涙の後で
-7-
寮に帰った慶は、アルバイトの仲間に頼んでシフトを交換してもらい、休日の何回かを連休にすることが出来た。
休みの前日、アルバイトが終わると、その足で店に来て、2泊して帰って行く。会えない日は、約束した通り必ず電話した。
慶は、来ると必ず俺を抱いてくれた。
だが、何度抱かれても感動して、俺はその度に泣いてしまった。
「経験豊富みたいなこと言ってたけど、信じられないくらい初心だな、千冬は…」
そう言って笑い、慶は俺を抱きしめてくれた。
「俺しか知らないみたいに思えるよ」
「何言って…」
俺が赤くなると、慶は嬉しそうに笑った。
俺が過去のことを気にしていると思って、気を遣ってくれたのかも知れないが、そんな風に思ってもらえるのは嬉しかった。
慶が居る間は、心も体もふわふわして、幸せで、何をしていても楽しかった。
でも、帰ってしまうとすぐにまた会いたくて、思い出しては切なくなる。そんな日々を過ごしていたが、慶がアルバイトを辞められることになり、2月になると引っ越せることが決まった。
やはり、クリスマスはどちらも仕事で別々に過ごすしかなかったが、23日に慶の母親から手作りのシュトーレンが届いた。
お礼の電話をすると、丁度、瑠衣子ちゃんが帰って来ていたので、俺は久し振りに声を聞くことが出来た。
最初、感動してすぐには言葉が出て来なかった。
沢山心配を掛けた彼女に、いい報告が出来ること、そして、また話が出来るのが嬉しくて、胸の中が一気に熱くなった。
「千冬さん…」
瑠衣子ちゃんも同じなのか、俺の名前を呼んだきり、暫くは黙ってしまった。
「ご、ごめん…ッ。家に帰れたんだね?良かった…」
やっと俺が言葉を発すると、瑠衣子ちゃんも今度はすぐに応えてくれた。
「うん。多分、春には本格的に退院できそう。今も、週末は帰れるようになったの」
「良かった。本当に良かった…。慶と休み合わせられたら会いに行くからね?」
「ううん…。今度は私が行くから、待ってて、千冬さん」
元気にそう言った彼女の言葉を聞き、俺はまた感動していた。
「うんッ。勿論、待ってるよ。いっぱいご馳走するから、早く来て?」
「うん、楽しみ。念願の千冬さんのカフェに行けるんだー。嬉しくて、眠れなくなっちゃいそう」
以前と違って、瑠衣子ちゃんの声も力強かった。それが嬉しくて、涙が滲んだ。
「千冬さん、おめでとうございます。私も本当に嬉しい。千冬さんがお兄ちゃんになってくれるなんて、夢みたい」
「ありがとう。瑠衣子ちゃんには一杯心配掛けたよね。本当にごめんね?」
「ううん、そんな事ないよ。会えるの、楽しみにしてるね」
もう1度約束し合って、瑠衣子ちゃんは夫人と電話を代わった。
「千冬さんのご両親にご挨拶したいって主人とも話してたのよ。ご都合はどうかしら?」
お互いの両親と、それから自分たちの都合を合わせるのは中々難しい。特に、戸田院長は仕事が忙しいので、慶の引っ越しが終わってからゆっくり会おうということになった。
母たちの都合も聞いて、改めて日にちを決めることになり、俺は電話を切った。
クリスマスも過ぎ,
年末が近づくと、ランチの客も減り、店はのんびりしたものだった。
夜も早めに店を閉める様になり、慶の居ない一人の家で時間を持て余していた。
定期便の電話で、毎日声を聞いてはいたが、やはり会いたくて堪らなかった。
指折り数えて待っていたが、大晦日の夜に、仕事を終えた足で真っ直ぐ慶が帰って来た。
鍋の用意も、年越し蕎麦の用意もしてあったが、顔を見ると俺はもう離れられなくなってしまった。
しがみ付いてキスをねだり、慶がコートを脱ぐ間も待てなかった。
「寂しかった?」
「うん…、うん…」
頷きながら夢中でキスを求める。慶はそんな俺に応えてくれた。
「暫く一緒に居られるな?嬉しいよ」
「うん…」
頷いた後で、眼を見上げると俺は言った。
