手紙
-12-
“可愛い”
確かに堀尾もこの前、自分のことをそう言った。
あれは、子供っぽいという意味ではなかったのだろうか。今、新田が言ったように美醜を含む意味があったのだろうか。
だが、だとしても、あくまでも自分は男で女の子ではないのだ。
「俺、こんなだけど、男ですよ?そんなことある訳ないです」
「そうかなぁ…」
目を上げると、新田は弄ぶようにしてジュースの入れ物をくるくると回していた。
「俺はあると思うけどな、沢口なら…」
「え…?」
聞き返すと、新田は目を上げて歩を見た。
「俺も……、好きだけどな…」
「キャプテン…?」
その意味がすぐには理解出来ず、歩は呆然と新田の顔を見た。
「なんて…、告っても無理だろうな……」
また苦笑し、新田はジュースの入れ物を取ってストローを口に運んだ。
そして、一口飲むと、諦めたような口調で言った。
「沢口だって男だもんな。そんなこと言われたって困るよな?ごめん…」
「俺……」
自分が同性から、しかも新田からこんな告白を受けるとは思ってもいなかった。
自分の異常さに困惑し、悩み抜いていただけに、この意外な告白が却って気持ちを楽にしてくれたような気がする。
そして、同性だということに臆することなく告白した新田が羨ましくもあった。
「俺…、嬉しいです、俺…」
「ほんとか?」
信じられないと言いたげな口調で新田は聞き返した。
「はい。だって、ホントにキャプテンは俺の憧れだし…。そんな風に言ってもらえたら、嬉しいです」
「けど、俺の“好き”は沢口が思ってるのとは違うぞ?」
「分かってます…」
そうだ。新田が言っているのは、自分が壮士に抱いている感情と同じなのだと思う。
だからこそ、それを拒絶することが歩には出来なかったのだ。
新田を自分と置き換えた時、壮士に拒絶されることを考えると辛くなるからだ。
壮士にも、自分を受け入れてもらいたいと願っているからだった。
「なら、期待してもいいか?」
そう訊かれて、歩は返事に困った。
拒絶することは出来ない。
だが、だからと言って新田を欲している訳ではない。欲しいのは、壮士の心だけだった。
答えられずにいると、新田はふっと笑った。
「いいよ、すぐじゃなくて…」
顔を上げると、新田は穏やかに笑っていた。
「俺、案外気が長い方だし、待ってるからゆっくり考えてくれ。な?」
新田は優しい。
歩はそう思った。
彼と付き合ったら、もっと自分は楽になれるのだろうか。
「はい…」
コクッと頷くと、新田も笑いながら頷いた。
壮士へ
今日、またキャプテンが誘ってくれて、一緒に帰ったんだ。
この前断ったから、また誘ってくれるなんて思わなかった。
ビックリしたけど、嬉しかったよ。
ハンバーガー食べて、それから、色々話もした。
バスケの話もしたし、あと、キャプテンのお姉さんの話も聞かせてもらった。
キャプテンのお姉さんは双子なんだって。
勿論、キャプテンに比べたら2人とも身体は凄く小さいのに、キャプテンはお姉さんたちに頭が上がらないみたいなんだ。ホントに、凄く面白いんだよ。
あと、それから…
凄くビックリしたけど……
ううん。
やっぱり、この話はナイショ。
だけど俺、ちょっと嬉しかった。
なんか、ほっとしたんだ。
何のことか分からないよな?ごめん。
でも、今はまだ言えない。
ううん。
一生、言えないのかな…。
歩
翌日、朝練に行くと堀尾はもう来ていた。
「おはよう」
体育館で待っていた彼に歩は挨拶をしたが、堀尾の方はちょっと頷いただけで、すぐに持っていたボールをゴールへ向けて放った。
なんだか様子がおかしいと思ったが、歩は自分もボールを持つと堀尾の居る方へ近づいて行った。
だが、いつもなら人懐っこい笑みを見せてくれる堀尾が、今日は歩の方を見ようともしなかった。
「ホリ?」
怪訝そうに見上げると、堀尾はフッと溜め息をついてやっと歩を見た。
