恋しい指
-3-
「駄目なんです、僕……」
「え…?」
聞き返すと、安部はコクッと唾を飲み込んだ。
「ぼ、僕……、男の人の指が好きなんです」
その言葉に、霧島は思わず眉を顰めて聞き返した。
「指…?」
僅かに首を動かして頷くと、安部はまた口を開いた。
「変態臭いって分かってるんです。でも、どうしても気になって見てしまって……。特に、自分の好きな指だと我慢出来なくて……ッ」
言うなり、安部は絶望的な様子で、両手で顔を覆った。
(指だって?)
愕然として、霧島はそんな安部を凝視した。
(じゃあ、俺のことが好きなんじゃなくて、俺の指が好きだってのか?)
そう思うと、霧島はカーッと頭に血が上るのが分かった。
自分自身ではなく、指だけが好かれていた。そう思うと、今までの安部の態度が腹立たしくて堪らなくなった。
(馬鹿にしてやがるッ)
グッと眉根に皺を寄せ、顔を隠したままの安部を睨むと、霧島はスッと表情を変えて笑みを浮かべた。
そして、手を伸ばすと安部の手首を掴んだ。
「へえ?じゃあ、安部さんは俺の指が好きなんですか?……どうしてかな?今まで、指なんて褒められたことなかったけど…」
笑いを含んだ声で霧島が言うと、安部は恐る恐る顔から手をどかした。
「き、霧島さんの指は凄く綺麗です。長くて…、真っ直ぐで、爪の形も…、凄く綺麗……」
真っ赤になった安部を見て霧島はクスッと笑うと、手首から手を滑らせ、その手を取って親指で安部の指を撫でた。
「そうですか?褒められると嬉しいけど。でも俺からしたら、安部さんの指の方が綺麗だと思うけどな。真っ白で、爪がピンク色で、まるで女の指みたいだ」
言いながら、霧島はわざと震える安部の指をゆっくりと撫でた。
「コ、コンプレックスなんです。そういう自分が……」
「ふぅん?俺はいいと思うけどな。透明感があって、日本人の肌色じゃないみたいですよ。北欧の血とか混じってるんじゃないんです?」
クスクス笑いながらそう言うと、霧島はまた指を滑らせて安部のシャツの袖口へ忍ばせた。
「やっ……」
驚いて手を引っ込めようとした安部の手首を掴み、霧島はもう一方の手を彼の開いた上着の下へと差し込んだ。
「なっ、何を…ッ?」
身を硬くした安部の方へグッと身を乗り出すと、その目を捉えて霧島は言った。
「知らないでしょ?安部さんの好きな俺の指は凄く厭らしいんですよ…」
囁いて、安部の脇腹から手を滑らせると、霧島はシャツの上から彼の乳首を親指で擦った。
「いやっ…」
恐怖の為か、安部の乳首は勃起していた。
それを容赦なく擦ると、霧島は掴んでいた手首を離して、その手も上着の下へ差し込んだ。
「安部さんも、結構厭らしいな。こんなにコリコリさせて…」
「や、止めてッ」
逃げようとする安部の両の乳首を霧島は容赦なくギュッと捻った。
「あうッ…」
痛みに声を上げた安部の身体をグッと引き寄せると、霧島は涙を溜めた大きな目を眼鏡越しに覗き込んだ。
長い睫毛が濡れているのが分かる。
それをじっと見ながら、霧島は意地悪く言った。
「男の指が好きだって?そうじゃないだろ?あんたは男が好きなんだ。ホモなんだろ?え?」
「ううっ…」
否定する代わりに安部は悔しそうに呻くと、瞬きをして涙を零した。
「素直に言えよ。俺のことが好きだって。……ん?」
それは、まるで脅迫するような調子だった。
安部が自分のことを好きだと言わないことが、何故か霧島には腹立たしくて堪らなかったのだ。
俯いたまま答えない安部の眼鏡をその顔から乱暴に奪い取ると、怯えて見上げたその目を霧島はグッと覗き込んだ。
「それとも同じか?俺と三沢は同じだって?ただ、この指に反応してるだけだって?」
