま、重光は黒田を見上げた。
「動くよ?」
訊くと、重光は黒田の方へ手を差し伸べた。
「手…繋いで?…」
不安なのだろう。だが、それでも受け入れようとする重光が健気だと黒田は思った。
両手首を持ってやると、重光も黒田の手首をギュッと掴んだ。
そのまま黒田が抜き差しを始めると、重光はまた声を上げた。
「やっ…、んっ…。こんなっ…こんな…の…知らねッ…。あん、あっ…」
身体の中で黒田が動くのが切ないのか、重光はまた涙を浮かべた。
その唇にキスをすると、重光は手を離して両腕を黒田の首に回してしがみ付いた。
キスの合間に喘ぐ重光が可愛くて、黒田はどうにかなりそうだった。
本当に、誰を抱いてもこんな気持ちになったことは無い。
「お尻の中…、気持ちい…?」
訊くとまたコクコクと頷く。
「いっ…、きもち…いッ……」
潤んだ瞳でそう言い、重光はじっと黒田の目を見つめた。
「雪…は…?」
切なげに訊かれ、黒田は頷いて、額を重光の額に押し付けた。
「いい…よ、最高…」
答えると、今度は自分からキスを求め、重光は唇を押し付けた。
唇が離れると、重光は涙の溜まった眼で黒田を見上げた。
「やだよ…ッ」
「え?」
気持ちいいと言った癖に本当は嫌なのかと、驚いて訊き返すと、重光の眼から涙が伝い落ちた。
「す…きなの、嘘だって言わないで…?」
「知己…」
黒田の優しさが気まぐれだったらと言っていた。好きだと言った言葉が撤回されたらと思うと、不安になってしまったのだろう。
そんな重光が愛しくて、黒田は強く抱きしめた。
「言わない。大好きだよ、知己」
「雪…ッ、雪……雪……ッ」
何度も名前を呼び、しがみ付いて来る重光の身体が、熱くて心地よくて、黒田は心から幸せだと感じた。
「眠い?シャワー浴びれる?」
髪を撫でながら訊くと、重光はだるそうに首を振った。
その髪をまた撫で、クスッと笑うと、黒田は立ち上がって下着と服を着た。
「いいよ。拭いてあげるから、寝てて」
そう言って自分はサッとシャワーを浴び、重光の為に熱い湯でタオルを絞った。
部屋に戻ると、重光は横になったまま目を瞑っていた。
だが、黒田が身体を拭き始めると目を開けた。
「雪…」
「うん?」
「俺、バイトする」
「え?…どうしたの?急に」
笑いながら黒田が訊くと、重光は起き上がって真剣な目をして彼を見た。
「今まで、バイトしたくても身形が悪いって断られて…。年、誤魔化して水商売でもって思ったけど、俺、童顔だし、高校生だってのまるバレで駄目だった。でも、ピアス外して髪の毛も黒くしたら、ちゃんとした所でも雇ってもらえると思うんだ」
「うん、そうかもね」
「そしたらさ、もうお袋から嫌味言われながら少ねえ小遣い貰わなくていいし、金が有ったら本も買えるし、それから……」
そこまで言うと、重光の頬にサッと朱が差した。
「今度は俺が、雪にケーキ奢ってやれる…。俺の金で、雪に食べさせたい」
「知己…」
吃驚して、黒田は重光の真っ赤な顔を見つめた。
そして、彼もまた赤くなると、片手で口元を覆った。
「やべ…。超、嬉しい…」
「ほんと?」
身を乗り出した重光の身体を黒田は抱きしめた。
「嬉しいよ。俺の彼氏、最高っ」
「か、彼……」
絶句した重光は耳から項まで真っ赤に染まった。