「もう、して?早く抱いて?」
「また泣いてる…」
俺の涙を見て、慶はクスッと笑った。
「泣き虫。…俺だって会いたかった」
優しい声でそう言い、俺の目尻から涙を掬うと、慶は俺のズボンのファスナーを開けた。
大晦日はたっぷりと濃密な時間を過ごし、元旦は寝坊をした。
それでもお雑煮を作って二人で食べると、近所の神社へお参りに行った。
慶は三が日しか休めなかったので、俺も4日から店を開けることにした。
今月の俺の誕生日にはデートしようと約束していたので、定休日ではないが臨時休業することになっていた。
「え?プラネタリウム?」
慶に行きたい所を考えておけと言われていたので、俺はプラネタリウムに行きたいとリクエストした。
慶は少し驚いたようだったが、やがて何かを思い出したのか笑みを見せた。
「そう言えば、千冬と二人で初めて出掛けたのはプラネタリウムだったな」
「うん。あの時…、慶が手を繋いでくれたの、覚えてる?」
忘れているとは思ったが、俺は訊いてみた。
「勿論、覚えてるよ。何だか甘酸っぱいような気持がして、思わず千冬の手を握ってた。やっぱり俺、あの頃から好きだったんだな…。千冬のこと」
「ほんと?…俺、凄くドキドキして、ナレーターの話なんか何にも耳に入らなかった」
俺がそう言うと、慶はまた微笑んだ。
「じゃあ、もう1回手を繋いで星を見ようか」
「うん…」
慶が、あの時のことをちゃんと覚えていてくれて嬉しかった。そして、手を繋いだ理由もやっと聞くことが出来た。
調べると、1番近くのプラネタリウムは、電車で30分ほどの所にあると分かり、当日は午後から出掛けて、夜は近くのレストランを予約することにした。
楽しかったお正月もあっという間に終わり、慶は寮へ戻り、俺も店を開けた。
後はもう、俺の誕生日まで会えない。
寂しかったが、誕生日の後は、すぐに慶の引っ越しだった。
そしたら、ずっと一緒に居られる。そう思うと、暫しの別れも我慢出来た。
俺の誕生日、慶とプラネタリウムで手を繋ぎ、並んで星を見て、暗闇に紛れてキスをした。
なんだか、まるで高校生だった頃に戻ったような気がして、あの時のドキドキが蘇った。
「指輪…、贈りたいんだけど、まだ金が無くて。もう少し、待っててくれるか?」
予約していたレストランで乾杯した後で、慶が突然そう言い、俺は驚いて眼を見張った。
「ゆ、指輪、くれるの?」
「要らない?まあ、何時になるか分からないけど、俺は買いたいんだ」
「ほ、欲しいよっ」
俺が答えると、慶は嬉しそうな顔をした。
「良かった。まあ、本当に何時になるか分からないけどな」
「いいよ。高い物じゃなくていいんだ。どんな安物だって、ううん、おもちゃだっていい。慶がくれるんなら、俺はなんだっていい。嬉しいよ」
胸を熱くしながら、俺は一気にそう言った。
「うん。でも、ちゃんとしたの贈りたいから…。今日のプレゼントはこれで我慢してくれ」
そう言って、慶はバッグからラッピングされた箱を取り出した。
開けると、それはマグカップだった。
新しいのをプレゼントすると言ってくれたのを覚えていたのだろう。北欧風の可愛いカップだった。
「実は俺のも色違いで買ったんだ。引っ越しの時に持って来るよ」
「うん…」
約束を忘れていなかったことも、そして、カップをお揃いて買ってくれたことも本当に嬉しかった。
慶と二人きりで過ごした、今年の誕生日を、俺は決して忘れないだろう。
楽しい誕生日デートも終わり、1月の末になると、慶の荷物が届いた。
荷物の殆どが本で、後は衣類などが少しある程度だった。
だが、その本が俺の本棚にはとても入りきれない。それを収納する為に、新しく大型の本棚を買って、使っていない6畳間へ設置してもらった。
整理は慶が越して来てから好きなように並べるだろうと思って、俺は手を出さなかった。
