ワルイアソビ


-6-

俺たちが北校舎のトイレから出て行ったのは、5時限目が終わってからだった。
琴音は別段不審に思っている様子はなく、ただ、2人だけで何処かでサボっていたことを少し詰っただけのようだった。
武我は琴音に何か耳打ちされて笑って頷いている。あんな笑みを、たまには俺にも見せてくれればいいのに。
今日も学校が終わったら、2人で何処かへ行くのだろうか。
毎日のように俺にフェラさしてるくせに。
ああ、駄目だ。
この頃の俺は、嫉妬の所為でマジで僻みっぽくなってる。見っとも無くて笑えてくるね。
溜息をつき、俺は、鞄を掴むと立ち上がった。
「晶、どうしたん?」
後ろの席の伴田が、漫画雑誌から目を上げて言った。
「帰るわ…」
「なに?調子悪い?」
「んー。腹がゴロゴロして。伴田くん、悪りぃけど、あと頼む」
「うぃ。お大事にぃ」
そう言うと、伴田はすぐにまた雑誌に目を落とした。
教室を出る時、チラリと武我が此方を見るのが分かったが、俺は視線を合わせずにそのまま出て来てしまった。
武我が思ってるように、他の男でもいいなら簡単なんだ。そういう系の溜まり場へでも行って男を漁りゃ満足出来る。
けど、身体も心も、他の誰だろうと満たしちゃくれねえんだ。
(空しいね…、ホント…)
バサッとマフラーを巻き直した時、ポケットの中で携帯が鳴った。
(武我…)
授業中だってのに、メールして来たのか。
そう思って開くと、思い掛けない文面があった。
”俺も行くから。駅で待っててくれ”
「うそ…」
俺は思わず声に出してそう言った。
俺を追いかけて来てくれるって?
そこにどう言う意図があるのか分からなかったが、それでも嬉しいと思っちまうあたり、もう駄目だろ、俺。
まだ見えないだろうと思ったが、俺は歩調を緩めて後ろを振り返った。
すると、丁度校門を出て来る武我の姿が遠くに見えた。
俺は、そこに立ち止まって武我が近付いて来るのを待った。
「物理、自習」
だるそうに武我は言った。
6時限目は急に自習になったらしい。どうやら武我は、それで帰って来たらしかった。
「そうなん?原ちゃん、どしたんかな?」
「担任クラスの生徒が怪我して、病院に付いてったんだってよ」
「へえ?誰だろ?」
物理の原ちゃんの受け持ちクラスは同じ2学年だった。もしかすると、知っているヤツかも知れない。
「知らねえ」
「ふうん…」
武我はまだ不機嫌なままだった。
仕方なく口を閉じて、俺は並んで歩き始めた。
さっき、琴音には笑ったくせに、俺と居るとこの頃いつも仏頂面だ。それなのに、なんで後を追って来たりするんだろう。
「どっか、行く?」
訊いてみたが、思った通り首を振った。
「だりぃしな…」
「じゃ…、俺んち、来る?」
「あー…、そうだな」
まだ、した足りないってことかよ。けど、そんならなんで琴音と帰らないんだろう。
俺の方がいいから?
なんて、それほど俺は自惚れちゃいない。
黙ったままの武我の隣を、やはり黙って歩きながら、俺の頭の中は色んな思いで渦巻いていた。
「なんか、人が多くね?」
言われて顔を上げると、確かに今日は、駅に何時もの何倍も人が居る。
この時間ならまだサラリーマンの退勤時間には早い筈だったが、駅のホームは人でごった返していた。
「ん?ああ…、人身だってよ。それで、遅れてたんじゃね?」
「なるほど…」
どうやら何処かで人身事故があり、電車が一時止まっていたらしい。それで乗る人が多いのだろう。
やがて電車が来て、俺たちは仕方なく、ほぼ満員の箱の中に乗り込んだ。
下りる側のドアに寄り、俺はドアに寄り掛かった。
これからウチに来て、武我はまた俺の身体を弄るのだろうか。
(キス、してくれねえかな……)
身体は弄っても、最初にしてくれたっきり、武我は俺にキスしてくれた事はなかった。
あの時は、言ったらしてくれた。だから、言えばいいのかも知れない。けど、武我の怖いような目を見てしまうと、こっちから言うのも気が引けた。
(ん…?)
