涙の後で
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写真部の部室の手前に何人かの生徒が談笑していた。
廊下や階段の踊り場でも立ち話をしたりふざけ合っている生徒もいたので、俺は気にも留めずに、習慣的に頭を軽く下げながらそこを通り過ぎようとした。
すると、その中の一人に突然腕を掴まれ、俺はハッとして顔を上げた。
だが、声を出そうとした時には、もう後ろに居たひとりに口を押さえられていた。
サーッと体中の血が引くのが分かった。
恐怖に目を見開いた俺を3人掛りで押さえつけると、目の前のドアが開いて中に連れ込まれた。
その部屋は以前、文化部のひとつが使っていたが今は空き室だった。半分物置のようになっていたが、前以て用意してあったらしく、床の空きスペースに寮から持ち出したらしいシーツが敷かれていた。
それを見た途端、俺は益々怖くなった。
彼等の目的が何なのか見当がついたからだ。
(い、嫌だッ)
叫んだつもりだったが、口を塞がれていた為にくぐもった呻き声にしかならなかった。
口にテープを貼られて初めて気がついたが、俺を連れ込んだ3人以外にも中に1人待機していた。
そして、その1人が小声で言った。
「早くしろっ」
その言葉に頷き合い、抑えていた3人が強引に俺をシーツの上に跪かせた。そして、腕を後ろに捻り上げると両腕を一緒にしてテープをぐるぐる巻いた。
必死で暴れたが、多勢に無勢でどうにもならなかった。
俺はとうとう、シーツの上に仰向けに寝かされてしまった。
(助けてッ、誰か助けてッ…)
叫んだ声は、やはり言葉にはならなかった。
すぐ隣は写真部の部室で、絶対に誰かが居る筈なのに俺の声は届かない。
絶望に目を瞑ると、数本の手が俺の服を剥ぎ取り始めた。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ…ッ)
怖くて堪らなかった。
無理やり挿入された時の、あの身体を裂かれるような痛みが蘇る。
だが、俺の心中など彼等が知る訳が無い。俺に抱いているのは欲望だけなのだ。
「すげ、真っ白…」
「写真で見たのより、ずっと綺麗だな」
口々そんなことを言い、彼等は俺の身体を無遠慮に弄った。
恐怖で勃起した乳首を乱暴に摘まれ、痛くて涙が滲んだ。
指で弄ぶだけでは足りなかったのか、ひとりが顔を近づけて身体を舐め始めた。
気持ちが悪くて怖気が襲う。だが、大勢で押さえられ床に縫い付けられたようになっていた俺の身体は逃げることが出来なかった。
「おい、のんびりしてる暇ねえぞ」
誰かがそう言うのが聞こえ、その途端に俺はうつ伏せにさせられた。
「うぐぅッ」
何とか抵抗しようとしたが、やはりどうにもならない。無理やり腰を上げさせられて俺は、恥辱に身を震わせるしかなかった。
「うわ、すげえスベスベ……。ホントに男の尻かよ、これ…」
撫で回されて泣きたくなる。だがすぐに、尾てい骨辺りに液体を注がれたのを感じ、恐怖で身体が硬くなった。
「さっさと解せよ。誰かが来たらヤバイ」
「おう」
返事の後に、ぬるぬると液体の付いた指が触ってくるのが分かった。
勿論、相手は遠慮なんかしない。
滑りに任せて、指はすぐに中に入り込んできた。
「ぐぅぅ…」
“止めろ”と叫んだが、勿論相手には届かなかった。
悔しくて、恥ずかしくて、そして情けなくて、涙が出た。
みんなが心配してくれたのに、結局俺は、自分の不注意でこんな事態を招いたのだ。だから、これは多分、罰なのだと思った。
乱暴に出し入れされる指が痛いだけではなく、不快で吐き気がした。
ここにいる全員が俺を犯すのだともう分かっていたが、以前、真藤先輩が来てくれた時のように、また誰かが助けてくれるのを、俺は心の何処かで期待していたのかも知れない。
「うぐっ…うぅうっ…」
その場所を、ぐりぐりと広げられるのが分かる。