左手が不自由なので、荷物を運ぶのも難しい。慶の大量の本は、箱に入ったまま運送屋によって玄関に積み上げられた。
2月になり、慶は少し大き目のバッグひとつと、パソコンバッグだけを持って越して来た。
休まなくていいというので、俺は店を開けていたが、ランチのお客が引くと、すぐに閉めて母屋へ戻った。
やっと、慶が越して来たのに、離れてなどいられない。店の片付けもそこそこに俺が戻ると、慶は他の荷物には手を付けず、玄関から本を運び、本棚に並べていた。
手伝おうとすると、自分一人でゆっくりやるからいいと言われ、俺は居間へ戻るとお茶を淹れた。
慶も、すぐに来て座卓の前に居た俺の隣へ座った。
そして、俺の腰を両腕で抱くようにすると、額を俺の額に押し付けた。
「やっと、一緒だな」
「うん…。嬉しい」
「明日から店に出るよ」
「そんな、慌てなくていいよ。荷物の整理もあるし」
「いや、荷物なんて大したもの無いし、毎日少しずつやってもすぐに片付くから。早く店に慣れて、千冬の役に立ちたい」
「ありがと…」
会話しながらも、俺は早くキスして欲しくて堪らなかった。
だが、いつもいつも、がっついている自分が恥ずかしくて、話を続けた。
「小説の方は?進んでる?」
色々と慌ただしくて書いている暇がないのではないかと、1番気になっていたことを俺は訊いてみた。
「ああ。この前、雑誌の新人賞に応募してみたんだ。まだ、結果は出ないけど」
「ほんと?いつ分かるの?」
「多分、来月…」
言いながら、慶の手が俺のセーターの下に入り込んで来た。
「慶…」
「夜まで待てないんだけど」
「うん…」
頷くと、俺はすぐに慶の首に腕を回して唇を押し付けた。
待ち遠しかったのは俺だけじゃなかった。それを知って、嬉しくて堪らなかった。
「ベッド行く?」
キスの合間に慶が言い、俺は頷いた。
寝室は暖房を付けていなかったので寒かった。
すぐにエアコンを付けたが、俺たちは服を着たままで布団の中に潜り込んだ。
温まるまで抱き合い、キスをして、また抱き合った。
慶の手が服の下から滑り込んできて、胸を弄り始めると、俺の身体は忽ち熱を持った。
「もう、脱がせて平気?」
訊かれて、すぐに頷くと、慶が起き上がって、俺の下半身を裸にした。
もうすっかり立ち上がっている性器を見られるのは恥ずかしかったが、それよりも、これから与えられるものへの期待感で胸がいっぱいだった。
慶がまたキスをしてから俺を見下ろした。
その顔が随分興奮しているのが分かった。
「ごめん、俺…、もう、ちょっとヤバい…」
辛そうに眼を閉じた慶の頬を、俺は手を伸ばして撫でた。
「うん、大丈夫。すぐ挿れて…」
俺が言うと、慶はヘッドボードからジェルのチューブを出した。
それを、俺のアナルと自分自身に塗り付けると、俺の身体を横に倒してすぐに挿入を始めた。
「ごめ…、千冬っ。少し我慢して…」
「へ…きだから…っ」
痛い筈なのに、感じなかった。
慶と同様、俺も酷い興奮状態で、抉られることが快感でしかなかった。
「痛く…ない…?」
激しく俺の中を擦りながら慶が言った。
俺は、喘ぎながら首を振った。
「い…いッ…慶ッ…いいッ…あっ…」
慶の手がキュッと乳首を摘まみ、同時に項にキスをした。
「ふぁぁッ…」
その途端、急に電気が走ったようになり俺は射精してしまった。
(う、嘘…)
恥かしくて体中が燃えるようになったが、慶の律動は止まらなかった。
「ぅく…ん…、あ…んッ…あ…」
また喘ぐ俺の耳に慶が言った。
「駄目だ、1回出す…」
言葉の後に、ブルッと慶が震えた。
そして、気持ちよさそうに放心すると、俺の中で射精した。
大きく息を吐き、俺の肩を軽く噛むと、慶は俺の中から出て行った。
だが、すぐにゴムを付け替えると、今度は俺を仰向けにして脚を開かせた。
「今度はゆっくりするから」
そう言った慶の、ゾクゾクするほど雄臭い顔を見上げて、俺は何度も頷いた。