手紙
-30-
その夜、寝不足もあって、歩は早くに眠りに付いた。
だが、真夜中頃、ふと、おかしな気配を感じて眼が覚めた。
(え…?なに……?)
すぐに背後に誰かが居るのを感じた。
ピッタリと熱い身体が背中にくっ付いている。
そして、項の辺りで激しい息遣いがした。
(壮士…?)
そう思った時、片手が後ろから歩の腰を掴んだ。
(えッ…?)
クッと、歩の身体に力が入って硬くなる。
それに気づかないのか、壮士の手は歩の腰骨の辺りを撫で始めた。
「アユ…、アユ…」
もう、壮士が何をしているのか歩にも分かった。
途端に、カーッと、体中が熱くなる。
すると、壮士の額が項に押し付けられた。
「アユッ…」
眠っていると信じ切って、壮士は歩の身体を撫でながら自慰を続けた。
腰の辺りでもう一方の壮士の手が激しく動いているのが分かる。
熱く荒い息が背骨に当たり、歩の身体からもジワジワと汗が噴出してきた。
「う…っ」
低い声と共に、歩の腰骨の上にあった壮士の手にギュッと力が入った。
そしてその後、壮士の身体から力が抜けたのが、背中に押し付けられていた額から伝わった。
「ごめん、アユ…」
切なげな、まるで泣きそうな声だった。
その声に、言葉に、歩の胸が詰まった。
グッと、押し上がって来そうになる嗚咽を必死で堪え、歩は壮士に気付かれないように静かに泣いた。
やがて、ノロノロと起き上がると、壮士は部屋を出て行った。
「壮士ッ、ごめんね?」
苦しげに呟き、歩はギュッと枕に顔を押し付けた。
自分さえ受け入れられれば、壮士にあんな思いをさせることも無いのだ。
壮士は自分を欲しがってくれている。自分だって、本当は壮士のものになりたいと、こんなにも願っているのだ。
それなのに、何故それが叶わないのだろうか。
もう、明日1日しかない。
歩はそう思った。
明日の内に、壮士と本当の意味で深く繋がり合いたい。そうでなければ、向こうで彼を待つ彼女に、自分は勝てないような気がしてならなかった。
翌朝も、壮士と歩の顔は冴えなかった。
歩は朝まで眠れなかったし、壮士もまた、戻って来て布団の上に横になっても、何度も寝返りを打って寝つけない様子だった。
午前中はなんとなく部屋でゴロゴロしたり、テレビを見たりして過ごし、歩は少し夏休みの宿題を片付けた。
午後になると、母親が買い物に出ると言った。
「佳ちゃん達のお土産とか、近所の方へのお土産とか買いに行くの。あなたたちも暇だったら一緒に来る?」
車で、少し遠くにあるショッピングモールまで出掛けるらしかったが、歩は首を振った。
「俺は、まだ調子が良く無いから留守番してるよ」
「じゃあ、俺も…」
壮士もそう言い、母親は頷くと独りで出掛けて行った。
「壮士…」
ソファで、歩の本棚から持ち出した小説を読んでいた壮士の隣に座り、歩は躊躇いがちにその身体に腕を回して胸に頬を押し付けた。
すると、すぐに壮士が持っていた本を脇に置いた。
「アユ…」
頬を包まれ、顔を掬い上げられて歩は目を閉じた。
だが、また身体が小刻みに震える。
チュッと、ごく軽く、壮士の唇が触れてすぐに離された。
「いいよ、アユ。言ったろ?無理しなくていいから…」
だが、歩は震えながらも激しく首を振った。
「いやッ…。してよ、壮士…」
「アユ…」
歩は顔を上げると、決意した表情で壮士の目をじっと見つめた。
「俺のこと、縛って犯して…」
「なっ、なに言ってんだよッ」
余りの驚きに、壮士の目が大きく見開かれた。
「馬鹿なこと言うな…」
だが、歩は再び、激しく首を振った。
「壮士、夢に見たって言ったろ?それと同じことして?俺が嫌がっても、泣いてもいいから……。無理やりでいいから、して…」
歩の目に、見る見る内に涙の粒が盛り上がった。
「そうじゃなきゃ、俺きっと、いつまでもこのままな気がする。そんなのやだよッ…。やだッ…」
しがみ付かれて、壮士は呆然とした表情で歩の身体に腕を回した。
「壮士とセックスしたい…。心では望んでるんだ。だから…平気だから…お願いッ」
そう言って立ち上がると、歩は壮士の腕を引いた。
「来て…」
部屋に入ると、歩は机の引き出しから新しい包帯を取り出した。午前中に薬箱から抜き出しておいた物だった。
それを、歩は壮士に手渡した。
「これで、俺を縛って…」
だが、壮士は差し出されたそれを歩の方へ押し戻した。
「嫌だ。そんなこと出来るかッ」
「壮士…」
「そりゃ、俺は自分でもおかしいと思うぐらい何度も夢の中でアユを犯したよ。けど、それは俺の欲望が暴走して見せた夢なんだ。現実にそんなこと、出来る訳無いッ…」
顔を背けた壮士を見て、歩は決意したような表情になると、来ている物を脱ぎ始めた。
「アユ…?」
戸惑う壮士の目の前で歩は全裸になった。
「俺の身体見て…?女の子と違うだろ?」
「あ、当たり前だろ、そんな……」
「ホントに分かってる?」
「え…?」
歩の泣きそうな顔を見て、壮士は眉を寄せた。
「壮士は、夢の中では俺のこと抱いたかも知れない。でも、現実の俺は壮士が想像してたのとは違うかも知れないよ?俺の身体は女の子とは違う……。それでもホントに壮士は、俺のこと欲しいって思ってくれる?」
歩の言いたいことが分かったらしく、壮士は1度、コクッと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「アユが男だってことぐらい、嫌って言うほど分かってるよ…。小さい頃から中1ぐらいまで、一緒に風呂にだって入ってたろ?それでも俺、おまえの身体を見て欲情したんだ。……だからこそ、こんなにも悩んだんだろ?おまえが傷付くって分かっていながら、拒絶するしか出来ないほど、悩んだんだよ…」
「だったら、して?」
歩の言葉に壮士は首を振った。
「無理やりなんて出来ない。アユの気持ちに準備が出来るまで、俺は……」
「俺……、キャプテンとしたよ」
壮士の言葉を遮り歩が言った。
すると、その言葉を聞いて壮士の顔が強張った。
「2回だけだけど…。キャプテンと最後まで……」
「アユッ…」
聞きたくないと言いたげに、壮士は顔を背けた。
だが、歩は構わずに言葉を続けた。
「キャプテンのこと好きなんだって、必死で思い込んで……。だからいいんだって…、そう思おうとした。だけど…、怖くて、痛くて、……心の中で、壮士の名前ばかり呼んだ」
フッと壮士が顔を上げ、歩に視線を戻した。
「壮士は何時も俺を助けてくれたから、そんな時でも、俺が呼ぶのは壮士のことだけだった……」
「ア…ユ…」
「壮士ならいいのにって、そしたら怖くないのにって……。あの時の俺は、本当にそう思ってたんだ…」
歩は壮士に近付くと、涙を溜めた目で見上げ、その腕を掴んだ。
「今だってそうだよ?ホントに俺、壮士のものになりたい…」
ホロッと、瞬きをした拍子に歩の目から涙が毀れた。
「ア…、アユッ」
壮士の腕が激しく歩の身体を抱き寄せた。
「無理やりにでも抱いて?俺の中に出来た壁を壊してよ、壮士…」