それでも俺には何も出来ない。
ただ、されるままに、恥ずかしい格好で彼等の目に晒されているしかなかった。
「おい、まだか?」
一人が苛々とした調子で言うのが聞こえた。
「待ってろよ。もうちょい…」
悔しさと痛みで眩暈がしそうだった。
すると、待てなくなったのか、誰かが俺の身体を弄っていた奴を押し退けるのが分かった。
「もう、いいって。退けよ」
言うなりそいつは俺の身体を仰向けに転がした。
見上げると、3年の生徒だと分かった。だが、名前もクラスも知らない相手だった。
「そんなに泣くなって。どうせ、何人もの男とヤッてんだろ?」
言いながらニヤニヤ笑い、そいつは俺の腿に手を掛けて脚を広げようとした。
腹が立って仕方なかった俺は、相手が油断している隙に両足を持ち上げると、思い切り腹を蹴った。
「ぐぇッ」
苦しげに呻くと同時に、相手は後ろに飛ばされて壁にぶつかった。
ドシン、と音がしてそこにいた全員が動きを止めた。
だが、俺がもがき始めると慌ててまた俺の手足を押さえる手に力を込めた。
「馬鹿やろっ。何やってんだよ?さっさとヤれって」
「お、おう」
蹴られた奴が起き上がって来て、また俺の身体に手を掛けようとした。
その時、ドアに軽くノックの音が聞こえた。
「誰か居るんですか?」
ドアの向こうで誰かがそう訊いた。
その途端、全員がサッと立ち上がり、一斉に窓へ向かって走った。
その速さと言ったら、驚くほどだった。
「誰か居ます?」
声と同時に、ドアが開いて誰かが入って来た。
その時には、最後の一人が窓から飛び出して行く所だった。
俺は入って来た相手に見られたくなくて急いで身体を丸めた。だが勿論、すぐに見つかってしまい、その人が息を飲んで傍に走り寄って来るのが分かった。
「先輩ッ」
叫ぶ声に目を上げると、入って来たのは有川だと分かった。
全身から血の気が引くのが分かった。
恥ずかしくて、消えてしまいたかった。
「酷い…」
呆然とした様子で有川は呟いた。
そして、恐る恐る俺の身体に手を掛けると、傷を確かめようとした。
体中に噛まれた痕や吸われた痕がある身体を、俺は見られたくなかった。
だが、隠したくてもどうにも出来ない。俺は有川に全てを見られてしまった。
「先輩…、可哀想に……」
だが、そう言った後で有川が唾を飲み込むのが分かった。
ギクリとして、俺は思わず彼を見上げた。
すると、高潮した顔で明らかに有川が興奮しているのが分かった。
(う、嘘ッ)
心臓が痛いほど早く動き出した。
「まさか、ここに…?」
言いながら、有川の手が尻の膨らみに触れた。
俺は“違う”と言う代わりに激しく首を振った。
「良かった……」
だが、安心したような言葉を言いながら、有川の声は妙に掠れていた。
戒められた腕を、中々解いてくれようとしない有川が、俺は段々怖くなってきた。
噛まれて赤くなっていた乳首を指が掠めていく。身体を硬くして見上げると、有川は俺の目を見てギュッと唇を結んだ。
「済みません、先輩ッ…」
(嫌だッ……)
叫んだが、また声はくぐもった不明瞭な呻きにしかならなかった。
俺の両脚をグイッと押さえつけて体重を掛けると、有川は片手で性急にズボンのベルトを外した。
そして、暴れようとする俺を凄い力で抑えたまま、勃起した自分自身を俺の後ろへ宛がった。
(駄目だッ。有川っ…、駄目だよッ)
犯されるという恐怖より、このことでまた有川が傷つくのではないかと思うと、俺はそれが怖かった。
以前にも、俺を抱いたことで小金井先輩が酷く傷ついた。
そのことが蘇って、俺は何とか有川を思い留まらせようと必死にもがいた。
(駄目ッ……)
だが、抵抗も虚しく、有川は俺の中に入って来た。
あいつらが無理やりにでも解した所為で、俺の身体は初めての時ほどの痛みを感じなかった。それに、塗りつけていった潤滑剤も有川の挿入を助けてしまった。
「うぅぅ…」
だが、痛みが無い訳ではない。それに、酷い圧迫感に俺は思わず呻いていた。