腰の辺りがムズムズして、俺は顔を上げた。
まさか、こんなトコで武我が?
そう思ったが、武我の手は両方とも俺の見える位置にあった。
(マジ?じゃ、痴漢かよ…)
不快感よりも先ず驚くのが先だった。
満員電車に乗った事は何度もあるが、こんな目にあったのは初めてだった。
大体、俺は華奢でも弱そうでもねえし、そりゃ、マッチョじゃねえけど、身長だって180近くある。だからこそ、ノンケの武我に告白も出来ねえんだ。
そんな俺を、痴漢してくるヤツがいるなんて信じられなかった。
まあ、相手は男と分かって触ってくるんだから、デカイだのそんなのは関係ないのかも知れねえけど。
(お…、おいおい…)
驚いている内に、不埒な手は俺の尻の割れ目に入り込んで来た。
そこを、ゆっくりと擦ってくる。
(あ、やべ…)
さっき、武我に散々甚振られて、まだ余韻が残ってる。
それに、武我の指が入って来た時の事まで思い出しちまった。
(くそ…)
手を後ろに回して痴漢の手を掴もうとした時、その手がサッと引っ込んだ。
「なに、黙ってやらせてんだ?アホ」
ドスの効いた武我の声が、俺のすぐ耳元で言った。
ハッとして見ると、武我に鳩尾を殴られたらしく、痴漢らしい男が後ろで身体を縮めていた。
「降りるぞ」
丁度駅に着き、目の前で扉が開いた。
武我は俺を促すと腕を掴んで足早に歩き始めた。
「武我、まだここッ…」
そこはまだ俺たちが降りる筈の駅よりも手前だった。
「うっせえッ。来いよっ」
武我は駅のトイレに俺を連れ込むと、そのまま個室へ入らせた。
「武我?うくっ…」
振り向いた俺の股間を、武我がいきなり掴んだ。
俺が苦痛に顔を歪めると、空いた方の手で後ろ手に鍵を掛けながら武我は言った。
「なんだ?これ。おまえ、あんなオッサンに触られても勃つんかよ?」
「ちがッ、これは…」
武我の指を思い出したからだとは言えず、俺は口篭った。
「貸せっ」
俺の身体から鞄を剥ぎ取ると、武我は自分のと一緒にそれを棚の上に置いた。
そして、俺のズボンのベルトに手を掛けると、下着ごと下に下ろした。
「ホントに誰でもいいんだな、おまえ」
「ちがっ…あっ…」
「そっち向けよ」
グッと押されて、俺は武我に背中を向けた。
すると、スッと、下から肌を辿って武我の手が入ってきた。
その冷たい感触にゾクッと震えると、上って来た手は、俺のシャツの下で勃起した乳首を摘んだ。
「あっ…」
「ちょっとケツ弄られたくらいで、チンコも乳首もこんなにおっ立ててよ。恥ずかしくねえの?」
「違うって、これはっ……はぁっ…」
冷たい武我の指にギュッと摘まれ、俺は言葉を続けられずに飲み込んだ。
「ほら、エロい声出せよ。いつもみたく」
武我の声が俺の耳をまるで愛撫するように囁いた。
こんな事されたら、我慢出来ねえって。その気になっちまう。
冷たかった武我の手が、俺の乳首を弄る内に段々に温まってくる。指の腹で何度も弾かれ、俺は声を堪え切れなくなった。
「くっ…、武我っ、もう、やめ……あっ」
「俺じゃ、不満かよ?さっきの痴漢の方が良かったりして?」
馬鹿にするように言われ、俺は唇を噛んだまま首を振った。
「もう、べとべと」
言いながら、武我の手が俺のチンコから滑りを拭い取った。
そして、俺のシャツから出て行った手が、首の後ろを掴んでグイッと前に押し出した。
「手、突けよ」
「え…?」
よろめくようにして、俺が便座の蓋の上に手を突くと、突き出された形になった尻の中心に濡れた武我の手が入り込んだ。
「武我?」
「動くなよ…」
俺の先走りを塗りつけただけで、さっきみたいに中に入って来ると思った指の存在が消えた。
俺が戸惑っていると、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。
(え……?)