霧島の言葉に、安部は息を飲んだ。
「ちが……、それは……」
「違う?どう違う?俺の指が好きで、三沢の指は観賞してるだけだって?」
意地悪な霧島の言葉に、安部は唇を結んだ。
目を逸らした彼を見て、霧島は冷笑を浮かべた。
「ほら、嬉しいだろ?大好きな俺の指に触られて…」
クリクリとシャツの上から乳首を擦ると、安部は声を堪えるように唇を噛んだ。だが、怖くて動けないのか逃げようとはしない。
霧島はネクタイを緩めずに、安部のシャツのボタンだけを幾つか外した。
そして、息を飲む。
現れた胸は、眩しいほどに白かった。
そして、思った通りの綺麗なピンク色の乳首が厭らしく勃起していた。
「凄いエロいな…。逃げないならもっと触るよ?」
思わずゴクッと唾を飲み込み、霧島は少々掠れた声でそう言った。
まさか自分でも、ここまでするつもりなど無かった。それなのに、この高揚感はなんだろうか。男の身体を触って、何故、これほど興奮するのだろう。
自分でも訳の分からない熱に侵され、霧島は震えて今にも泣き出しそうな安部の胸に手を伸ばした。
直に摘まれると、安部は僅かに息を飲んだ。そして、ギュッと目を瞑ったが、やはり逃げようとはしなかった。
しっかりと指に挟めるほど大きくは無い突起だったが、霧島の指が何度も摘んだり擦ったりして弄んでやると、感じるのか、安部は唇を噛んで堪えるような表情を見せた。
(こんなことされても振り払わないのが、何よりの証拠だろ?)
やはり安部は、自分に惚れているのだ。それ以外は考えられないと霧島は思った。
(素直に言ゃあいいのに……)
心の中であざ笑いながら、目の前の安部の姿態に霧島は熱くなっていた。
それはまるで、肉食獣に掴まった小動物のようで、霧島の支配欲を酷く駆り立てていたのだ。
「もう許して……。許してください」
か弱い声で安部が言った。
だが、霧島は首を振った。
「駄目です。許しません」
その言葉に、安部が不安げに目を上げた。
その目をじっと見ながら、霧島は片手を下ろして安部のズボンのベルトに手を掛けた。
「い、いや……」
安部の目が益々恐怖に見開かれたが、まるで霧島の視線に魅入られたかのように身動き出来ないようだった。
とうとう霧島がズボンのファスナーを下ろし、その中へ手を入れた。
「ぁ……ッ」
勃起しているのを知られて羞恥したのか、安部は絶望的な表情を見せた。だが、霧島は構わずに安部の性器を掴むと、下着の外へ曝け出した。
小振りだが、ちゃんとした大人の性器だ。ただ、体毛が極端に薄く、その色は大人とは思えないほど綺麗なピンク色だった。
恐らく、肌の色素が異常に薄い所為だろうが、その色を見て想像通り安部は童貞らしいと霧島は思った。
「その年でこの色は奇跡だね。自分でもしないの?」
少々馬鹿にした調子で言ったが、霧島は意外にも少しばかり感動していた。
安部を、急速に“可愛い”と感じる。
そして、余りにも無垢なこの存在の、全てを支配して蹂躙してやりたいという凶暴な思いが芽生えていた。
「濡れると厭らしいね。でも、何でかな?全然気持ち悪くない……」
そう言うと、霧島は濡れた先端を指で擦った。
「んんぅッ……」
安部がギュッと両手を握るのが分かった。そして、とうとう、その頬に涙が一筋伝い落ちて行った。
「……めんな…さい…ッ」
ヒクッと、喉を鳴らしながら安部が言った。
「す、好きです。……僕は、ずっと前から、霧島さんのことが好きなんですッ」
とうとう観念する様に安部が言った。
その言葉を聞いて、霧島の胸に急速に満足感が広がっていった。
「指だけじゃなくて?」
