手紙
-16-
これでいいのだ。
新田ならきっと、自分の心を痛めつけるようなことはしないだろう。
新田と居れば、苦しむことなど無いのだ。
辛い思いをすることなど無くなるのだ。
軽いキスの後、新田の手が歩のシャツを脱がせた。
貧弱な子供っぽい身体を見られるのが恥ずかしくて歩は顔を真っ赤にして俯いた。
「下も、いいか?」
脱がせようと新田の手がジーパンのボタンに掛かると、歩の身体がビクッと震えた。
「嫌か?」
「いいえ…」
歩は首を振って、自分からジーパンを脱いだ。
下着1枚になると、新田がその身体を抱きしめてベッドの上に横たえた。
初めて、他人の手が身体に触れる。
正直、歩は怖かった。
肩を掴んだ新田の大きな手はとても熱かった。
その熱が、鎖骨を通って胸に降りる。
「ふ…」
ゆっくりと撫でられて、歩は顔を逸らして目を瞑った。
恥ずかしさに顔が熱くなる。
勃起したのか、ただくすぐったかっただけの乳首が、弄られる内にじれったいような快感を齎し始めた。
直接触られている訳でもないのに、股間がウズウズと疼く。
新田の手が下着に掛かり、歩はハッとして目を開けた。
「あのッ…」
起き上がった歩を見て新田が言った。
「嫌か?」
「そうじゃなくて、あの…」
訊かれて歩は口籠った。
もしかすると、勃たないかも知れない。この前の自慰の時を思い出して歩は躊躇った。
「あの、俺、駄目かも知れなくて…。なんか、身体がおかしいっていうか、反応が鈍いって言うか…」
消え入りそうな声で歩が言うと、安心させるように新田の腕がその身体を抱き寄せた。
「触られるのが嫌じゃないんなら続けさせてくれ。いいか…?」
「はい…」
歩が頷くと、新田はまた彼を抱きかかえるようにして横たえた。
どうしても、必要以上に緊張してしまう。
歩は目を閉じたまま、早まっていく鼓動を感じながら待った。
そして、すぐに股間に新田の手が触れた。
途端に、ピクン、と歩の身体が震えた。
「自分でもあんまりしないのか?綺麗な色だな…」
呟くように言われ、歩の全身がカッと赤くなった。
そして、チュッ、と音がして明らかに手とは違う感触が伝わった。
「うそッ…」
カーッと、顔に血が上るのが分かり、歩は両手で顔を覆った。
その暖かさと滑りで、そこが新田の口中に含まれたのが分かった。
「いや…」
殆ど聞こえないほどの小さな声で歩は言った。
余りの恥ずかしさと衝撃で、痛いほどに体中が脈打つ。歩は両腕を交差させるようにして顔の上で組んだ。
感じないかも知れないと懸念していた歩だったが、新田の愛撫が始まるとすぐにそれは取り越し苦労だったと分かった。
手とは違う初めての感触。
他人にされているのだということで異常に興奮していることもあっただろう。歩はすぐに、そこに血が集まってくるのを感じた。
「大丈夫、ちゃんと反応してる…」
一旦口を離し、新田がそう言うのが聞こえた。
だがそれは、言われなくても歩自身がちゃんと感じていることだった。
「んくっ……んっ…」
自分でする時には出て来ない、甘い喘ぎ声が唇から迸りそうになる。
それを、歩は自分の手首を噛むようにして堪えた。
丹念に舌に辿られ、何度も吸い上げられて、歩はすぐに達してしまった。
新田の口の中に出してしまったのかと思うと、歩は恥ずかしさにまた両手で顔を覆った。
すると、温かい滑りが、今度は別の部分に訪れた。
「あッ…」
ビクッとして歩は思わず顔から手を離した。
腰が持ち上げられ、その部分が濡らされるのを感じた。
ぬるん、ぬるんと、入り口に何かが塗りつけられる。そして、新田の指が入り口をこじ開けようとしてめり込んで来た。
「あぅっ…」
思わず力を入れてしまい、歩は余計な痛みを感じて呻いた。
すると、すぐに新田の動きが止まった。
「力、抜けるか?」
優しく聞かれて、歩は頷いた。
なんとか強張った身体から力を抜くと、新田の指が浸入を始めた。
(いやッ…)
思わず首を振りそうになり、歩は必死で堪えた。
痛みと異物感に、また恐怖が蘇った。
