涙の後で


-6-

コクっと喉を鳴らして俺は覚悟を決めた。
すると、慶の顔が少し引き締まるのが分かった。
「あの…、勿論分かってると思うけど、俺、慶が初めてじゃない。小金井先輩のことは知ってるだろうけど、あの時は、セックスと言っても身体に関しては俺は辛いだけだった。…でも、有川とはホントの意味で何度もセックスしたし、あの……。侯…さんとも、何度か寝た」
村内とのことは、きっと慶にとっては1番聞きたくないことだっただろう。だが、全てを打ち明けなければいけないと思った。
黙って聞いていたが、慶の顔はどんどん険しくなっていた。
だが、俺は怖いのを我慢して話を続けた。
「あの…、言いたいのは、俺はその…、慶が思ってるほど綺麗じゃないってこと…。ずっと前だけど、慶は言ったよね?俺には性欲なんか無いみたいに思えるって。…でも、そうじゃない。俺だって抱かれる側だけど男だし、普通にそういうのあるし、その…、結構…、淫乱かもって、自分では思ってる……」
「なにを…」
言い掛けた慶を遮って、俺は首を振った。
「あのね、俺が怖いのは、慶が俺を抱いて幻滅しないかってこと…。何人もの男を知ってる身体でも、本当に抱きたいと思ってくれるのか、ちゃんと確かめたい。無理なら…、無理ならいいんだ。そういう関係になれなくても、俺は…」
ギュッと肩を掴まれ、俺は言葉を飲み込んだ。
「もう、よせ…。そんなに俺に嫉妬させたいか?」
あの鋭い眼が俺を貫くように見た。
だが、俺はもう慶のその眼が怖くはなかった。
「マジで腸が煮えくり返る…。俺さえもっと大人だったら、千冬の気持ちに気付いていたら、千冬は最初から俺だけのものだった。誰の手も触れさせやしなかった…ッ」
「慶…」
「腹が立って堪らないんだよ、自分に……」
そう言うと、慶は俺の頬を両手で包んだ。
「だから早く、俺のものになってくれ。全部俺のものだって思わせてくれ。過去なんてどうでもいい。もう、俺だけのものだって…」
そう言うと、慶は俺の唇に激しく唇を押し付けた。
なんて熱いキスだろう。
なんて熱い想いだろう。
慶の中に、こんな火傷するような熱が秘められていたなんて想像も出来なかった。
愛する人に求められることが、こんなにも幸せだなんて思いもしなかった。
「ぬ、脱ぐから…」
慶の唇が離れて俺が言うと、慶の手がスエットの裾を胸の上まで捲り上げ、それからズボンと下着を俺の脚から抜き取った。
一気に肌を晒され、寒さにぶるっと震えると慶がリモコンを取って暖房を入れた。
だが、またキスをされ、身体に手を這わされると、すぐに内側から熱が生まれた。
「こ、声出しちゃっても、呆れないで…?」
まだ少し怖くて俺が言うと、慶は笑みを浮かべた。
「まさか…。むしろ聞きたい」
その言葉に少し安心し、俺は慶の服の裾を掴んだ。
「慶も脱いで」
そう言うと、慶はすぐに着ているものを全部脱いだ。
風呂に入った時、慶の裸を初めて見たが、こうして今から抱かれることを意識して見上げると、高鳴る胸の鼓動で息が出来なくなりそうだった。
潤滑剤代わりに、慶が棚の上にあったハンドクリームを持って来た。自分で準備するつもりだったが、慶が容器の蓋を捻った。
「俺がする」
「ん…」
頷いて枕に頭を乗せたが、俺は落ち着かなかった。
慶にされるのは嫌じゃない。いや、勿論嬉しい。
でも、何だか申し訳ないような気持がするのだ。慶にそこまでさせていいのだろうかと思ってしまう。
慶の長い指がクリームを掬い取って俺のアナルに塗り付けた。
まだ、指が入った訳でもないのに恥かしい程に息が上がる。
俺は動く方の腕を上げ、手を眼の上に乗せた。
「お、俺…、マジで淫乱かも…。まだ、触られてるだけなのに…」
「それ、俺の指だからって思いたい」
言われて俺は手を退けると慶を見上げた。
「うん…。そう思って欲しい…」
ふっと笑い、慶が用心深く指を差し入れた。