「昨日、キャプテンと一緒に帰ったんだってな?」
「あ、うん。ごめんな?待ってなくて…」
「そんなんは、いいけどな…」
「じゃあ、何で怒ってるんだ?」
「別に、怒ってねえよ」
だが、明らかに堀尾は機嫌が悪そうだった。
「嘘だ。怒ってるじゃん…。この前言われたのに、キャプテンの誘いを受けたから?でも俺、別に嫌がらせされんのなんか平気だし…。それに、キャプテンが折角また誘ってくれたのに、断るなんて出来なかったし…」
歩の言い訳を、堀尾は不機嫌な顔で聞いていたが、言い終わると腹立たしげに口を開いた。
「おまえ、何も分かってねえな?大体キャプテンが、なんで1年を個人的になんて誘うんだよ?下心があるに決まってんだろ?」
「下心…?」
「そうだよっ。キャプテンはおまえを狙ってんだッ。それぐらい、気付けよなッ」
「ホリ…。俺、女じゃないよ?」
歩の言葉に、堀尾はカッとして顔を赤らめた。
「そんなん、分かってるよッ」
「じゃあ、何でそんな風に思うんだ?」
「そ、それはッ……」
口籠った堀尾を、歩は驚いて見つめた。
昨日、新田が言ったことが本当なのだと分かったからだ。
堀尾も、自分をそういう対象として見ていたのだ。
「ホリ…、今まで優しくしてくれたのって、そういうことなの?」
すると、堀尾はちょっとムッとしたような顔になった。
「俺は別に、何か下心があって朝練に付き合ったりしてた訳じゃねえから。そりゃ、アユのこと好きだけど……。だけど、だからって、アユにつけ込もうとか、そんなこと思って傍にいた訳じゃねえからな?それだけは信じてくれよな?」
「うん分かった。信じるよ、ホリ…」
「アユ…」
素直に頷いた歩を見て、堀尾は表情を緩めた。
そして、今度は少し緊張気味の表情を浮かべた。
「けど、俺がアユを好きなのはホントなんだ。今まで、中々言い出せなかったけど……」
「ホリ…」
「キャプテンに何か言われたのか?まさか、告られたとか?」
心配そうな堀尾を見て、歩の胸が痛んだ。
正直に言うべきかどうか迷ったが、やはり隠しておくのは卑怯な気がして歩は頷いた。
「うん…。付き合って欲しいって言われた」
「それで?答えたのか?」
「ううん。まだ……」
歩が首を振ると、堀尾は泣き出しそうな表情を浮かべた。
「アユッ」
「あッ…」
急に抱き寄せられて歩は思わず声を上げた。
ギュッと、堀尾の腕が痛いほど歩の身体を抱きしめた。
「駄目だからなッ?嫌だっ…、俺、嫌だからッ」
「ホリ…」
「歩が俺と付き合えないって言っても仕方ないと思ってる。だけど…、他の男と付き合うのは駄目だッ。絶対に嫌だッ。嫌だよ……」
最後の切なげな声が歩の心に響いた。
自分だって、壮士が理沙と付き合っていることが辛くて堪らなかった。
例え自分のものにならなくても、他の誰かのものになってしまうことがどれほど辛いか、誰よりも良く分かっていた。
「俺……、どうしていいか、分かんないよ…」
正直な気持ちを歩は口にした。
綺麗ごとだと言われるかも知れない。
だが、誰の気持ちも傷つけたくは無かった。自分の抱えているような思いを、誰かにさせるのは辛いと思ったからだろう。
だが、だからと言って、2人の思いを受け止めることも出来ない。
本当に、歩はどうしていいのか分からなかった。
壮士へ
人が人を好きになるのって、凄く簡単なことなのかな。
だけど、好きになってもらうのは、凄く難しいよね。
本当に好きになってもらいたい人の心は、手に入れられない。
どんなに欲しくたって、奪ったり出来ない。
誰も傷つけたくないけど、その方法も分からない。
自分だって傷つくのは嫌だけど、その方法も分からない。
俺には、分からないことだらけだよ。
やっぱり、子供なのかな、俺。
壮士には分かるのかな?
なんだか、壮士はきっと分かっているような気がする。
って、この手紙自体、訳が分からないね。
いっつも、こんなんでごめん。
歩