意地悪く訊くと、目を瞑ったまま安部がコクコクと首を振った。
そして、恐る恐る目を開けると、涙の溜まった瞳で目の前の霧島を見上げた。
「……ごめんなさい。もう、許してください。気持ち悪い思いをさせたなら、謝ります。もう、見たりしないし、この気持ちも……忘れるようにしますからッ……」
また、ヒクッと喉を鳴らし、安部は唇を噛んで涙を零した。
霧島がこんな行為をするのは自分を戒める為だと思ったらしい。だが、そうして泣きながら震える安部は、霧島にとって今や虐めてやりたいだけの存在ではなくなっていた。
勃起したままの乳首の色はゾクリとするほど艶っぽく、また、すぐに摘んで泣き出すまで弄ってやりたいと思わせた。
いや、それだけではない。
涙で濡れた頬に唇を押し付け、思う通りに体中を弄ってやりたい。そんな欲望が、霧島を支配しようとしていた。
「俺が怒ってると?好きだと言われたから?」
クスッと笑うと、霧島は親指でゆっくりと安部の勃起した乳首を撫でた。
「厭らしい身体だな、童貞の癖に……。乳首を撫でただけでどんどん濡れてくる。……ほら、もう先がトロトロですよ?」
言いながら性器の先端をまた擦る。すると、安部は声にならない悲鳴を上げながら、両手で顔を覆った。
そんな安部を見て、霧島は益々興奮し、その耳に唇を押し付けるようにして言った。
「嫌なら、何で逃げないんですか?俺の指に触られる快感に抗えない?それとも、本当は嫌なんじゃなくて期待してるのかな?もっと、過激な展開を?」
安部の顔が手の下から現れた。
その目は恐怖に怯えているように見開かれていたが、それでもじっと霧島の目を見上げた。
フッと笑い、霧島は汗で前髪が張り付いている安部の額に唇を落とした。
途端、安倍の身体が、ビクッと震えた。
「キスは嫌?指じゃなきゃ嫌?」
霧島が訊くと、安部は恐る恐る首を振った。
「良かった……」
そう言って笑うと、霧島は目を見張ったままの安倍の唇にキスをした。
安部が息を呑む。だが、霧島は構わずにその唇を啄ばんだ。
「まさか、キスも初めて?」
唇を離して見つめると、安部は痺れたような表情のまま、こっくりと頷いた。
「嘘……、奇跡だな、ホント……」
馬鹿にする風ではなくそう言うと、霧島はまた安倍の唇を捕らえた。
28歳でキスもしたことが無い男を、気持ち悪いと思う気持ちは何故か湧いてこなかった。それよりも、先程にも増して安部を可愛いと思えた。
唇を押し付けたまま、霧島は安倍のズボンと下着をずり下ろした。
安部はまた、固まったまま動けないらしく、小さく首を振ったが逃げようとはしなかった。
それをいいことに、片方の太腿を持ち上げるようにして霧島は安倍の体液で濡れた指を後ろへ運んだ。
「ぁぁ……ッ。い、いやッ」
あらぬ所を触られ、さすがの安部も身を引こうとした。
だが霧島は、太腿をぎゅっと掴んで抵抗を許さなかった。
「嫌じゃない」
有無を言わさぬ口調でそう言うと、霧島は安倍の中へ指を入れた。
「ぅあぁ……」
声を上げた安部に霧島は言った。
「ほら…、感じて?俺の指……」
その言葉に、安倍の開いた唇が閉じた。そして、霧島を見上げると、彼の真意を確かめるように、じっとその目を見つめた。
「今まで、何で誰とも付き合わなかったんです?」
霧島も見つめ返しながらそう言うと、安部はスッと視線を逸らした。
「だ、だって、す……きになんか、なってもらえる訳ないです。僕なんか…。地味だし、口下手だし、へ、変態だし……」
最後の言葉を辛そうに安部は言った。自分の性癖を恥じているらしい。
また泣きそうになった安部を見て、霧島はまた可愛いと感じた。