(いやっ…、いやっ、嫌だっ…)
こんな所を弄られるのも、そして、ここを犯されるのも嫌だと思った。
セックスなんかしたくない。
壮士以外とは。
だが、歩は言わなかった。
黙って新田の行為に耐え、ギュッと目を瞑ったまま、ただ枕を掴んでいた。
「痛いか?」
訊かれても、歩は首を振った。
「平気です…」
すると、両方の太腿を新田が掴んだ。
そして、腰が更に持ち上げられた。
「くっ…」
恐ろしいほど、硬くて大きな塊が、そこに押し当てられる。
そしてゆっくりと、それが歩の身体を犯し始めた。
(いやぁッ…)
心の中で、歩の悲鳴が上がった。
(いやだっ、いやだっッ…。壮士ッ、壮士……)
余りの痛みに気が遠くなる。
だが、その痛みでまた、フッと意識が戻された。
(壮士、助けて…?痛いよ…、痛いッ…)
「アユ?歩?大丈夫か?無理なら止める…」
だが、新田の声に歩は首を振った。
「平気です…続けて…」
いっそ、壊して下さい。
心の中でそう言って、歩は新田にしがみついた。
気が付くと、温かいタオルが身体の上を滑っていった。
「キャプテン……?」
「気が付いたか?大丈夫か?」
歩の身体をタオルで拭っていた手を止めると、新田は上から顔を覗き込んだ。
「はい…」
歩が返事をすると、新田はゆっくりと髪を撫でた。
「痛かったろ?悪かったな…」
「いいえ…。大丈夫です」
答えると、新田は頷いたが心配そうな表情は変わらなかった。
歩の身体から汗と汚れを拭き取ると、新田は脱がせた下着と服を歩に着せた。
「済みません…」
「起きれるか?」
「はい…」
歩を抱き起こすと新田はその身体を抱きしめた。
「ほんとに、嫌じゃなかったか…?」
歩は新田の身体に腕を回すと頷いた。
「はい…」
「なら……」
ギュッと新田の腕に力が篭った。
その後に言葉は無かった。
だが、新田が何を言いたかったのか歩には分かった。
「キャプテン…」
自分をすっぽりと隠してしまう新田の大きな身体に、歩は身体を預けて目を瞑った。
(キャプテンが好きです…)
だが、そう思えば思うほど、心の中で重たい何かが膨らんでいくのだった。
翌朝、約束した通り10時に堀尾が迎えに来た。
本当は、今日の約束をキャンセルしようかと、歩は30分前まで悩んでいた。
何故なら、昨日の新田との行為による疲労から身体がまだ回復してはいなかったからだ。
歩くのも、本当は少し辛いくらいだった。
だが、自分と新田が近づくことを良く思っていない堀尾に、昨日のことを気付かれるのが嫌で、歩は何も言わなかった。
「アユ、なんか、顔色悪くねえ?」
玄関に現れた歩を見て、堀尾は眉を顰めた。
「そう?そんなこと無いよ。行こう?」
何でもない振りをして、歩は靴を履くと堀尾を促した。
市民プールまではバスで5つ目だった。
この時間では、もうかなりの人出だろう。座る場所があるかどうか懸念しながら、2人は冷房の余り効いていないバスに乗った。
「早く、水に入りてえなぁ」
堀尾の言葉に歩も頷いた。
「うん、ホント」
市民プールに着いて窓口でチケットを買うと、真っ直ぐにロッカールームへ行った。
もう3分の2ほどのロッカーが使用中になっていたが、2人は隣り合った場所を見つけてそこへ荷物を入れた。
服の下に水着を穿いてきていたので、すぐに服を脱いで、それもロッカーの中へ入れた。
先に支度を終え、歩の支度が終わるのを待っていた堀尾だったが、ふと何かに気付くとグッと歩の腕を掴んだ。
「なに?」
驚いて歩が見上げると、堀尾は険しい顔をして歩の鎖骨の辺りに手をやった。
「なんだ?これ…。まさか、キスマークじゃ…」
ハッとして、歩はその場所を押さえた。
気付かなかったが、新田が肌を吸った痕が身体の上に数箇所残っていたのだ。
「アユッ…」
顔を背けた歩の腕を、新田がギュッと掴んだ。
「キャプテンかッ?おまえ、やっぱり昨日、キャプテンと会ってたんだろッ」
…」
言い訳しようと顔を上げた歩の目に、カッと燃え上がるような堀尾の視線が飛び込んできた