「は……」
それだけで、トクンと胸が鳴り、俺は吐息を漏らした。
「痛くないか?」
訊かれて、俺はすぐに首を振った。
久し振りだったが、興奮が激し過ぎて痛みを感じている暇がなかった。
「これでいいのかな…?」
慣れていない慶の指だったが、不安を覚えるどころか、気持ちよくて俺はただ頷くだけだった。
いつの間にか指が増やされて、広げられているのも分かっていたが、胸の苦しさの方が勝っていて声を堪えるので必死だった。
自分の息が、煩い程に聞こえる。
油断すると、盛大に喘いでしまいそうだった。
「も、無理…ッ」
俺が言うと、慶の指の動きが止まった。
「ごめん…」
自分のやり方が悪かったとでも思ったのか、慶が不安げな顔をした。
それに首を振り、俺は言った。
「も、挿れて…。死んじゃうから」
俺の言葉に慶が吹き出した。
そして、両膝を俺の腿の下に入れると、持ち上がった俺のアナルに自分自身を宛がった。
「死ぬなよ」
そう言った慶の顔を下から見上げ、俺はもう泣きそうだった。
こんな角度で慶の顔を見つめる日が来たなんて信じられない。幸せ過ぎて、もう抱かれることなんかどうでもよかった。
だが、挿入が始まると、その気持ちよさと感動で体中が震えるような感覚を味わった。
「あっ…あ…、あぁぁ……ッ」
堪えていた声を、もう我慢出来ずに俺は盛大に上げた。
恥かしくなり、慌てて、はっ、はっ、はっと激しく胸を上下させて息を吐いたが、興奮は収まらない。
「キツい…」
そう言いながらも慶は俺の中を力強く進んだ。
はっきりとその存在を感じながら、与えられる快感にまた喘ぐ。
奥まで入り込むと、慶は俺の顔の横に両手をついて顔を近づけて来た。
「千冬…」
囁くように俺を呼び、キスが落ちる。
俺は動く方の腕で慶の首にしがみついた。
夢中で舌を吸い合い、俺は益々ぼうっとなった。
唇を離したが、慶は額を俺に押し付けたままで言った。
「動くよ?」
「ん、ん…」
コクコクと頷き、俺は腕を回したままで慶の眼を見つめた。
俺の中に慶が居る。
嬉しくて、俺はとうとう泣き出した。
「千冬…」
心配そうな慶に俺は首を振った。
「違う…。感動してるだけだから。動いて?気持ち良くして…」
「ん…」
頷くと、慶が動き始めた。
久し振りの感覚だったが、中を擦られる気持ち良さに声が抑えられない。ポロポロと涙を零しながら、俺は喘ぎ続けた。
俺の身体で慶が満足出来るのだろうか、とか、本当に俺に呆れたりしないだろうか、とか、始まる前は不安もあった。
だが、抱かれてしまえば、もう何も考えられなくなった。
慶の熱い身体にしがみつき、ただ喘ぐだけ。自分を抱いているのは本当に慶なのだ。
その想いが浮かび上がり、何度も胸に木霊する。
「んっ…、ああッ…ああッ……」
喘ぎ続ける俺に、慶は何度もキスしてくれた。
「気持ち…いい…、千冬ッ…」
耳のすぐ傍で慶が囁き、それを聞いた途端、俺は急激に昇りつめた。
「はッ…っぁあんッ…」
盛大に声を上げて達すると、擦られもせずに射精してしまった。
仰け反った俺の身体を片腕で抱きしめると、残った手で慶は俺の太腿を持ち上げた。
「俺も…持たないから…、いいか?このまま…我慢出来る?」
激しく動きながら言った慶に、俺は頷いて腕を回した。
「ふっ…んぅんッ…んんッ…」
達した後の余韻を激しくなぞられ、切なくてもだえる様にして声を堪える。
身体じゅうが熱くて、おかしくなりそうだった。
「も…少し…ッ」
そう言うと、ずるっと慶が俺の中から出て行った。
そして、何度か俺の下腹部で自分自身を擦ると、小さく声を上げて慶は射精した。
慶が収まると、お互いにまだ息を荒げたまま抱きしめ合った。
少し落ち着いて顔を見ると、慶は照れたような表情でクスッと笑った。
「辛くなかったか?」
訊かれて俺は首を振った。
「幸せ…」
その眼を見て俺が言うと、慶は頷いた。
「うん、俺も…」