にんじんのお星さま

第4話 再会とクリームシチュー


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岳斗を起こさないように気を遣いながら、それでも素早く2階へ上がると、彪芽は椎名を部屋に入れた。
暖房はつけてあったので、中は暖かい。彪芽は遠慮せずに椎名の服に手を掛けた。
椎名も彪芽の服に手を掛け、お互いに脱がせ合うと、ベッドに上がった。
椎名を横たえさせ、彪芽は彼の下半身も裸にした。
引き締まった椎名の身体がすっかり裸になると、その中心で彼自身が勃起しかけているのが見えた。
カーっと頭に血が上り、彪芽はそれを掴むと、もう一方の手で椎名の首筋を抱え、引き寄せて激しく口づけた。
「ぅんッ…」
刺激されて、唇を塞がれたまま椎名が声を上げた。
キスを続けたまま、彪芽は片手を伸ばし、ヘッドボードの引き出しから手探りでローションのチューブを出した。
「いいです?」
唇を離して訊くと、椎名は頷いた。
彪芽はローションを掌に出すと、それを椎名の後ろへ回した。
「済まん…、久し振りだから…」
「はい…」
椎名の言葉の意味が、興奮状態の彪芽にはすぐに分からなかった。
ただ、逸る気持ちを抑えて、椎名の身体が慣れるまでゆっくりと解した。
「痛くない…?」
「ん……」
頷いた椎名に求められて、彪芽はまたキスをした。
息が上がって、椎名の胸が上下している。それを見て、彪芽は益々興奮した。
舌を這わせ、喉仏を舐め上げる。伸び掛けた髭が舌を刺激した。
勃起した乳首を吸うと、椎名が小さく声を漏らした。
やがて、緩んで指がスムーズに動くようになり、彪芽は椎名の眼を見ると、自分自身をそこへ宛がった。
両手で椎名の太腿を押し上げ、ゆっくりと腰を繰り出す。
眉根に皺を寄せ、椎名が吐息と共に声を上げた。
「すごい…、熱い…っ」
椎名が普段話すのより少し高い声でそう言い、気持ちよさそうに胸を反らせた。
彪芽が律動を始めると、椎名の手が伸びてその腕を掴んだ。
「はぁッ…、あ……あ……、い…い…ッ」
小さく喘ぎ始めた椎名を見て、彩芽は感動を覚えた。
最初に訳も分からず抱いた時とは違い、椎名は明らかに感じている。それが嬉しかった。
「んんッ…」
中を擦りながら、彪芽が片手で椎名自身を掴みそちらも擦り上げると、少し仰け反って椎名はビクッと震えた。
「ん…ん…ッ…あ…。彪芽く……」
伸ばされた椎名の手に引き寄せられ、彪芽はキスを続けながら愛撫を繰り返した。
「は…ッ、んっ……んんッ…あっ…ッ」
キスと手淫に喘ぎながら、前立腺をも刺激され、椎名は彪芽の腕を掴むと、何度もぴくん、ぴくんと身体を震わせた。
久し振りだとは言っても慣れている身体だ。ポイントを擦られて何度も達し、切なげに震えると彪芽自身を締め付けた。
そして、温かい椎名の中で、彪芽もやがて昇りつめていった。
「椎名さ…ッ、俺…ッ」
「ん…」
頷いた椎名の中で、彪芽は達した。
放心しながら、何度も精を吐き出す。そして、緩々と余韻を感じながら何度か椎名の中を擦った。
そして、達しながらも射精出来ていなかった椎名をまた手淫して導くと、彼もまた喘いで自分の腹を汚した。
満足げに息をついた椎名を見下ろし、彪芽はまた少し感動していた。
とうとう椎名が自分のものになったような気がしたのだ。
そして、さっきの言葉の意味が、漸く彪芽の脳に伝わった。
”久し振り”だと椎名は言った。ということは、彼は剛とは寝ていなかったのだ。
ずっと一緒に居たのに、椎名は剛を求めなかった。それが分かると、改めて胸が熱くなった。
ティッシュを取り、汚れた椎名の腹を拭いてやると、彼は眼を開いて彪芽を見上げた。
「やっぱり恥ずかしいな…。なんだか、凄く声出した気がする…」
「恥ずかしくないですよ。全然…。嬉しかったです」
言いながら近づき、彪芽はまたキスをした。
椎名の腕が彪芽の首に絡みつき、暫く唇を吸い合ったが、やがて椎名が離れ、クスッと笑った。
「やっぱり、若いね、彪芽君…」
もう力を取り戻した物が太腿に当たり、椎名は言った。
「済みません…」
苦笑しながら彪芽が言うと、椎名がまた引き寄せながら言った。
「いいよ…。俺も、もっと、したい…」