嘘だろ?
まさか…。
驚く俺の目の端に、何かがヒラリと落ちて行くのが映った。
目をやると、そこには封を切って中身を出された、“ゴム”の包みが落ちていた。
「む、武我…?」
振り返ろうとすると、上からグッと肩を押さえられた。
「動くなって」
「けどッ…」
俺が更に身体を起こそうとすると、アナルに何かが当たった。
「あ…」
それに気付いた途端、俺の動きが止まった。
すぐにそれが、武我のチンコだって分かったからだ。
肩を押さえていた手が離れて、両手の指が俺のアナルを開いた。
カアッ、と全身が熱くなる。
この、信じられない展開に、心が付いて行けなかった。
武我が持っていたゴムはジェル付だったらしい。
その先で、ぬるぬると入り口を擦られ、俺は緊張の為に思わず胸の下で拳を握った。
「うぁっ…」
何の予告も無しに、武我はチンコを突き入れてきた。
さすがに指とは違う。
勃起して膨れ上がったそれがメリメリと俺を犯した。
「いっ…いた……あっ」
「くそっ、せめぇ…」
武我が呟くのが聞こえ、その後に俺の腰がしっかりと捕まれた。
「あうっ…」
グッと更に激しく腰が突き入れられ、俺は自分の中にめり込んでくるその感覚に声を上げた。
張り裂けそうな痛みで目が眩む。
けど、それ以上に興奮して、痛みが現実のように感じられなかった。
「あぁぁぁっ……ああっ…」
ここが何処だかも忘れて、俺は声を上げて仰け反った。
武我が一気に奥まで突き入れてきたからだ。
「声、やべえって…」
そう言うなり武我の手が俺のマフラーを掴んで口の中へ押し込んだ。
「むふ…」
それを噛み、俺はまた拳を握った。
「すげ、中ッ…吸盤みて…」
興奮した武我の声が熱い息と共に俺の項を擽った。
その言葉を聞いて、痛みなんか何処かへ行っちまった。
(俺の身体、気に入ったのかも?)
だったら、すげえ嬉しい。
突然こんな状況になって、訳も分からないまま犯された衝撃から、俺は段々自分を取り戻していた。
(入ってる…、武我の…)
馬鹿みてえだけど、感動して泣きそうだった。
挿入を確かめたくて、俺は少し腰を揺すった。
「なんだよ?もう、動けって?」
武我の低い声が耳元で言った。
俺が慌てて首を振ると、圧し掛かったままで武我の手がまた俺のシャツの中へ入ってきた。
「まだきつくて動けねえ。協力しろよ」
そんな事言われたって、どうしていいか分かる訳ねえ。俺だって、こんなトコにチンコ挿れたのなんか初めてなんだ。
俺が力無く首を振ると、武我の手が前へ回った。
「なんだ。すっかり萎えちまってるじゃん。痛てえの?」
俺が頷くと、武我の手がゆっくりと動き始めた。
「悪かったな。解さねえで、挿れちまって…」
「んっ…」
武我の手で扱かれて、痛みと同時に快感が広がり始めた。
段々に息が上がってきて、マフラーを咥えているのが苦しくなった。
「ふ。勃ってきたら、こっちも良くなってきたぜ」
俺がマフラーを口から出そうとすると、トイレに誰かが入って来る気配がした。俺はまたマフラーを噛み直して、息を詰めた。