「はぁ……っ。凄い…きつい……ッ」
言いながら、それでも有川はぐいぐいと俺の中を進んできた。
そして、満足するところまで入り込むと、一旦動きを止めて俺を見下ろした。
「痛いですか?」
訊かれて俺が頷くと、有川は手を伸ばして俺の口からテープを剥がした。
「お願い……抜いて…。苦しいよ、有川…ッ」
「もう、無理だ……。我慢して?」
「いやッ…」
俺が首を振ると、有川は屈みこんで俺の唇にキスをした。
熱くて激しいキス。
いつでも紳士的だった有川にこんなキスをされるなんて思いもしなかった。
呻くことしかできない俺の口中を弄るように舐め、舌を吸い上げる。
眩暈がして、抵抗する気力が急速に萎えていった。
脚を開かされ、更に有川が身体を押し付けてきた。
そのまま、中心を強く突かれ俺は息を止めた。
ちゅ、ちゅ、と有川が突く度に音が聞こえ、腹の中が掻き回されるのが分かった。
苦しくて、そして情けなくて、目を開けていられなかった。
有川の息がどんどん荒くなるのが分かり、俺は早くこの行為が終わってくれることだけを考えていた。
だが、股間のものを掴まれ、俺はビクッとして目を開けた。
「な……?い、いやっ」
「先輩も感じて?頼むから……」
「あ、有川…。止めろよ…ッ」
だが、有川は利かなかった。
俺の中を突き続けながら、同時に俺自身を擦り上げる。
抵抗していた俺も、やがて快感を覚え始めた。
「ふっ……、ぅくっん……」
我慢出来ずに俺の声が漏れ始めると、有川は益々興奮したようだった。
「ああ……、やっぱり凄い……凄く可愛い、先輩……ッ」
有川の硬く張り詰めたものに、無理やりに広げられ擦られていた痛みもやがて薄らぎ、気持ちいいとまではいかなくても、俺の身体にも緩い快感が訪れていた。
激しくなった有川の動きと共に、変化していく身体に気持ちがついていけなくて、酷く怖くなった。
だが、有川の手に与えられた刺激は俺を無理やりに高みへと押し上げていた。
「あくッ……ッあっ……」
情けなかったが、我慢出来なかった。
俺は小さく声を上げながら震えると、自分の腹の上に射精した。
それを見て有川は掴んでいた手を離すと、その代わりに両手で俺の太腿を持ち上げ、今度は自分の快感を追い求めることに集中した。
「気持ちいい…。先輩の中ッ…」
俺は、そう言って目を瞑った有川の顔を下から見た。
眉根に刻まれた皺。時折快感に声を漏らす高潮した顔が艶っぽかった。
俺の身体で感じているのだ。
そう思うと、不思議なもので急に愛しくなった。
そして、目を少し落とすと、汚れた腹の向こうで自分の中に出入りする有川自身がはっきりと見えた。
初めての時は痛みで気が遠くなりそうで、小金井先輩の息遣いと掴んでいたシャツの感触しか分からなかった。
だが、今度のこれは俺にとって、はっきりとした確かなセックスだった。
手淫されていたとは言え、確かに感じ、そして有川を受け入れたままで達したのだ。
(なんていやらしい身体だろう。あんなに咥えて…)
厭らしい濡れた音を立てて、ずるりと一物を簡単に飲み込んでいく、そんな自分の身体が不思議で、そしてどうしようもなく淫らに思えた。
(恥ずかしい身体……)
自分の身体はこんなにも容易く男を受け入れ、そして感じるのだと知らされた。それが、堪らなく恥ずかしいと感じていた。
「はぁ…っ。いくッ……」
小さな声でそう言うと、有川は何度か強く俺の身体を突いた後で動きを止めた。
自分の中に吐精されたのが分かったが、俺は動かなかった。
ゆっくりとまた有川が何度か動き、そしてゆっくりと俺の中から出て行った。
そして、ハーッと大きく息を吐くと、やっと有川は俺を見下ろした。
「済みません……」
低い声でそう言うと、躊躇いがちに俺の方へ屈み込み、有川はまた俺にキスを落とした。
「好きです。好きだッ」
辛そうにそう言うと、有川は何度も何度もキスをした。