風呂に入り、客間に布団を敷こうとすると、椎名は一緒でいいと言って、彪芽のベッドに入った。
ダブルサイズだったが、男二人だと少々狭い。孝彰とは何度もこうして一緒に寝たが、暑い季節には無理だった。
幸いまだ、人肌の恋しい季節だ。彪芽は椎名と寄り添うようにして横になった。
「本当に、もう行かないんですね?」
訊くと、椎名は頷いた。
「行かないよ。彪芽君の傍に居る、ずっと…」
「でも…、剛さんは……?」
「剛は、新しい上司に大きなプロジェクトを任されてね、仕事にやる気を取り戻したんだ。それで、精神的にも落ち着いた。まだ、カウンセリングは受けてるが、もう大丈夫だよ」
ホッとしたが、それでもまだ彪芽は完全に安心することは出来なかった。
「でも…、俺は自信が無い。剛さんみたいに大人じゃないし、椎名さんが物足りないんじゃないかって…」
すると、椎名の手が彩芽の頬を包んだ。
「何言ってるんだ。俺はこんなにいい男を他に知らないよ。…君はたった一人で岳斗を育てて、健気に逞しく生きてるじゃないか。そんな君に俺は胸が熱くなる…。彪芽君は、俺が今まで出会った中で、最高の男だよ」
「し、椎名さん…」
本気で言っているのか分からなかったが、彪芽は嬉しかった。だが、彪芽にはまだ気になっていることがあった。いや、ずっとそれを気にしていたのだ。
「でも、もし岳斗が居なかったら、椎名さんは俺を選んでくれたんでしょうか……」
「剛が言ったことを気にしてるの?」
剛だけではない。前に、棚田にも言われたことだ。
椎名は岳斗のことで自分に同情したから、傍に居てくれるのだと。
「彪芽君、岳斗が居なかったら……、なんてことは、俺には考えられない」
その言葉に、彪芽はハッとして椎名を見た。
「岳斗抜きで考えることなんて、俺には出来ないよ。けど、岳斗が居なかったら、彪芽君は孝彰君と別れたりしなかったんじゃないか?」
「それは……」
「だとしたら、俺たちは今でも、ただのお隣さんだっただろう。彪芽君の方こそ、俺を選んでくれなかったよ。だから、岳斗が居なかったらなんて考えるのは無意味だ。それに……」
言いながら近づき、椎名は彪芽にキスをした。
「俺は君が岳斗のお兄さんだから好きになったんじゃないよ。彪芽君自身に惚れたんだから」
「椎名さん……」
その眼を見て、彪芽は胸が熱くなった。
少なくとも椎名は、剛ではなく自分を選んでくれたのだ。だからもう、余計なことを考えるのはよそう。
またキスを交わし、彪芽は椎名と抱き合って眠った。



翌朝、彪芽が目を覚ますと、椎名は隣に居なかった。
帰ってしまったのかと、慌てて階下に降りると、炬燵に横たわってテレビを見ていた。
「あ、ごめん…、時差ボケでさ……。早々と目が覚めた」
振り向いて苦笑した椎名に、彪芽も笑った。
近付くと、椎名の傍に膝を突き、屈んでキスをした。すると、椎名の腕がすぐに彪芽の首に回された。
何度も角度を変え、キスが深まる。
椎名を押し倒すようにして、彪芽は覆い被さった。
唇を離すと、椎名はゆっくりと目を開けて彪芽を見上げた。
「やっぱり、恥ずかしいな…。若い男に溺れてるオッサンみたいに見えないか?俺…」
その眼が照れたように、だが、嬉しそうに笑っていた。
「溺れさせる程の男になれる様に頑張りますよ」
彪芽が笑いながらそう言うと、また椎名が彼を引き寄せてキスをした。
離れ難かったが、彪芽は最後に強く椎名の舌を吸うと、ゆっくりと離れた。
「もうすぐパンが焼けるので、そしたら朝飯にしますから」
「凄いな…、焼き立てパンか」
「でも、後は残り物のシチューですよ」
「いや、十分だよ」
そう言いながらも、椎名の眼は彪芽を見つめるのを止めない。本当に、このまままた、ベッドへ連れて行きたいと彪芽は思った。
だが、そういう訳にもいかない。仕方なく、起き上がると彪芽はキッチンへ向かった。
やはりサラダと卵くらいは用意しようと思ったのだ。
パンが焼ける頃、岳斗が抱き枕の猫と一緒に起きて来た。
そして、椎名の姿を見ると、大喜びで飛びついた。
「パパーッ、パパいるーっ、パパ―ッ」
「おう、岳斗ー。ただいまーぁ。お土産あるぞー」
椎名も岳斗を抱き上げて相好を崩すと、バッグの中から大きなチョコレートの箱を取り出した。
「わぁー」
喜んだ岳斗を椎名の腕から抱き上げると、彪芽は差し出されたチョコの箱を見ながら言った。
「凄いなー、でっかいチョコだぁ。でもそれは、ご飯の後な?」
「はーい」
食卓に着くと、椎名がシチューの中のハートの人参を目聡く見つけた。
「お、ハートだなぁ」
「そうなんです。岳斗がヒトデじゃなくてハートがいいって言うんで…」
「そうか…。そうだな、岳斗、俺もハートがいいよ」
「はーと、いいもんねー。かわいんだってー」
ハート型の人参をスプーンで掬って、椎名が嬉しそうに笑った。
シチューの季節はそろそろ終わり、暫くはハートの人参を入れることも無いだろう。
だが、今度の冬も椎名はきっとここに居て、そして彪芽の作ったシチューを食べてくれるに違いない。
(そうだ…。これからは、こんな朝が何度も来るんだ……)
涙が滲みそうになり、彪芽はホームベーカリーからパンを出すのにかこつけて、二人に背を向けた。
蓋を開けると、香ばしい香りが、全てを満たす。
その香りを嗅いで椎名と岳斗が歓声を上げた。
その声に微笑み、パリッといい音を立てながら、焼き立てのパンにナイフを入れる。
切り分けたパンを載せた皿を持ち、彪芽は美味しそうな湯気と共に幸せの中に振り返った。